再会ってことでいいんですよね?
ヒトスジー軍が行動を開始した。
風魔導士が強風を発現させ、城門に向かって突進して来る敵兵の勢いを止めている。それでも進んで来る者にはその足元近くに、火魔導士と水魔導士が威嚇の魔法を打ち込んでいる。
前回のターンでは——
水魔導士が敵城門を破壊し、火魔導士が敵兵に炎をぶつけ、風魔導士がその炎を風の力で押し広げ、そこにある人・物、すべてを焼き尽くした。
我々人間族軍はその様子を見て………… 歓喜の声を上げていたのだ……
それが前回のターンでの、当たり前の光景であった。
「女神様のご威光を!!!」
ヒトスジー軍の兵士が口々に叫んでいる。
確かに前回のターンでも、ヒトスジー軍をはじめとした人間族軍は、好んでこの言葉を使っていた。
しかし前回と今回では、この言葉の意味するところが全く異なっている。
そう、全く異なっているのだ。
女神様は敵を殺めるのではなく、すべての人を生かせとおっしゃっているのだ!
「うぉぉぉーーー!!! 女神様のご威光を!!!」
天界に鎮座まします慈愛の女神テラ様に届けとばかり、ヒトスジー軍の兵士に負けじと俺も力の限り大声で叫んだ。
♢♢♢♢♢♢
どうやら戦況は落ち着いてきたようだ。
城門付近に近づいた敵兵は、城門の上部にいるホニーたちヒトスジー軍から放たれる初級火・水・風魔法を受け、それ以上の前進を阻まれている。
パイセンが担当している中央軍右側から右翼軍にかけては、既に敵の進軍は止まっていた。
流石はパイセンだ。
よし、これでまずは一安心だな。
しかし、俺が引き受けた敵左翼軍の兵士たちの戦意は、まだ落ちていないように見受けられる。
味方の
おい、かなり乱暴に味方を踏みつけて前進しているヤツがいるぞ。
これはちょっと危ないんじゃないか?
味方に踏みつけられて命を落とす兵士の姿なんて見たくないぞ。
俺はこれからも、女神様とふざけ合っていたいんだ。
ここで死人なんて出してしまったら、もう女神様の笑顔が見られなくなっちまうじゃねえか。
俺はもう少し後方の敵にもスノーシャワーを食らわすことにした。
再び敵左翼軍目掛けて右方向に飛翔する。
さあ、また上空からたっぷり魔法を浴びせてやろう。
俺が上空から再攻撃を始めると、地上からヒガシノ国軍兵士の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「止まるな! ここで止まれば、冷酷非道なインチキ王に故郷を蹂躙されるぞ!」
……いや、俺、アンタの故郷にヒドイことするつもりなんてないんだけど。
どうやらかなりの情報操作が行われているようだ。
「凍らされたら最後、インチキ王は俺たちを食っちまうつもりだぞ!」
……アンタらを食うほど、ウチの国は食料に困ってネエよ。
これって、最大限の侮辱だよ。これ以上の侮辱はないよ。
「ここで止まれば、お前らの幼い娘や妹は、インチキ王にイヤラシイことをされちまうんだぞ!」
…………これ以上の侮辱があったよ。
誰だ、今言ったヤツ!!! ブッ殺し…… はしないが、せめて朝まで説教してやる!!!
と、思ったその時——
「黙りなさい! それは誤った情報だと、何度も言っているでしょう!
という女性の声が、敵軍の中から聞こえてきた。
ほう。混乱の極地にある敵軍の中にあって、冷静な判断を下せるヤツもいるようだ。
何より、俺のロリコン疑惑を否定しているところが、とても素晴らしいと思うぞ。
今、俺の眼下には敵がウジャウジャいるため、ユニークスキル『人物鑑定』が使いにくい状況にある。無理して使うと人名やらレベルやらがわんさか目に飛び込んできて、キモチワルくなってしまうのだ。
ならば、ここは自分の目でしっかりと、その
「あああああっっっっっっ!!!」
俺は思わず大声で叫んでしまった。
あ…… あの人はまさか!!!
いや、間違いない!!!
「あ、あなたは、ナミダーメさんじゃないですか!!!」
さて、ここで少し思い出していただきたい。俺が初めてこの世界に降り立ったハジマーリの街に、特別な3人の女性がいたことを。
その3人とは、攻撃魔法の使い手である冒険者のナミダーメさん、短剣と索敵を得意とする獣人族のミミー、それからついでに、治癒魔法を使うそうだがまともに使っていやがるトコなんて見たこともない破廉恥神官バインバイーンのクソ野郎、以上の面々である。
転生者特典の一つである『あなたにパーティメンバーをオススメしちゃうぞ特典』——だったっけ? まあ、そんな感じのフザけたネーミングだったと思う—— を女神様から与えられた俺は、この3人の中から確実に一人、自分のパーティメンバーに加えることが出来たのだ。
前回のターンでバインの厚顔無恥野郎を選んでしまった俺は、その後…… とても後悔した。
後の対魔人族戦役でナミダーメさんと再会したとき…… 俺は更に心の底から激しく後悔したのだ。『
後悔した理由はとても簡単だ。
戦場に立ったナミダーメさんはとても凛として、この世のものとは思えないほど美しかったのだ。
そりゃもう、俺の心をグワッと音がするほど鷲掴みにされてしまったのだ。
今回のターンでは、もしミミーと出会うのがもう少し遅ければ、きっと絶対必ずナミダーメさんに声をかけていただろう。
今となってはミミーに悪い気もするんだけど、実際ミミーとナミダーメさんのどちらをパーティメンバーにするか悩んだぐらいだからな。
でも、ヒガシノ国の魔導士であるナミダーメさんが、どうしてこんな戦場にいるのだろう。
ヒガシノ国の国王が、今回の遠征に際して同国に在住する魔導士を強制的に徴発したのだろうか。
俺が空中を漂いながら、そんなことを考えていたその時——
ポカーンとした顔で俺を見つめていたナミダーメさんの唇が静かに動いた。
「えっと…… どちら様でしたっけ?」
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