やりがい搾取?
さて、 委員長のつぶやきのおかげで、なんとか心の平穏を保てた俺は、アイシューに促され委員長共々空いているパイプイスに腰掛けた。
俺、アイシュー、委員長の3人と、テーブルをはさんで黒い服を着たおっさんたちが4人座っている。
対面に座るおっさんたちは、委員長をチラチラ見ながら『ヤバい』という顔をしている。
そう言えば、委員長はニシノ国の教皇たちに、いろいろと騙されたって言ってたからな。
……なんだか空気が重い。委員長ってば、思い切りおっさんたちを睨みつけてるし。
それから、ホニーがいないんだけど……
でも、ホニーの所在を気楽に尋ねる雰囲気じゃないんだよな。
ひょっとして、また日本から来た転生者でも探しに行ったのかな?
まあ、アイシューが気にしていないようなので、きっとそのうち帰って来るのだろう。
ここで、この重苦しい雰囲気を打ち破るかのように、
「アイシューさん、私のことはどうぞお気になさらずに」
と、委員長が低い声で発言したため、
「それでは——」
と、ひと言述べてから、アイシューがスクッと立ち上がり、そしてチラッとおっさんたちの顔を見る。
「お伝えしたいことがたくさんありますが、まずはここにいる4名について、カイセイさんに紹介します」
どうやら国王就任騒動の経緯なんかを説明する前に、まずはこの4人のおっさんたちの身元について説明を始めるようだ。
「えっと、この方々は…… 虫ケラのみなさんです。別名、教皇と正統聖堂会の幹部たち、とも言います」
とても凛とした声で、アイシューがおかしなことを言い出した。
「アイシュー。お前、いったい何を言ってるんだ?」
目の前にいる少女は、本当にアイシューなのか?
実はアイシューのそっくりさんだったりするのか?
「違うの! もう、委員長さんまで、そんな目で見ないで下さい! この人たちは虫ケラとかゴミクズとか呼ばないと、ちゃんと働いてくれないの!」
アイシューの叫びを聞いたおっさんの一人が、鼻息荒く反応する。
「おうふっ! 刺さります、刺さりますぞアイシュー様! 流石はマエノー様が後事を託された方だけのことはありますぞ!」
「なに言ってんだ、このおっさん? このおっさんが、えっと…… 虫ケラのうちの一人で別名教皇ってことなのかな?」
困惑気味に俺は尋ねると、
「そうよ! この人たちってみんなドMなんだけど、教皇とか幹部とか言うだけあって、仕事振りは優秀なの。だから扱いに困るのよ!」
と、
これは一刻も早く、アイシューを連れて帰るべきだと思ったその時——
『あれ? カイセイさんと委員長さん、どうしてニシノ国にいるのですか?』
天井越しに、女神テラ様の声が天空より響いてきた。
「あ! テラ様…… あ、いや、女神の使徒コテラ様…… あれ? 使徒じゃなくて巫女だっけ?」
ここでもテラ様は、使徒とか巫女とかややこしい設定にしているのかな?
「いいのよ、カイセイさん。教皇はじめここにいる人たちはみんな、この声の主がテラ様だって知ってるから。そうですよね、みなさん」
と、アイシューが口を開いたのだが……
「……………………」
なぜだか、誰も応えない。
「……はいはい、わかりました。わかりましたよ。ここにいるゴミクズどもは、みんなテラ様のことを知っていやがるんです。これでいいでしょ?」
アイシューの言葉を聞いた教皇が、やれやれといった表情でつぶやく。
「アイシュー様。ここはもう少し強めに罵倒していただいた方が、我々の勤労意欲も上がるというものでして」
それを聞いた委員長が、ため息混じりに
「……アイシューさん、とても苦労されているのですね。今まで本当にご苦労様でした」
俺も流れ落ちそうな涙を
「アイシュー、何も言わずに、インチキ王国に帰ろう…… なあに、時間が経てば辛かった思い出も、いつか忘れるさ」
委員長と俺は、心の底から
「ちょ、ちょっと待って下さい。私だって、今すぐこの淀んだ空気に満ちている空間から立ち去りたいんですよ? でも、これはテラ様やマエノー様とお約束したことなので……」
「おい、ちょっと待てアイシュー。なんかここに来るまで、アイシューが王様だか女王様だかになったって、みんな騒いでたんだけど…… まさかお前、女王様は女王様でもSMの女王様になったのか! おい、ポンコツ女神様! アンタいったい、アイシューに何をやらせて…… ゴブッ!!!」
隣に座る委員長から腹パンをくらった。
とても痛い……
委員長は女神様から筋力上昇系のスキルをもらっている。
だから、本人からすると軽く小突いたつもりでも、くらった方はたまらなく痛いのだ。
「岸さん! テラ様になんてことを言うんですか! テラ様が、そんなことをおっしゃる訳ないでしょ!!!」
『そうですよ。まったく、カイセイさんは本当に脳みそが、どうしようもなく腐っているんだから』
『腐っている』という言葉に一瞬反応した委員長が、ピクッと眉を動かした。
もちろん俺は見ないフリをした。
大丈夫だ。委員長の秘密は絶対に守ってやるからな。
だから、次からは腹パンを繰り出す前に、ひとこと言ってくれよな。頑張って回避するから。
「『えすえむ女王』とはどういう意味なのか、この件についてはまた改めてホニーに確認するとして——」
若干イラっとした表情でそう前置きしたアイシューは、ようやく今の状況に至るまでの経緯について話始めた。
アイシューとホニーは、女神の使徒に降格させられた前女神マエノー様と一緒にニシノ国に来た。
それからいろいろあって、最終的にアイシューは、マエノー様からニシノ国の統治を任された。
「まあ、ホニーに任せたらエラいことになるだろうからな。いや、なんでもない、続けてくれ」
マエノー様は自分の考えを全聖堂会に向けて発信した後、自分の勤務地? に帰ってしまった。
それからなんと、マエノー様は日本から来た転生者だと言うではないか。更には、マエノー様とパイセンは、高校時代の同級生だなんて話まで飛び出した。
「パイセンのヤツ、そんなことひと言も言わなかったじゃないか…… すまない、ひとり言だ、続けてくれ」
我々と敵対関係にあると言っていい黒いフードを被った男は、国境の山脈を西に超えて森林族領に帰った可能性が高い。しかし、まだニシノ国に潜伏している可能性もある。
それから、教皇たちニシノ国の幹部と、黒いフードを被った男はやはり協力関係にあったという。
「その可能性はあるかな、とは思ってたけど…… まあいい、それから?」
マエノー様は小学生の頃、学芸会で木の役しかやらせてもらえなかった。
「その情報、必要か?」
最後の話以外、アイシューの口から語られた真実は、俺と委員長を大いに驚かせた。
「それでホニーは、『実務的なことは、クローニン宰相にでも丸投げすればいいのヨ!』なんて言ってたんだけど……」
「ちょっと待てよ。自慢じゃないがウチの国は、只今人材不足の真っ最中だぞ」
「そうよね。後になって冷静に考えたら、インチキ王国から人材を送ってもらうのは難しいって、私も思ったの。そうしたら、ホニーってば今度は『じゃあ、ヒトスジー領から文官を回してあげるワ!』なんてエラそうに言ったくせに、まったく回してくれないんだから」
「まあ、ホニーは見栄っ張りの
「ええ。だから、この人たち、いえ、えっと、何というか……」
「俺が代わりに言ってやるよ。この『ゴミクズども』に、しばらく頑張ってもらうことにしたって訳だな」
俺の言葉を聞いた教皇が、顔面を真っ赤にして叫んだ。
「余計なこと、言うんじゃねえよ!!! ご褒美を一つ、もらい損なっちまったじゃねえか!!!」
今日一番の大声だった。
どうやら俺は、この人たちのやりがいの
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