第3話 出発 - 3 -
ゆっくりした挙動にも関わらず、長い足がすっと距離を詰めてくる。
「私は救世主の噂話で沸き立つ国民たちへの対応で、城を離れることができません。予言書通りなら昨日救世主が現れているはずだ、まだ見つかっていないだけかもしれない、などと捜索隊なるものの結成まで城に上申に来るのです」
ここまで一呼吸で言った後、自分が焦っていることに気づき息を整えてもう一度口を開いた。
「フィル・グリューク……ご無事で」
カイは馬上の、フェルデナントの背中に押しつけられたサラの横顔を見上げ、じっと語りかけるように目を見て言った。
「どういう意味? 」
サラが背中にへばりついたまま聞いた。
「幸運を祈る言葉を詠みました。お守りです」
「サラ様、カヴァリヤの人は言葉を“使える“の」
教わったばかりの知識を付け加える。
「意味を知らなければ効きません。今のは……挨拶のようなものです。あるいは、トキのようなものでしょうか……」
カイはそう言うと、何か閃いたように、そうか、とか、あるいは、とぶつぶつと始めた。
「トキというのは、歌詠が戦場で士気を高めるときに使う歌です」
フェルデナントが言葉を繋ぎ、カイはとても勤勉なのですが、こうなるともう誰の声も聞こえなくなるんです、と肩を竦めて笑った。
同行する兵士たちの馬が早く走りたいというかのように、いなないた。
「さぁ、行きましょうか」
フェルデナントの手綱に合わせて、馬たちが城門に向かう。
ここで漸く本に翻弄されてきた私たちの運命の歯車が噛み合った。
私は私を取り戻すため、いや、私とは何かを知るため、もう少し運命に流されてみようと思う。
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