第1章 サークルの後輩編
テニスサークル(テニサー)
新年度が始まって、サークルの新歓活動や宗太の件もあって慌ただしい生活を送っていると、四月も下旬に入っていた。
学年が一つ上がって、サークル内での立場は少し変わったけれど、それ以外の大学生活では受ける授業が変わったくらいで特に大きな変化はなかった。
今日も夢乃と生協食堂で昼食をとってから、一緒に3限の講義を受ける約束をしていて、食堂の前で夢乃を待っていた。
「おはよう、悠斗」
「おはよう、っていうかもうこんにちはだね」
「確かに。もうお昼だもんね。じゃあ訂正してこんにちは」
「わざわざ訂正しなくてもいいのに。んじゃ、行こっか」
食堂に入ると、まだ2限の最中とあって、そこまで混んではいなくて、席を取るのに苦労はしなかった。これが昼休憩真っ只中だったら大混雑して席が全く空いていなかったに違いない。
荷物を席に置き、貴重品を持って昼食を買いに行く。
生協食堂は好きなおかずを選んで取っていく方式になっていて、おかずの種類は豊富にある。俺はハンバーグとライス、それからサラダを取り、夢乃はきつねうどんを取った。
「夢乃ってGWはもう何か予定入ってたりする?」
ご飯を食べながら、俺は夢乃に聞いた。
「私は4日に友達と遊ぶ以外にはまだ何も入ってないよ」
「なら、3日に遊びに行かない?」
「うん、行こ! どこに行くかはもう考えてある?」
「夢乃と一緒に考えようと思ってたからまだだよ。夢乃はどこか行きたいところある?」
「う~ん、あり過ぎて困っちゃうなぁ~。逆に悠斗は?」
「俺も悩むな~」
行先をそんなにあっさりと決められる訳がなく、この話題で盛り上がっていたら危うく講義に遅れそうになった。
***
3限の講義では最後に小テストがあって、それを解き終えた人から帰って良いことになっていた。それで俺の方が夢乃より先に解き終えたから、廊下に出て教室の前でスマホをいじりながら夢乃が出てくるのを待った。
3分ほどして夢乃が出て来た。
「ごめん、おまたせ」
「全然気にしなくていいよ~」
「でも悠斗って今日サークルあるんでしょ? 私を待たずにそっちに行ってくれても良かったのに」
「別にそこまで急いで行く必要はないから大丈夫だよ」
テニスコートと更衣室は構内にあって、ここからそこへ行くルートは途中まで夢乃が帰るルートと同じだから、そこまで一緒に歩いた。
付き合って最初の頃は大学構内ではいつ知り合いに見られるか分からないから恥ずかしくて手を繋いで歩くことは出来なかったが、今では周りからの好奇な視線に慣れて、大学構内でも手を繋いで歩いている。
「いつも思うんだけど、テニサーはラケットをサークルの更衣室に置いていけるのいいよね~」
夢乃が俺を羨むように呟いた。
夢乃が所属しているバドサーはラケットを置いていくのは禁止されているらしく、サークルの活動がある日はラケットを持ち歩いている。
「置いていけるって言っても行く日の講義の間置いていいってだけで、置きっぱなしはだめだけどね」
「それでも置いていけるだけ十分だよ。来年になったらサークルの役職に就いて、ラケット置いていけるようにしようかな~」
他愛もない会話に興じていると道の分岐点に着き、ここで夢乃と別れ、俺は更衣室に向かった。
更衣室はテニスコートに併設されていて、テニスコートと共にうちのサークルだけが使用している状態だ。西城大学には体育会テニス部もあるが、ここはボロいというのもあって、そちらは学外のもっと設備の整った施設で練習している。
「よっ! 浅田はもう一緒に打つ相手決まってる?」
着替えていると、同学年で工学部の山本龍平に声を掛けられた。
「いや、まだ」
「じゃあちょうどいい。一緒に打とうぜ」
「OK。もう少しで着替え終わるから、ちょっと待ってて」
「分かった。じゃあ空いてる8番コート取っておくから、着替えたら来てくれ」
そう言うと山本は更衣室から出て行った。
着替えてテニスコートに出ると、10面あるコートの内の4つに人が入っていた。3限終わりでこの様子なら今日は比較的来ている人が多い。4限が終わればきっとすべてのコートに人が入るだろう。
それに今は新しく入った一年生の中で、大学始めの子に教える必要があるから、その影響で俺たち上級生が満足に使えるコートの数が少し減るから、1コート丸々使えるのは今のうちしかない。
8番コートに向かうと、山本がストレッチをしていた。
「悪い、待たせたな」
「おうよ。んじゃ、ストレッチ終えたらやるか」
二人とも入念にストレッチをした後、まずは軽くフォアのラリーから始めた。
「そういえば、今のところ1年生何人入ったんだっけ?」
「男女合わせて30人くらいだな」
「じゃあ去年とほぼ同じくらいになりそうだな」
俺たちの学年は35人いて、去年の今頃は30人で、あと1週間ある新歓期間の内にもう5人入ったから、今年も多くてあと10人くらい入るだろう。
「でも、浅田ほど強い人は一人いるかどうかだな」
「いや、俺言うほど強くないって」
「いやいや、謙遜すんなって。お前高校の時県大会までいったんだろ?」
「まぁそうだけど、あれは本当に運が良かっただけだよ」
高3の夏の大会で、県大会出場者決定戦まで勝ち進んだ俺は、県内でも名の通った人と県大会出場を懸けて戦うはずだったのだが、直前になって相手が体調不良で棄権し、それで県大会出場が決まったのだ。
ちなみにその次の試合で負け、県大会では3回戦で敗れた。
「いやいやいや、県大会出場が運のおかげだとしてもそこまで勝ち上がれる時点ですごいし、実際一緒にやってて上手いと俺は思うよ」
「それはどうも」
フォアの次はバックでラリーをして、それから徐々に強度を上げていった。
そして1時間くらい打ち続けたところで、一旦休憩することにした。
「なぁ、休憩中悪いんだけど、ちょっといい?」
コート脇で水分補給していると、3年生の男の先輩に声を掛けられた。
「どうしたんですか?」
「新入生の中で一人、言い方は悪いかもしれないけど運動音痴の子がいて、これまで何人かが教えたんだがなかなか上達しなくてな……。浅田と山本は今いる上級生の中でもかなり上手い方だし、ちょっと教えてあげてくれないか?」
山本と顔を見合わせ、互いに頷いた。
「いいですよ。どの子ですか?」
「今3番コートで南が球を出してあげてるあの子なんだ」
そう言って先輩が指さした先にいたのは、小柄でショートボブの女子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます