驚きの事実
「マエノー様! そのようなオツムの中身が
ホニーの話を聞いていた、いや聞かされていた教皇が、顔を真っ赤にしながら大声を上げた。
「なにヨ! 頭中のがフシダラなオッサンは、ちょっと黙りなさいよネ! まったく、なに調子コイたこと言ってんだか。いい? アンタたちはもうテラ様に天界からロックオンされてるの。だからもう、オシマイなんだからネ!」
ホニーも同じように顔色を変え怒鳴り返したのだが…… なぜか教皇が余裕の笑みを浮かべている。
「フフフ…… なあ、バカな娘よ。マエノー様がこの世界を離れられた後、我々が何もして来なかったと思っているのか? マエノー様、どうかご安心下さい。我々はマエノー様が復活なさる日のために、着々と偽女神テラに対抗する準備をしてきたのです。まず、我々は手始めに——」
「不燃ゴミの日に可燃ゴミを出したり、人の家からコッソリ、パンティを盗んだりしてたんでショ?」
「人の話の途中でチャチャを入れるのではない!」
ああもう、ホニーも教皇も、どれだけ負けず嫌いのせっかちなんだか……
「もう、ホニーったら…… それは旧ナカノ国の特殊工作部隊がやったことでしょ? 私やホニーだけじゃなくて、悪魔教徒の人たちもすごく怒ってたわね……」
「なんと! 比較的オツムがマシな方の娘よ! お主は悪魔教徒を知っているのか!? なら話が早い——」
氷のような冷たい表情をしたアイシューが詠唱を始めたと思ったら、あっという間に教皇たちの足元が本当に氷ついた。きっと教皇の失礼な発言に、イラッときたのだろう。
アイシューが今放った魔法は中級水魔法だと思うんだけど、ウチが創造した水魔法を上手く活用してくれているみたいで、ウチは嬉しいよ。なんてことは、今はどうでもいいや。
「その…… ど、どちらかと言うと叡智溢れた瞳をしているように見える、平均よりも美しいと言って差し支えない青髪の少女も悪魔教徒を…… ご、ご存知だったようだな」
なにちょっと丁寧に言い直してんだか…… しかも、相当ビビってるじゃない。そう、教皇とは自分の身をとても大切にする男なのだ。別名、
教皇の性格はどうでもいいとして、こんのままじゃ話が進まないじゃないの。
仕方ないので、ウチは話を整理してやることにした。
「ねえ教皇、話はそれだけ? ウチが復活する日がどうとか言ってなかった?」
「おお、そうでした! 流石はマエノー様、記憶力もバツグンでございますな! そうですとも、我々はマエノー様が復活なさる日のために、悪魔教徒である森林族の男と手を組み、着々と戦力を整え——」
「「えええーーー!!!」」
うわっ、ビックリした!
ホニーとアイシューが同時に声を上げたようだ。なんだかとても驚いているみたいだし。
しかし、一番驚いているのは——
『うっそぉーーー!!! なんでーーー!!! ありえないんですけどっ!? 森林族? ってことはやっぱり…… あああっっっ!!!』
天界にいるポンコツ女神だった……
もういい歳をした大人なんだから、ちょっとは落ち着きなよ……
なんだか、聞いてるこっちまで恥ずかしいよ……
そんな動揺丸出しのテラの大声をかき消すかのように、アイシューが、
「ひょっとして、その森林族って黒いフードを被っているんじゃないでしょうね!?」
と、教皇に詰問した。すると——
「よく知っているな、いや知っていましたな。お前、いや、あなたの言う、いや、おっしゃる通り…… ああ、面倒くさい!!! そうだとも、我々が接触していた森林族の男は、黒いフードを被っていたさ! どうだ、これで満足か!」
教皇も…… なに年甲斐もなく逆ギレしてるんだか。
ウチは話を整理しようと思っていたのだけれど…… ちょっと待って欲しい。
森林族とか黒いフードとか、ウチには何の話かサッパリわからないぞ?
アイシューに尋ねてみたところ、なんでもその黒いフードの男とは元悪魔教徒で、羽伊勢のヤツは『森林族の可能性がある』との見解を示していたそうだ。生命体から魂の器とも言えるマナを奪うことが出来る怪しげな機械を所持してたまま、どこかへ姿をくらませたらしい。
「なあ、教皇と幹部たち。流石にソイツはちょっとマズいんじゃないの? ソイツってば、アンタらの命まで奪うつもりだったんじゃないのか?」
「おお、我らの身を案じて下さるとは、なんと——」
「マエノー様の言う通りヨ! そんなヤバいヤツと一緒にいるなんて、アンタやっぱり——」
「マエノー様! その者たちの言うことを聞いては——」
「うるさいわネ! マエノー様はアンタたちより、アタシたちを信頼——」
「もう! あなたたち、いい加減にしなさいよ!!! あなたたちは子どもなの? 生き急いでるの? 単なるバカなの? 人の話は最後まで聞きなさいって、いつもカイセイさんが言ってるでしょ!?」
我慢の限界に達したのか、ついにアイシューが怒りの声を上げた。
それにしても、カイセイっていうオッサンは、性格に難のあるイカれた人物かと思っていたけど、実は意外と常識人なのかも知れないわね。
さて、アイシューの言葉を聞いたホニーはというと、悔しそうに『ぐぬぬ……』と唸り声を上げているのだが、教皇はなんだか嬉しそうにハアハアと悶えている。
そうだった。教皇はドMだから、こんな風に強めに罵られるときっと興奮するのだろう。でも……
「ねえ、アイシュー。教皇を見てたらイラっとしてきたんで、ここはもう一発、中級水魔法を食らわせてやったら?」
「奇遇ですね、マエノー様。実は私も同じことを考えていました」
「お、お待ち下さい! ここにおります聖堂会の幹部のうち、何人かの者は氷責めのような冷却系の苦痛に快楽を覚える者もおりますが、私はと申しますと、言葉責めのような、どちらかと言うと精神面を刺激される方を好むと言いますか——」
「黙れよ、このド変態! なんでウチがお前の詳しい性癖を聞かなきゃならないんだよ!」
「スノーシャワー!」
アイシューの魔法が教皇の膝から下あたりに炸裂。
今回は教皇だけに狙いを絞ったようね。
そりゃ、『冷却系の苦痛に快楽を覚える者』に、ご褒美をあげるわけにはいかないものね。
『もう…… いったい何をやっているのですか』
おや? テラってば、なんだか不満そうなんだけど? ひょっとしてアイシューの攻撃が、ちょっとやり過ぎだとでも思っているのかな?
「別に、誰かの命がなくなった訳じゃないんだし、このくらいの攻撃は大目に見てやりなよ」
ウチはアイシューをフォローしたつもりだったんだけど……
『え? マエノー様は何を言っているのですか? ひょっとしてポンコツなのですか?』
「違うとも。断じて違うとも。ついでに言うと、アンタにだけは言われたくないと、声を大にして言わせてもらうわ」
『いいですか? 私が言いたかったのは、マエノー様も教皇さんの話を途中で遮っちゃいましたよ、ということなのです。マエノー様も、人の話は最後まで聞かないといけませんよ?』
ふぅ…… アンタは教皇の性癖について、もっと詳しく聞きたかったのか?
状況判断…… なんてことをテラに求めても、まあ無理だろうし……
なんだかよくわからないけど、とにかくこの愛すべきポンコツに、神の祝福がありますように! って、いやよく考えたら、アンタが祝福を与える側じゃないの。
この世界、本当に大丈夫なのか?
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