ニシノ国の統治者アイシュー 編
アイシューと再会
「岸さん、あの建物が聖堂会本部です」
ニシノ国の首都上空に到着した俺は、隣を飛翔している委員長から説明を受けたのだが……
なんだこの立派な建物は?
これはもう、宗教施設というより王宮と言ってもいいと思う。
聖堂会本部の周りも、多くの民衆で埋め尽くされている。
みんな興奮気味に『万歳!!!』と叫んでいるじゃないか。
「なあ委員長、ちょっと待ってくれよな。今、ユニークスキル『広域索敵』と『人物鑑定』で調べてるところで…… あっ、いた! やっぱりアイシューは、この建物の中にいるぞ。最上階だ、最上階にアイシューがいる!」
入り口付近は民衆で埋め尽くされているため、さてどうやって中に入ろうかと思案していると、
「じゃあ、最上階の窓の辺りに近付いて下さい」
と、こともなげにつぶやく委員長。
「出来れば無駄な戦闘は避けたいんだけど……」
強引に建物内部に突入して、いつものように魔法を連発、なんてことをしたら、アイシューの立場が悪くなるかも知れないし。
そんな俺の思惑を察知したのか、
「私はこれでも、元ニシノ国の聖騎士ですよ? 建物の中にも知り合いの一人や二人はいると思いますので、きっと中に入れてくれると思います。もしかすると、戦場から奇跡の生還を果たした英雄として、大歓迎してくれるかも知れませんよ、ふふふ」
と、ニッコリ笑う委員長。
そう言えば、委員長が自分の意志でニシノ国から出奔したってことは、みんな知らないんだよな。
それじゃあここは、委員長にお任せするとしますか。
♢♢♢♢♢♢
委員長が窓に向かって手を降っている。
どうやら、建物の中に知り合いの姿を認めたようだ。
慌てた様子で窓を開けた兵士が、驚きの声を上げる。
「キ、キララ様ではありませんか! ご無事だったのですね!」
「ええ。いろいろあって、直ぐにニシノ国へ戻ることが出来なかったのです」
「我々は信じていましたよ。キララ様が、あんな成り上がりの変態偽国王に遅れを取るはずがないと!」
確かに他人から見れば、俺は成り上がり者なのかも知れない。
しかし、決して変態ではないと声を大にして言いたい。
でも、今騒いだら面倒なことになるので、ここは黙っておくことにした。
俺は大人の対応が出来る男だ。
「急用なんです。中に入れてもらえますか? 隣にいる人は私の友人ですので心配いりません。この方は風魔法を操る魔導士です。この方が風魔法で起こした上昇気流を使って、ここまで飛んで来たのです」
「なるほど。確かに入り口付近にも市民が押し寄せていますので、建物の中に入れそうにありませんからね。わかりました、どうぞ中にお入りください」
よしよし。上手く建物の中に入ることが出来たぞ。
ついでと言ってはなんだが、アイシューがいる場所までこの兵士さんに案内してもらうことにした。
「それにしても、キララ様がアイシュー様のご友人だったとは。やはりキララ様はスゴい人ですね!」
「ええ。仲良くさせていただいてますよ、ふふふ」
うーむ…… 確かに委員長とアイシューは出会って直ぐに意気投合して、インチキ王国に着いてからも仲良くしていたが……
まったく委員長は口が上手いというか、なんというか……
日本にいるときは、セールスの仕事でもしてたのかな。
羽毛布団とか健康器具とか買わされないよう、気をつけよう。
「それにしても、あの変態偽国王には怒り心頭ですよね」
俺たちの先を歩く兵士さんが、なにやらブツブツとつぶやいている。
「そうですね。でも今は時間がないので急ぐことにしましょう」
兵士の後に続く委員長は冷静に対応する。
「わかりました。しかし…… 確かにアイツの魔法の腕は相当なものかも知れませんが、性格的には最悪の人間だそうですよ」
「あ、あの、時間がないので、ここは急ぐことに……」
フッ、大丈夫だよ委員長。俺は大人の対応が出来る男なのだよ。
「実は、ニシノ国に戻ってから、あの偽国王の噂がいろいろと入ってきたんですけど——」
「い、いや本当に時間がないので、今は急いで——」
フッ、大丈夫さ。俺は大人の対応が出来る——
「聞いて下さいよ、キララ様。あの偽国王は以前住んでいたヒガシノ国で、とんでもないことを仕出かしたため、逃げ出したそうですよ!」
……ちょっと待て。今、ヒガシノ国って言わなかったか? ま、まさか……
「なにやらイカガワシイことをしていたそうです。なんでも特殊な性癖の持ち主だそうで、確か、ロリ——」
「テッメェェェェーーー!!! 俺はロリコンじゃネエって言ってんだろォォォーーー!!!」
「ちょ、ちょっと岸さん! なに無詠唱で風魔法をブッ放しているんですか! ああもう、私の友人が気絶しているじゃないですか!!!」
やっぱり今回も、大人の対応は出来なかった…… なんてことはどうでもいい。そんなことよりも!
「……バインか? やっぱりあの盗っ人淫乱野郎、バインバイーンの差し金なのか?」
「も、もう、岸さん。何を言っているのかさっぱりわかりませんよ!?」
「フン! サッサと行くぞ、委員長。俺にはユニークスキル『広域索敵』があるんだ。別に案内役なんていらネエんだよ!」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、って、え? なんで急に立ち止まるんですか?」
俺は振り向きざまに、委員長をじっと見つめる。
「……いいか委員長。俺はロリコンじゃあネエからな」
「ヒ、ヒィィィ! 怖いです、怖いですよ岸さん。わ、わかっていますよ。私はちゃんとわかってますから!!!」
「そうか…… そうだよな。委員長はわかってくれてるよな。なんだかゴメンな、イラっとしちゃって」
そう言って、俺はそそくさとその場を後にしたが、背後から、委員長のささやき声が聞こえてきた。
「やっぱり、『陛下にまつわる禁忌事項(極秘)』に書いてあった内容は本当だったのね……」
いやいや、流石にロリコンって言われたぐらいで、国を破壊したりしないよ。
それにしても——
クローニン宰相たち重臣が俺に内緒でコッソリ作ったその小冊子、結構
確か、記念すべき最初の一文はこうだったな。
『汝、命が惜しくば、陛下の前でロリコンと言うことなかれ』
♢♢♢♢♢♢
アイシューがいるという『謁見の間』に到着した俺と委員長。
俺たちは拍子抜けするほど簡単に、中へ入れてもらうことが出来た。
なんでも、アイシューから『冴えない顔をした40歳ぐらいのおっさんが訪ねて来たら、謁見の間に案内するように』との命令が下っていたそうだ。
チッ、俺はまだ36歳だよ。
それから、王宮警護の兵士さんよ。なんで俺がその40歳ぐらいの冴えないおっさんだと思ったんだよ。
謁見の間に到着すると、そこには荘厳な調度品で埋め尽くされた室内にはあまりにも不似合いな、簡易テーブルとパイプイスが
パイプイスには、数人のおっさんとアイシューが腰掛けており、なにやら難しそうな話をしている。
俺たちの姿をその双眸で捉えたアイシューがサッと立ち上がり、こちらへと駆け寄りながら笑顔で口を開いた。
「来てくれたんですね!」
ああ、アイシューがいる場所ならば、どこへだって駆けつけてやるさ!
「本当に嬉しいです、委員長さん!」
そう言って、委員長の手を握りしめるアイシュー。
ハァ…………
今すぐ、どこか遠くの街へ旅立ちたい。
そうさ、遠くの知らない街で、俺のことを待っている人と巡り会うんだ。
あれ、旅情をかきたてられるんだよ。
とにかく、俺の全身から哀しみが溢れて止まらないんだ。
この哀しさはきっとアレだ。夫婦で買い物から帰って来たのに、出迎えた娘から『お母さん、お帰り!』と言われた時にお父さんが感じる哀しさだ。
そんな
委員長の視線に気付いたアイシューが、
「もう! もちろんカイセイさんが来てくれて、嬉しいと思ってるわよ!」
と、
それでも押し寄せてくる哀しみに打ち勝てそうにない俺に向けて、委員長がつぶやいた。
「もう、岸さんは本当にバカですね。アイシューさんは照れてるだけなのに」
え、そうなのか?
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