トラウマ
新歓大会が終わるとGWに入った。
GWの間はサークル活動は休みになるので莉奈と会うことはなく、また、特に用事がなかったため、連絡することもなかった。
あんなひどい目に遭ったのだから怪我はもちろん、精神的ダメージも心配だったが、怪我は打撲で済んだようだし、あの日別れる直前には笑顔を見せていたからきっと大丈夫だろう。そう思っていた。
だが、GWが明けた木曜日。いつも木曜日はサークルに顔を出していた莉奈が来なかった。
この時はGWを挟んだと言ってもまだ新歓大会から1週間も経っていなかったから、怪我が治っていなくて行くのをやめたのだと思ったし、実際心配になって後からLINEで聞いた時に本人もそう言っていた。
けれど、それから2週間経っても莉奈がテニスコートに姿を現すことはなかった。
「今日も莉奈来なかったね」
「あぁ。やっぱり莉奈ちゃん、トラウマになっちゃったんかなぁ」
5月中旬のある日、サークル活動の後に寄ったファミレスで俺は山本と夕食を取りながら話した。
「前にLINEで聞いたときは怪我が治ったら行くって言ってたし、完治するまでこんなに長くかかる怪我ではなかったと思うから、多分トラウマになっちゃったんだろうね」
「となると、病院の帰りにファミレスで話してた時は、俺たちが心配しないように強がってたのかもな~」
あの日ファミレスで話した時、莉奈は
「確かにすごい辛かったし、怖かったけど、トラウマにはならないと思います。だってテニスは好きだし、怖い気持ちより悔しい気持ちの方が大きいですから!」
と言っていた。
だから俺たちはきっと大丈夫だと思ったが、受けた心の傷はやはり大きかったということか。
「そうだね。あんな仕打ちを喰らってトラウマにならない方が無理があるんだし、変に強がらなくて良かったのに」
むしろこっちとしてはそんな無理をされる方が辛い。
本人が辛いことを認めてくれなければ、苦しんでいると分かっていても何もしてあげられない。だからと言って、やっぱりトラウマになってるんじゃない? と聞く訳にはいかない。
それに新歓大会に出場することを勧めたのは俺たちで、そうして出場した結果こうなってしまった訳だから罪悪感に苛まれていて、力になってあげられないのが悔しい。
結局この日もただ莉奈を心配することしか出来ず、俺たちは揃ってため息をついた。
***
そうしてGWが明けてから3週間が経つというところで、ついに状況に変化が生じた。
その日俺は1限に講義を受け(理学部の専門科目だけれど夢乃は取っていない)、2限の般教の講義の教室へ移動していると、一人で歩いている莉奈を見つけた。最後に会ってから1か月近く経ち、長めのショートボブだった髪はセミロングまで伸びていたが、間違いなく莉奈だった。
俺は迷わず莉奈に話し掛けた。
「莉奈久しぶり。最近サークルに来てなかったから心配してたけど、ひとまず元気そうで良かったよ」
莉奈は驚いた表情で俺を見ると、今度は少し辛そうな顔をして、「ごめんなさい」と言って逃げるように走り去ってしまった。
え?
こんな反応をされるとは思ってもいなかった俺は呆気にとられた。
こういう時って追いかけた方がいいのだろうか?
少し悩んだが、走り去ってしまう直前の莉奈の辛そうな表情を思い出し、追いかけることにした。
話を聞くことくらいしか出来ないと思うけれど、何かしてあげたい。
次の講義への出席を諦め、俺は莉奈が走っていった方へ駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます