第7話 漆黒の髪色 - 4 -
夕暮れ時は全てを赤く染めていた。自らの色で人目を楽しませた花達は、今やもはやその形のみが個性である。ただ変わらず美しいのは、夕陽の赤を水しぶきで彩る噴水のみだ。自分の色を持たず誰かに色づけてもらう、不確かで不安定で掴みどころのない水。
「カイは……なんて?」
フェルデナントは知らないふりをする。国の決断を、私が聞いてフェルデナントが知らないわけがない。
「あなたの聞いた通り」
「……だろうね、カイらしい」
「夕食の席では、救世主にその話を?」
「いや、救世主本人については予言書に書かれていることのみを教えておくことになっている」
「……そう」
噴水の縁に隣合って座る。並んだフェルデナントと私の足が、立って話している時より体格差を際立たせる。
私が持てない剣も持てるだろうし、リーチの長さは同じ戦場で戦う人間として羨ましい。
「フェルデナント、何か話したいことあった?」
会って間もないけれど、誘っておいて沈黙を作る男じゃない気がした。
「いや、元気そうならいいんだ。カイと話したと聞いたから」
泣いて出てくかと思った、とからかうような表情をして言った。
「心配してくれてたんだ。ありがとう、でもあれくらい乗り越え済み。もう25なんだから」
「……」
フェルデナントの目が1.5倍は大きくなった。茶色い瞳が全部見える。
「若く見えた?」
「いや、すまない、てっきり救世主と同い年くらいかと」
「影だからって、生年月日が同じな訳ないじゃない。さすがにギリギリだとは思うけど」
「失礼しました」
「17、8じゃ、受け止められないでしょ。……当時は荒れてたし……」
「……まぁそうだろうね……」
お互い、若いころはいろいろとあったのだ。
「でも、俺だったらカイに殴りかかってただろうな」
「見かけによらず、熱い男なんだ」
私だってと思うことを彼ははっきりと言う。
だけど、正直もうこの話はしたくなかった。ぽちゃ、と傍の木から小さな木の実が落ちた。
跳ねた水は私の短く切った髪の襟足に飛び、首筋を濡らす。
「戦場以外で熱いなんて言われたのは初めてだよ」
お決まりの困ったような顔をして、軍服の袖で私の首の滴を撫ぜた。
「……シアラは強いな」
今度ははっきりと、口元に笑みを作ってフェルデナントはそう言った。
初めて近くで見たフェルデナントの顔に小さな傷を見つける。首のすぐ横の袖口から覘く右手はきっと剣だこで固くなっているのだろう。正装の軍服から戦場の生々しい空気が漂ったような気がした。
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