キタノ国からの使者シーナ 編

喜びの抱擁

 ここからは、再びカイセイ視点に戻ります。


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 なんだか久しぶりに登場したような気がするが、きっと気のせいだろう。



 俺はたった今、パイセンと共に懐かしの故郷日本から帰って来たばかり。

 せっかくお土産を買ってきたのに、アイシューとホニーはどこかへ出かけているらしい。


 ミミーが言うには、『女神様からのお願いで、知らないお姉さんと一緒にどこかへ出かけた』とのこと。

 まったく要領を得ないのだが、まあミミーはかわいいので許すことにした。


 でも……

 俺はてっきり、もっと熱烈に俺の帰還を歓迎してもらえるとばかり思っていた。

 特に日本大好き少女ホニーからは、最新の日本情報をこれでもかとばかり聞かれると思っていたのだ。

『まったく、しょうがネエなあ』とか言いながら、あれやこれやと日本の話をしようと思っていたのに。


 それから、天界にいる女神様に帰還の報告をしようと思ったら、『今、ニシノ国の件で忙しいので、また後日に』という謎のメッセージが送られてくる始末。


 正直に言おう。

 俺は今、とても寂しいのだ。


「ムムっ? なんだかオニーサン、砂漠で散々働かされたあげく、もういらないからって捨てられた、年老いたラクダみたいな顔になってるゾ?」

 俺の隣で、お土産のお菓子をムシャムシャ食べながらミミーがつぶやいた。


 俺はシルクロードの商人じゃないから、そんなレアなラクダの顔なんて見たことネエよと思いつつも、ミミーはかわいいので許すことにした。



 ここはインチキ王国——なんかもう、国の名前なんてどうでもいい気がしてきた——の王都にある執務室。

 執務室にいるのは俺とミミーの二人だけ。なんだか執務室がとても広く感じる。


 でもまあ、ミミーがいてくれて本当によかったと思うよ。

 もしミミーまでいなかったら、俺はきっと夜汽車に乗って遠くの街まで傷ついた心を癒す旅に出かけていたと思う。この世界に汽車なんてないけど。



 そんなモヤモヤした気持ちでミミーを眺めていたところ——


「陛下、失礼してもよろしいですか?」

 室外から、クローニン宰相の声が聞こえたので、俺は入室を促した。


「おっと、今はミミー殿のお菓子タイムでしたか。ミミー殿、陛下からたくさんお土産をいただいて、よろしゅうございましたな」


「オウ!」

 笑顔爆発で元気に応えるミミーを見て、宰相も顔をほころばせた。


 ミミーは俺以外の大人たちからもかわいがられている。まあミミーはかわいいから当然だな。でも、絶対ミミーは誰にもやらないからな。


「おっと、失礼しました。陛下、ただ今キタノ国から特使の方々が参られましたので、至急、謁見のご準備を」

 宰相はミミーの笑顔を見続けていたい欲求を抑えながら——絶対そうに決まっている——、俺に要件を伝えた。


「そんな謁見だなんて大げさですよ…… いや、大げさだよ」

 俺が家臣に対して敬語を使うと宰相はとても困った顔をする。だからこんな間抜けな物言いになってしまうのだ。


「えっと、その使者は誰なんです…… いや、誰なんだ…… ろうね」


「……そこは『誰なんだ』でいいと思うのですが。まあよろしいでしょう。正使はキタノ国第一王女様。副使は第二王子様です」


「え、シーナとシオスが来てるの! じゃあひょっとして、近衛騎士団長のブブズケ=デモ・ドウドスさん、いや、ドウドス氏、えっと、ドウドスの野郎…… ああもう、とにかくドウドスさんも来てるの!?」


「……他国の来賓に対しては、丁寧な言葉遣いをされてもよろしいかと」


「なんだ、そうなんですか。あっ、しまった。もう宰相、そんな怖い顔しないで下さいよ、いや、しないでよ」


「近衛騎士団長も、王女と王子に随行しています」

 若干呆れ顔で、クローニン宰相はそう付け加えた。


 シーナことキタノ国第一王女ココロヤサシーナ=ケド・エラインデス——確か年齢は20歳ぐらいだったか——と、シオスことキタノ国第二王子ココロヤサシオス=デモ・エラインデス——アイシューやホニーと同じぐらいの年齢だったような——、それからブブさんことキタノ国近衛騎士団長——たぶん俺と同年代だと思う——の3人とは、旧ナカノ国で別れて以来、数ヶ月ぶりの再会ということになる。


 3人が高貴な身分を隠して冒険者として修行をしていた時に出会ったものだから、俺もミミーもずいぶんフランクに彼女たちと接していたっけ。



「ムムっ! シーナたちが遊びに来たのか?」

 ミミーがとても嬉しそうに声を上げる。


「ああ、そうみたいだぞ、ミミー。さっそく迎えに行ってやろう——」


「なりません!!! 一国の王が自ら他国の使者を出迎えるなど…… お、おや、ミミー殿、ど、どうなされたので……」


「うわーーーん!!! オレっち、シーナたちに会いたいゾぉぉぉーーー!!!」


「ああもう、クローニン宰相ってば、なにミミーを泣かしてんだよ! なあミミー、別に宰相はシーナたちに会っちゃダメって言ってるんじゃないんだ。えっと……」


「わわ、わかりました! 公式な謁見はまた後日行うとして、今すぐ使者の方々を執務室にご案内します。しばしお待ちを!」

 そう言うと、宰相は慌てて部屋から出て行った。


 うーむ…… どうやらこの国では、泣いているミミーにかなうものは誰もいないらしい。



 ♢♢♢♢♢



 執務室のドアが開き、シーナとシオスの姿が見えたんだけど——


「あれ? なんでそんなにかしこまってんだ? 膝なんかついちゃって……」


 そう俺に声をかけられ、一瞬、困ったような顔になったシーナだったが、再びキリッとした表情を浮かべて口を開いた。

「この度、あまたの悪政により民を困窮せしめた旧ナカノ国王を討伐され、新しき王朝を創設されましたこと、我らキタノ国の住民、貴族、王族一同、心からお祝いを——」


「シーナァァァ! 久し振りだゾォォォ!!!」


 シーナの祝辞っぽい話を最後まで聞くことなく、ミミーは喜びの感情を爆発させながらシーナに突進した。


 ——どーーーん!!!


 ミミーの勢いある愛の抱擁を受け止めたシーナは、執務室の壁に激突した……


「ミミミ、ミミー殿!!! ななな、なんということを!!!」

 クローニン宰相、顔面蒼白にして卒倒寸前。


「おいミミー、やり過ぎだよ。待ってろよシーナ、今、ヒールをかけてやるから」

 慌てて俺はシーナに駆け寄る。


 たぶん気を失っていたであろうシーナが、『いたた……』と言いながら周囲を見渡す。そして自分の胸の中にスッポリと収まっているミミーに目を合わせると——


「うわあ! ミミーちゃん、久しぶり!」

と言って、ミミーを抱きしめた。


「オウ! シーナ、オレっちも会いたかったゾ!」

と言いながら、ミミーも力いっぱいシーナを抱きしめると——


「ぐわぁ! ミ、ミミーちゃん、痛い、痛いよう! ほ、骨が折れるぅぅぅ!!!」


 俺は再び、シーナにヒールを施すことになった。

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