それはまるで鎌倉武士
ウチはアイシューとホニーを引き連れ、森林族との境界線になっている大山脈の麓の村目指して、再び大空を飛行中。
「ヒビキさんは、本当に探索がお得意なんですね」
「ユニークスキル『広域索敵』を持ってるカイセイだって、ここまでの探索は無理だと思うワ!」
アイシューとホニーが感嘆の声を上げている。
うん、なんだか悪い気はしない。
「いやぁ、まあ、それほどでもあると言うかないと言うか——」
しかし、上機嫌でウチが喋り出すや否や、
「流石、パイセンが推薦しただけのことはあるわネ! パイセンは本当にスゴいと思うワ!」
と、またまた羽伊勢を賞賛する言葉をつぶやくホニー。
……まったく、ホニーは羽伊勢に洗脳でもされているのかしら? 本気でホニーのことが心配になってきたわ。
「ねえ、ホニー。アンタ、『ギョウ虫確認便器』の件をもう忘れたの? さっきアイシューが説明してくれたでしょ? アンタはパイセンこと羽伊勢のヤツに騙されてたんだよ? 若い女の子はギョウ虫なんて言ったらダメなんだよ?」
「いいのヨ! アタシはパイセンの、そういうウサンクサイところも好きなんだから!」
「……………………さあ、アイシュー! これから西に向かって進むわよ!」
「チョット! さり気なく、今の会話を無かったことにするの、やめてよネ!」
このホニーという女の子、本当にヤバいと思う……
ウチには理解不能だわ。
「あの、ヒビキさん。ホニーのことは放っておくとして——」
……やっぱりホニーは放っておいていいんだね、アイシュー。
「——住民の方々が言われていたように、本当に教皇は、私たちインチキ王国の軍と参ノ国の軍が東からニシノ国に攻めて来ると思って、西の村に逃げたのでしょうか?」
「えっと…… その質問に答える前に、ひとつ確認したいんだけど。インチキ王国って何?」
「それはアタシから説明させてもらうワ! あのね、最初は誤解から生じた仮の国名だったんだけど、それを面白がったパイセンが正式な国名にするよう強く推挙したのヨ!」
「え?」
「それからパイセンが裏から手を回して、カイセイのことをインチキ一世って呼ぶように画策したの。だから、カイセイはインチキ王国のインチキ一世で、子どもが生まれたらその子はインチキ二世になるのヨ! どう、パイセンってスゴいでショ!」
「いや、まあ…… そのインチキ一世さんには気の毒だと思うんだけど…… ねえ、生まれてくる子どもに罪はないんだから、やめてあげたら?」
「いいのヨ! だってカイセイの両親は、自分たちの子どもにキシ・カイセイなんてシャレた名前を付けたのヨ? カイセイだって、きっとインチキ二世の襲名を心待ちにしてると思うワ!」
日本から転生したキシっていうオッサンも、相当ヤバいヤツみたいだ……
「ねえ…… ホニーの周りには、まともなヤツはいないの?」
ため息混じりにつぶやく疲労困憊のウチ。
「ちょ、ちょっとヒビキさん! そんな哀れな目で私を見ないで下さい! 私はホニーとは違いますからね! その件については、ちゃんと反対していますから!」
「あ、そうなの……」
なんだか、どうでもいい気がしてきた……
とりあえず、アイシューの質問にはお茶を濁す程度の答えを返しておいた。
教皇は昔から小心者だったから、たぶん西へ逃げたと思うんだけど…… そんなこと言うと、ウチの正体がバレちゃうからね。
♢♢♢♢♢♢
大空を飛行すること更に数十分。
ウチらはついに、教皇の隠れ家と思われる聖堂会拠点の上空に到着した。
入口付近に一発、強烈な魔法でもブチかましてやれば、慌てて教皇やその側近たちが外に出てくるだろう。
空の彼方からでも、教皇の姿を確認するぐらいのことは出来る。ウチが地上に降りて、この身を教皇たちの前に晒す必要もない。
さあ、これで教皇の居場所を見つけるミッションは終了だ、と思っていたら——
「ヤアヤア! 我こそはヒガシノ国の住人、ヒトスジー伯爵家の新当主にして上級魔法の使い手、ホホニナ=ミダ・ヒトスジーなり!!!」
なぜだかホニーが、いきなり大声を上げたんだけど…… あれ? ちょっと持ってよ!
「ちょっと、ホニー! アンタ何やってるのよ! そんな大声出したら中にいる教皇たちに聞こえて、ウチらは見つかっちゃうでしょ! まだ、そんなに高度をとってないんだから!」
「ウッサイわネ!!! 今、いいところなんだから! これから先祖の名前やら武功やらをいっぱい言い立てるんだから、黙っててよネ!」
「アンタは武士なのか? しかも鎌倉時代の武士なのか? いくら日本が好きでも、参考にする時代を間違えてるよ! もっと最近の女子高生とかの影響を受けろよ!!!」
そんなバカなやり取りをしていると——
あ、建物の中から走って外に飛び出して来たヤツと目が合った。アイツは教皇の側近だった男だ。
上空にいるウチを見て驚いている。
ヤバい! 高速でこの場から離れよう、そう思った瞬間——
「マエノー様だ!!! マエノー様が帰って来られたぞ!!!」
教皇の側近が大声を上げた。しまった…… 遅かった。
きっとアイシューやホニーにも、ウチの正体がバレてしまったんでしょうね。どうやら先にホニーが口を開きそうだ。仕方ない、大人しくホニーの発言を待とう。
「ネエ………… アイシューって、実はマエノー様だったの?」
…………ホニーがバカでよかった。
「もう! ホニーったら、何バカなことを言ってるの!? 私がマエノー様な訳ないじゃない!!!」
チラチラとウチを見ながら、アイシューがホニーに言い放つ。
…………アイシューはバカではなかった。
やっぱり、アイシューはウチが前代女神だって気付いたようだ。アイシューはモジモジしながら、真実を話すべきか悩んでいるように見える。
しかし、そんなアイシューの様子などお構いなしといった表情のホニーが、再び口を開いた。
「まったく、アイシューってば、なに言ってんだか。いい、アイシュー? 前代女神のマエノー様はいろいろヤラかして、この世界から追放されたのヨ? いろんな種族の面倒をみるのが大変だからって理由で、人間族だけ贔屓しちゃって、その挙句、種族間の戦争を引き起こしたのヨ? 噂によると、コッソリ裏金まで作っちゃって、夜な夜な下界で遊びまくってたらしいワ。そんな人が、どのツラさげてこの世界に戻って来るって言うのヨ!?」
「も、もう、ホニーのバカ!!! ぜ、ぜ、前代女神様に対して、なんてことを……」
「なにヨ、単なる軽口じゃない。そんなに怒らないでよネ。きっと建物から出て来たアイツ、アイシューを見てマエノー様と勘違いしただけだと思うワ。アンタは元聖堂士だけあって、無駄に清楚なオーラを出してるからね…… って、あれ? どうしてヒビキ様が涙目になってるの?」
えっと……………………これって、ワザと言ってるんじゃないよね? ホニーはバカのように振る舞っているだけで、実は相当高度な嫌味をウチに言ってるんじゃないよね? かなり遠回しな言い方のクセに、なぜか心の深いところにクリティカルな皮肉を放ってくる、イケズてんこ盛りの京都人じゃないよね?
「ねえ、ホニー…… 念のため確認したいんだけど、アンタの知り合いに京都人っている?」
「いるわヨ? インチキ一世ことカイセイは京都人だけど?」
しまった…… ホニーはバカではなく、とても洗練された嫌味を放ってくる京都人の影響を受けていたようだ。
「アンタ、単なるバカじゃなかったのね…… その節は皆さまにご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした……」
ウチは素直に謝った。しかし——
「もう、ホニーったら、元女神様に謝罪させてどうするのよ!!! それから、ヒビキ様は深読みし過ぎです! ホニーは単なるバカなんです! それが正解です! いくらホニーが日本好きだからって、京都人のカイセイさんのような本場のイケズっぽい言い回しを使うスキルは習得していませんから!!!」
……どうやらカイセイっていうオッサンは、相当、性格に難のある男のようね。
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