仲良し

「お話のところ、申し訳ありませんが——」

 さっきまで嬉々とした表情で正座していた教皇が口を挟んできた。

「——ひょっとして、マエノー様が今お話されているのは、畏れ多くもマエノー様を天界より無理やり追い出した、あの世界中の悪を一身に集めた極悪非道の偽女神、テラでありましょうや?」


「いや、確かにテラはポンコツなところはあるけど、別に極悪非道って感じのヤツじゃないって言うか——」



「あなた! テラ様に対して失礼ですよ!」

 ウチの話をさえぎるように、アイシューが非難の声を上げた。


 嗚呼ああ、なんだかテラが羨ましいな。

 ウチもアイシューみたいな素直な子にそんな言葉を言ってもらえていたなら、もっとマシな女神になってたかも知れないな。


「そうヨ! アンタ、テラ様に失礼ヨ!」

 続けて、ホニーも非難の雄叫びを上げた。


 嗚呼ああ、ウチもホニーみたいな…… いや、ちょっと待て。ここはもう少し様子を見ることにしよう。


「そりゃ、テラ様はポンコツだし、おかしげなところだっていっぱいあるわヨ? この前だって、みんなで食べるつもりでいた花びら餅を一人で4つも食べてたし。そう! それから特におかしいのはあの変なお面ヨ! 日本で言うところのヒョットコみたいなお面をなぜか気に入っちゃって、いつも被ってるのヨ!? なんかさあ、口のあたりが『ヒュイイイー』って感じで上を向いてるの。わかる? 『ヒュイ』じゃなくて『ヒュイイイー』なのヨ! ププ…… あの変なお面を思い出しただけで、クックック…… あはははははは!!! わ、笑いが止まらないワ!!!」


 ……ねえ、ホニー。アンタ、なに言ってるのか、さっぱりわからないよ。でも、やっぱりこういう結果になると思ってたよ。


 今度はため息混じりに、アイシューがホニーに言葉をかける。

「……ねえ、ホニー、その辺にしておいてくれないかしら。なんだかホニーの話を聞いてると、まるで私が変な女神様のことを一生懸命かばっている、おかしげな人みたいに聞こえるのよ」

 ……アイシューの苦悩は尽きないようね。


『もう、ホニーさんったら、お面の話はもうしないって言ったじゃない! ふふふ、でもね、ホニーさん。私はホコーラの街で、新しいお面を見つけたのです! 今度のはすごく素敵なんですから! この次に女神の巫女コテラに変装して下界に遊びに行ったとき、見せてあげますからね!』


 変装してることを、大々的に公表してどうすんのよ……

 ここには、ニシノ国の連中だっているんだよ?


「まったく! なんてバカなことを言っているんだ、この偽女神は!」

 教皇が声を荒げて文句を言っている。更に——


「この偽女神の、極悪非道の根性がひん曲がった、極悪の…… えっと、えっと……」


「……なあ教皇。お前って悪口の引き出しがあんまりないのか? 実は人のことをあまり悪く言えないお人好しなのか? ウチのために、そんな無理しなくていいんだよ。だいたい、天界からここが見えるんなら、もうお前らに勝ち目はないよ。テラが本気を出せば、天界から魔法を繰り出して、この辺り一帯を更地に変えることだって出来るんだから」


「そうヨ! アタシとカイセイなんて、天界からカミナリをくらったことがあるんだからネ!」


「ホニー…… アンタ、どれだけテラを怒らせるようなこと言ったんだよ…… というか、天界からカミナリをくらわすテラも頭おかしいよ……」


『大丈夫ですよ? だって私とホニーさんは仲良しですから』


「そうヨ! アタシはテラ様のマブダチなんだから! ちなみにマブダチを漢字で書くとコーテキシュ(好敵手)になるんだからネ!」


「ならないよ…… 頼むから、戦わないでおくれよ……」


 ここで、テラとホニーのやり取りを聞いていた教皇が、

「まったく! 女神がポンコツなら、信者までポンコツになるのか!」

と、叫んだのだが……


 そんなこと言ったら、ウチが変態だから、信者のお前らが変態になったみたいに聞こえるじゃないか。


「ちょっと待て、教皇。テラはウチの元同僚にして、元部下なんだ。だからウチはテラのことをよく知っている。テラは多少ポンコツだけど、そんなに悪いヤツじゃないよ」


 ウチの言葉を聞いたアイシューが、

「え? それはどういうことなのですか?」

と、尋ねてきたので、


「そうだね、話すと長くなるんだけど……」

 ウチはアイシューに、テラとの関係を話してやることにした。


「ウチが女神の使徒としてこの世界に転生したとき、当時はテラもまだ女神の使徒だったんだ。ウチは人間族と獣人族を統べる第二世代女神ナントー様の使徒だったんだけど、テラは魔人族と森林族を統括するホクセー様の使徒だったんだよ。あっ、でも当時、両女神様は別々の天界におられたから、ウチらはそれほど頻繁に顔を合わせてた訳じゃないのよね。と言うことは、うーん…… 同僚というよりは…… なんて言えば良いのかな」


「わかったワ! それって、同じ会社の社員だけど、違う営業所に勤めてるから普段は顔を合わさないくせに、たまに飲み会で会うと『ふぅ…… お前んトコの営業所はいいよな。俺のトコなんて……』って言いながら、朝まで愚痴をこぼしつつ呑んだくれる関係ってことでショ!?」


「……ちょっと待て、ホニー。ウチはナントー様の悪口なんて……」

 テラに言ったことはないが、羽伊勢にはよく言ってたような……


 はっ!? なに考えてんだウチ。今、そんなこと思い出してどうするんだよ!


 そんな動揺を隠せないウチを見つめて、ホニーが『やれやれ』といった表情でつぶやいた。

「ネエ、マエノー様。今のはボケたんだから、早くツッコんで欲しいんですけど」


 嗚呼ああ、ホニーがボケてるのかマジなのか、ウチには判断が出来ない……

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