第5話
僕と黒崎さんが『鼻キス』を交わした途端、
……シュバァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
その間から、まばゆい光が溢れだす。
「わあっ!?」と顔を離す黒崎さん。
「落ち着いて、カード化は成功したよ」
僕と黒崎さんの間には、1枚のカードがクルクル回っていた。
箔押しされていて、星のようにキラキラ光っている。
どうやら、かなりの高レアリティカードのようだ。
「うわぁ……!」と目を輝かせる黒崎さん。
カードはゆっくりと落ちていき、僕らは手を繋ぎ合ったままで、それを受け止めた。
「うわぁ……! 『魔女っ子マコ』だって! すごいすごい! すごーいっ!」
黒崎さんは大喜びでカードをすくいあげ、まん丸の瞳で覗き込んでいる。
カードは上のほうにカード名があって、その下んはカードの外見を示す正方形の窓のようなものがある。
黒崎さんのカードの絵柄は、カードを覗き込んでいる彼女の後ろ姿だった。
「すごい、このカードの絵、私の動きにあわせて動いてるよ!? まるでカメラで撮ってるみたに!」
「うん。カードの絵は、その人の姿をリアルタイムで映したものになるんだよ。
だから黒崎さんと僕が離ればなれになったとしても、どこで何をしているかがわかるんだ」
すると黒崎さんは、「えっ」と目を点にした。
「……それってもしかして、24時間、どこでなにをしていても見えちゃうの?」
「うん、そうだよ」
「えっ……えええっ!?」
肩まで伸びたロングヘアを逆立てんばかりに驚愕する黒崎さん。
「どうしたの、そんなにビックリして」
「まさかお風呂に入っててても、お手洗いにいても、ぜんぶ見えちゃうのっ!?」
「あ……!」
僕は黒崎さんが驚いていた理由をようやく理解する。
その時にはすでに、彼女に詰め寄られていた。
「どうなの、塚見くんっ!? 見えちゃうの!? それとも見えちゃわないの!?」
「え……えーっと……。
これはトムの場合だけど、風呂に入ってても、トイレに入ってても、見えてたかなぁ……」
トムは家族が風呂に入っているときに、フタの上で寛ぐのが好きだ。
僕は自室にいながら、カードのフレームごしにそんなトムを何度も見てきた。
そしてトイレの最中に呼び出すのはかわいそうだから、トムが猫トイレに入っているときだけは召喚しないようにしている。
僕のカードになったばかりの黒崎さんは、その事実に真っ白になっていた。
「う……うそ……24時間見られちゃうだなんて、そんな……!
なんでそんな大切なこと、最初に言ってくれなかったのぉ!?」
「ご、ごめん! 黒崎さんに言われるまでぜんぜん気付かなかったんだ!
今なら、カード化を取り消すこともできるから……!」
黒崎さんは口を波線にして、「うにににに……!」と唸りはじめる。
まさか彼女は怒りこそすれ、悩んでいるだなんて僕には思いもよらなかった。
「とっ、取り消さない! 言ったでしょ!?
いちど決めたことを途中でやめるのが大っ嫌いだって!」
「ええーーーーーーーっ!?」
仰天する僕をよそに、黒崎さんは背負っていたリュックからメモ帳を取り出す。
目を吊り上げながらガリガリとメモったものを、ビリッとやぶって僕によこしてくる。
そこには、いくつかの時間が書かれていた。
「そこに書いてある時間帯のときは、ぜったいにカードを見ちゃダメ!
あと、私がこうやって『バッテン』を作ったときは、10……いや、30分は見るの禁止!
わかった!? 見たら絶交だからね!」
僕は必死になって首を縦に振り回す。
「わ、わかった! 見ないようにする!」
次に黒崎さんはスマホを出してきた。
「塚見くん、『レイン』やってるよね? なら連絡先を交換しよう」
『レイン』というのはメッセージをやりとりできるスマホアプリのことだ。
「えっ……いいけど、なんで?」
「だって私は塚見くんのカードになったんだよ? いざという時のために、連絡先を知りたいと思って。
ほら、早く早く!」
僕は彼女に急かされるままにスマホをポケットから取りだし、『レイン』でお互いを登録した。
考えてみるとこれは凄いことだ。
なぜならば彼女は、クラスの誰にも連絡先を教えていない。
そりゃそうだろう。
もしクラスメイトから彼女の連絡先が漏れたりしたら、大変なことになっちゃうから。
僕は事の重大さに今更ながらに気づき、核爆弾のスイッチを手に入れたみたいに震えてしまう。
黒崎さんは拳を握り固め、フンスを鼻息を荒くして僕に言った。
「塚見くん! それじゃ、私を召喚してみて!」
「えっ、今すぐにかい?」
「うん! だって敵が出てきたときに初めての召喚じゃ、どんなトラブルがあるかわからないでしょ!?」
「それもそうだね。でもその前に、ひとつだけ許してほしいことがあるんだけど……」
「なあに?」
「カードマスターは、カードの名前を呼ぶんだけど、それは呼び捨てじゃないこと効果が発揮されないんだ」
「なんだ、そんなことか。そんなこと、私に聞かずにいくらでも呼び捨てにしてくれていいよ!」
本人の許可を取り付けたので、僕は安心して彼女の名を呼ぶことにする。
『魔女っ子マコ』のカードを投げ、叫んだ。
「……いでよ、マコっ!」
すると僕の近くにいた黒崎さんの身体がパッと消え去り、宙を舞っていたカードが拡大した。
大きな窓のようになったカードフレームから、朝日が差し込むような光が放たれる。
その輝きの中で、僕は見た。
真っ白な光に包まれた、彼女の一糸まとわぬを。
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