第8話 リューデス村 - 3 -
村は跡形もなかった。家を破壊するように放たれた火は焦げる匂いだけを残し、全てを奪っていった。
村人の気配ももちろん無かった。しかしまだところどころに小さな火が残る様子を見ると、必ずまだどこかに火を放った輩がいるはずだ。焼け地と化した村へ踏み込んだ。
村は無惨だった。
柱は住居の場所を示し、石が井戸の存在を暗示するかのように、かつて生活のために存在していたものは、その能力を失っていた。
子供の遊具や洗濯物の竿が、黒焦げではあるが残っている。つい先ほどまでここに日常があったのだ。
しかし……何かがおかしい。
来た道を振り返ると、フェルデナントたちが追いついたようだった。サラも残ったレオという兵士も馬から降り、呆然と立ち尽くしている。
突然、ガラガラガラと背後の家屋が崩れ落ちた。何者かが身を潜めている可能性を考え、村の入り口に止まる三人に自分が確認にいくことを合図して、屋根から崩壊した家の方へ向き直った。
その全員が私に意識を向けたであろう瞬間、咆哮が聞こた。反射的に骨組が残る家に登り高い視線を手に入れる。
フェルデナントたちに向かっていった3人に加え、村の中で隠れていた奴らは3、4……最低5人だ。最大10人程度は見越しておくべきだろう。
野蛮……という言葉が当てはまる、ところどころ穴が空いた服装で、武器を力づくで振り下ろす。戦う様から訓練を受けていないのが明らかだ。
フェルデナントと兵士がサラを囲むような形で山賊のような輩を相手にしている。
剣の音が響く。
力量に関しては彼がいる限り心配には及ばないが、この匂いといい、相手が何を隠し持っているか分からない現状、余計なリスクは避けたい。
村の中からフェルデナント達に向かう奴らに目立つよう、通りに降り立ち、髪に巻いていた布を取り、大きく息を吸った。
「無用な争いはやめなさい!!!!」
「!? あいつ……髪が黒い……! 黒髪の女がいたぞ!!! あいつだ、捕えろ!!!」
殴りつけるのを目的にしたような剣を持つ男達が一斉に向かってくる。
捕まえられる、というより狩られるといった心境だ。
がしっと必要以上の力で両腕を左右から掴まれ、黒髪を確認するかのように顔を近づけてくる。
「シアラ!?」
サラが動転したかのように、大声で叫んでいるのが聞こえた。
「おぉ、本物の黒髪だぞ!」
「———っ!」
羽交い絞めにされ、髪を引っ張られながらも、フェルデナントの傍にサラが無事でいることを確認した。いったん攫われて、サラから離れるのが得策か。
「まさか本当にいるとはなぁ!カヴァリヤで噂される、異国人!」
「どうしてくれようか。出すとこ出せば、相当な額が手に入る」
金が目当てなのか。
両肩を掴む二人は、やや褐色の肌に濃い茶色い髪で、髭で顔はよく見えないが彫の深い目元はシレンシオ人だと思われる。金の話を出したのは、カヴァリヤ人かエクレール人だろう、シレンシオに比べ色素が若干薄い。
「シアラ、なんで……あいつら、黒髪がどうとかって言ってた。救世主の私が目的だったの? なんでシアラは身代わりのようなこと……ウィッグを貸してくれた時から、まさか……」
「サラ、落ち着いて」
「ねぇ!! フェルデナント!! なんで助けにいかないの!!?? シアラが連れて行かれちゃうよ!!??」
「大丈夫、作戦だ」
「……でも!! あんな大人数で……ねぇ、フェルデナント!!」
「あなたたち、シレンシオ人じゃないのね」
「は? なんだそれ。あぁ、俺の髪の色? そんなのどうだっていいんだよ。髪の色で国籍なんて決まってたまるか」
それは言えてる。けど、今の私にはなんとも返せない状況だ。
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