莉奈の想い――新歓大会以後
日付が変わってGWに入った。
GWには実家に帰省するつもりだったけど、こんな全身傷だらけで帰ったら家族に心配させてしまうから、急遽用事ができたと言って帰省するのはやめることにした。
同じ理由で友達に会うことも躊躇せざるを得なかった。
とは言っても大学の友達は多くが県外の子で、GWには帰省するって言ってたし、地元の子も親の実家に帰省したりで予定が空いてない子が多くて、そもそも会えなかった。
それでもこっちで行ってみたいところややってみたいことはたくさんあるから、時間を持て余すことにはならない…………はずだったんだけど、怪我の痛みが思ったより強く残ったせいで、GWの前半は外出できずに家でボーっとすることしか出来なかった。
そんな時、悠斗先輩とLINEだったり電話をしたいと強く思った。でも出来なかった。
なぜなら知ってしまったから。悠斗先輩に彼女がいることを――。
病院を出て悠斗先輩、龍平先輩と食事をし、家に帰った私はスマホを見て、サークルの友達から私を心配するLINEがたくさん来ていることに気づいた。
私は軽傷で済んだことを伝えて、多くの人は「良かった~」といった返事が来てトークが途切れたけど、数人とはその後もトークが続いた。その内の一人とのトークでのことだった。
「莉奈大丈夫だった?」
「うん、軽傷で済んだよ。心配してくれてありがと~!」
「良かった~。莉奈が倒れて動かなくなった時、心配になって私泣きそうになっちゃったもん」
「心配かけてごめんね」
「いいよいいよ、莉奈が謝ることじゃないから。悪いのは栗原なんだから。顔に全力のショット当てるとかホント最低。莉奈の可愛い顔に傷つけたのマジで許せない」
「私そんなに可愛くないよ。そういう香住ちゃんの方が可愛いよ!」
「そんな謙遜しなくてもいいのに。私より莉奈の方が10倍可愛いよ」
「それにしても、栗原なんかと違って浅田先輩はさすがだよ。なんていうか紳士的だし頼れるし。特に莉奈を担架に乗せるためにお姫様抱っこしたところとかカッコよ過ぎて見てるだけでキュンとしちゃった! やっぱ林先輩みたいな綺麗な人を彼女に持ってるだけあるなぁ」
え?
私は思わず画面を二度見した。
「悠斗先輩って彼女持ちなの?」
「そうだよ。浅田先輩は理学部の林夢乃っていう2年の先輩の彼氏だよ。理学部じゃ学年違っても一度は話を聞くくらい有名なカップルだよ」
「へぇ~、そうだったんだ」
「もしかして莉奈、浅田先輩からテニス教わってるうちに先輩のこと好きになっちゃったの?」
「ううん、そんなことないよ」
まさに図星だった。
悠斗先輩に彼女がいたことを知ったショックが大きすぎて、私は放心状態に陥った。おかげでこの後も少しトークは続いたけれど、内容が全く頭に入ってこなかった。
それから数日はひたすら怪我の痛みと心の痛みに苦しまされることとなった。
怪我が痛むせいで長時間の外出は出来ず、悠斗先輩と話して気を紛らわすことも出来ない。彼女持ちの人にそう頻繁に連絡をしては迷惑になってしまうかもしれないから。
私はただ涙を流すばかりだった。
***
GWが明けて、また大学のある日々が戻ってきた。
怪我の痛みは日が経つにつれて和らぎ、GW後半には長時間外出することが出来るくらいにまで回復した。心の傷も少しずつ癒えて、私の想いがすぐに悠斗先輩に届くことはないけど、もしかしたらいつかは届くかもしれないから、それまではただのサークルの先輩後輩として仲良くしていけばいいと思えるようになった。
早速GW明け初日に、講義が終わった後サークルへ行こうと思った。
あんなことがあって、いきなりテニスをするのは辛い気もするけれど、テニス自体は好きだし、サークルに行けば悠斗先輩に会える。
だから、家を出る時にラケットを手に取った。
ラケットを握った瞬間、あの時の記憶が蘇ってきた。けれど、苦しくはならなかった。
よし、大丈夫。
そう思ったけど、何かがおかしい。なんだろう?
すぐに違和感の原因に気が付いた。
腕が、足が震えていた。
そして、遅れて怖いという感情がものすごい勢いで湧いて来て、震えも激しくなった。
ラケットを握っていられなくなって、ラケットを手放し、私はその場にうずくまって泣いた。
GWの間ずっと悠斗先輩に会いたかったけど会えなかったから、悠斗先輩に会いたい。彼女としてじゃなくて後輩としてで十分だから、悠斗先輩に甘えたい。
テニスだってしたい。もし今度また栗原君と戦うことになる時があったら、その時勝てるくらい強くなりたい。
だから、サークルに行きたい。
なのに、怖いと思う気持ちに心と体が抗えない……。
結局どうにもならなくて、この日はサークルに行くことを断念することにした。家を出るのが遅くなったから、授業にも遅刻してしまった。
次の日もラケットを握ってみたけど、また震えが止まらなくなって、諦めざるを得なかった。
その日の夜、悠斗先輩からLINEが来た。
「莉奈大丈夫? ひょっとしてテニスがトラウマになっちゃった? 辛かったら俺で良かったら話聞くよ」
LINEを見た時、すぐさま悠斗先輩に甘えたいと思ってしまった。でも、あまり彼女持ちの悠斗先輩に他の女子の心配をさせるのは良くないと思って、私は強がることにした。
「トラウマにはなってないから大丈夫ですよ。ただ、まだ怪我の痛みが完全に引いてなかったから大事を取っただけなので、近いうちにサークルに顔を出せると思います」
文章を打っていて、すごく辛かった。
早くサークルに行きたくて、それ以降も毎日ラケットを握ってみたけど、一向に震えなくなる気配がしなかった。
そうして2週間経ったある日、大学構内を歩いていると、彼女さんと楽しそうに話しながら歩いている悠斗先輩を見かけた。
悠斗先輩の彼女さんは香住ちゃんが言っていた通り、すごく綺麗な人だった。艶のあるセミロングの茶髪――。
悠斗先輩って女子の髪型はセミロングが好みなのかな? だったら私、髪が伸びてきたから切ろうと思ってたけど、切るのやめようかな。色は茶色にしたら露骨過ぎるからこのまま黒にしよう。
二人を眺めながらそう思った。
それから悠斗先輩が彼女さんといるところを眺めていたら胸が苦しくなってきたから、私は二人が向かっている方向とは逆の方へ去っていくことにした。
悠斗先輩が彼女さんといるところを実際に見たことで、私の心の中に変化が生じた。
あの様子だと悠斗先輩と彼女さんは関係が良好で、先輩も幸せそうだったしきっとすぐには別れないだろうなぁ。だったら、このまま悠斗先輩を追い続けても辛くなるだけだし、トラウマのせいでサークルに行けなくなっちゃったから、いっそのことサークル辞めて先輩のことも諦めようかな。
こう思うようになっていた。
だから、悠斗先輩のことは忘れよう。悠斗先輩のことを考える度にそう自分に言い聞かせるようにした。
けれど、なかなか悠斗先輩のことを忘れることは出来ず、サークルを辞める決断も出来なかった。
そしてサークルに行かず、悠斗先輩に会っていない期間が約1か月となったその日。
「莉奈久しぶり。最近サークルに来てなかったから心配してたけど、ひとまず元気そうで良かったよ」
私は悠斗先輩に話し掛けられた。
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