いつものパイセンじゃない
「ねえ、キララ〜。この人たち面倒くさいよ。早くやっつけて先に進もうよ」
そう言ったのは委員長の隣にいるオスカルーさん。間違いなくオスカルーさんだ。
「ごめんなさい。私、この人たちのペースに巻き込まれていたようです。そうですね、私たちは私たちの任務を全うすることにしましょう」
そう言うと、委員長は腰に差していた剣をスッと抜き、剣先を俺に向けた。
「あなたの魔法がチート級なのは聞き及んでいます。でもこの剣は全ての魔法を跳ね返す力があるのです。わかりますか? あなたでは私に勝てない…… うぐっ!!!」
「おい! 何やってんだよミミー!」
なんてことだ。風魔装を身に
オスカルーさんが、恐怖のあまり固まっている。
委員長が落とした剣を拾い上げたミミーは、トコトコと歩いてこちらに戻って来た。
「オニーサン、危ないところだったゾ。オレっちがいなかったら大変なことになっていたゾ」
溢れんばかりの笑顔を俺に向け、委員長から巻き上げてきた剣を俺に差し出したミミー。
こ、ここは褒めるべきなのか?
それとも、勝手な行動をしたことを叱るべきなのか?
ああもう、俺はなんて言えばいいんだよ!
「もう、カイセイさん、オロオロしないの」
そう言ったのはアイシュー。アイシューはミミーの方へ向き直り——
「流石、ミミーちゃんね。ミミーちゃんのおかげで、みんな助かったわ。でもね、ミミーちゃん。パーティリーダーのカイセイさんは、まだ攻撃の合図を出していなかったでしょ? きっとミミーちゃんは、カイセイさんがいつもみたいにグズグズしていると思ったのでしょうね」
なんだか俺が、いつも優柔不断みたいに聞こえるけど、まあいい。それから?
「でもね、ひょっとしたら、カイセイさんには他の考えがあったかも知れないでしょ? 特に、今回はパイセンさんもいるんだから。だから次からは、カイセイさんの攻撃命令が出てから悪い人をやっつけると、もっとカッコよくなると思うんだけどな」
「オウっ! アイシューの言う通りだゾ! オレっち、ちょっと先走っちゃって、ゴメンだゾ!」
笑顔で謝罪の言葉を口にするミミー。
まるでミミーを操ること神の如しなアイシューに向かい、俺は感嘆の言葉を漏らした。
「
「……なに訳のわからないことを言ってるの? ほら、日本がどうのこうのって言ったから、またホニーの口元が、ウズウズし始めたじゃないの。言っておくけどホニー、しばらくは日本ネタ禁止だからね」
ふくれっ面をしたホニーは放っておいてっと。
それにしても、流石はアイシューだ。俺もアイシューを見習って、ミミーの良き保護者にならねば。
「日本の教育改革はどこかの文部大臣…… いや、文部科学大臣にでも任せることにして、ちょっとその剣を見せてもらっても、いいっスか?」
おいパイセン。今お前『文部大臣』って言ったな?
今の発言により、『実はパイセンおばさん説』の信憑性が高まったが、今のところ、その話はどうでもいいので俺は素直に剣を渡した。
真剣な表情で、受け取った剣を見つめるパイセン。
「あ、あなたたち、不意打ちなんて卑怯よ!」
腹パンから復活した委員長であったが、
「うぐっ!」
パイセンの手のひらから放たれた謎の魔法により、再び黙らされてしまった……
というか、パイセンのヤツ、
なんだコレ? ひょっとして、パイセンはとても機嫌が悪いのか?
パイセンの様子がおかしいことに気づいたのは俺だけではないようで、ミミー、アイシュー、ホニーの3人が、探るような目で俺を見ている。
ここは…… 俺がパイセンに、ご機嫌が優れない理由を聞くしかないのか?
「あの、パイセン様…… 我々、なにかパイセン様のご機嫌を損ねるようなことを致しましたでしょうか?」
恐る恐る俺が尋ねると——
「…………これ、聖剣なんスけど」
と、不機嫌そうに応えるパイセンであったが……
「はあ? なに言ってんだよ、パイセン。ニシノ国の連中は聖剣を持ってないことは、前回のターン…… おっと、常識的にみんな知ってることだろ?」
聖剣はこの世界に3本ある。
そのうちの1本を所有しているはずのニシノ国は、50年以上前に聖剣を紛失したと言っていた。
残りの2本はキタノ国とヒガシノ国が、それぞれ1本ずつ所有していた。
だから前回のターンでは、魔王討伐の切り札になる聖剣を有するキタノ国とヒガシノ国が、魔人族の襲撃を受けたのだ。
魔人族が人間族の国を攻撃した理由は、魔剣を破壊するためだった。
「ニシノ国のヤツら…… あたしたちを騙してやがったのか……」
低い声でパイセンがつぶやいたと思ったら、怒りのこもった瞳で委員長を睨みつけた。
「お、おい待てよパイセン! 委員長…… いや、キララは多分、ニシノの国の教皇ってヤツに利用されてるだけだと思う——」
「黙ってろよ! このお人好し!」
ダメだ、パイセンは理性が吹っ飛ぶほど激怒している。
これは本当にヤバいんじゃないか?
俺がそう思ったとき——
天空からまばゆい光がパイセンに降り注いだ。
「ま、まぶしい!」
俺をはじめこの場に集う全ての者が、その光のまぶしさのため目を覆ったその一瞬の隙に、パイセンの姿が忽然と消えた……
「また光った! ま、まぶしい」
パイセンの姿が消えたあたりが、また強い光に包まれたと思ったら——
俺たちの目の前に、なんと女神様が現れたではないか!
俺たちが呆然として女神様を見つめていると、
「どうやらパイセンは、いっぱいいっぱいみたいなので、交代しました」
そう言って、女神様はニッコリ笑った。
どうやら今回は、あのヒョットコに似た変なお面は被っていないようだ。
「オウっ! コテラさん、再登場だゾ!」
ミミーが小躍りして喜んでいる。
——ガバッ!!!
俺の後方で物音がしたので振り返ってみると、そこには片膝を地に付け、両手を胸の前で組み合わせて頭を下げる、元伍ノ国の王女ツツマシヤカーの姿があった。
どうやらシアカーは、突然現れた謎の美女の声を聞き、この人物が女神様であると気づいたようだ。
シアカーは参ノ国の路地裏で、天界から下界に向けて放たれた女神様の声を聞いていたからな。
あれ? そう言えば、あの場には参ノ国の天然王女シンジラレネーゼも一緒にいたはずだけど……
レネーゼは隣にいる家臣たちと、結婚式の話に夢中のようだ。
念のために言っておくが、俺は結婚なんてしないからな。
俺は穏やかな家庭を手に入れたいのだ。
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