全世界の女性の敵

 委員長が大きな声で、俺たちに向け声を放つ。


「旧ナカノ国の北西郡統合代官殿より、ニシノ国の教皇陛下に対して奏上がありました。参ノ国はニシノ国の属領になることに同意し、北西郡はニシノ国教皇陛下の御心に従うとのことです。故に、我々ニシノ国軍は旧参ノ国領に進み、当地の治安維持に当たることになりました」

 俺たちに向け、一気にまくし立てる委員長。

 でもなんだか、ものすごく勝手な言い草だな。


 俺はコソッと参ノ国の国王に確認する。

「ニシノ国の教皇に、降伏するなんてこと言ったんですか?」


 国王もコソッと俺に返す。

「いえ、ついさっき統合代官には言いましたが、ニシノ国に直接言ったわけではありません」

 じゃあ、参ノ国が降伏しようがしまいが、ニシノ国は軍事的に参ノ国を実効支配するつもりでいたことに間違いはないようだ。


 ならもう、さっき国王が統合代官に降伏するって言ったことは、ウヤムヤにしてもいいよな。

 もしもの場合は国王に魔法の言葉、『記憶にございません』を使ってもらおう。

 ここは剣と魔法が盛んな世界だ。

 だから魔法の言葉を使っても、全くもって問題ないのだ、たぶん。



 また委員長が俺たちに向けて、言葉を投げかけてくる。

「私どもは戦いを望んでいません。ですから速やかに軍を解体し、我々の進路を妨げる行為をやめていただきたいのです」

 うーむ…… どうやら委員長は、教皇ってヤツに上手いこと利用されてるっぽいな。



「それは、北西郡の統合代官が勝手に言ってるだけじゃないんスか? 」

 おっと、ここでパイセンの登場だ。パイセンは更に話を続ける。


「悪知恵を働かせた統合代官が、そちらサンの軍隊を利用しようとしただけっスよ。まあ、その企みも、今となっては破綻したんスけどね、ヒッヒッヒ」

 どうやらここからパイセンのお楽しみタイムが始まるようだ。


「コイツを見て欲しいっス」

 そう言って、パイセンはウインドロープで縛られた統合代官の襟首を右手一本でつまみ上げ、軽々と委員長へ向けて突き出した。そして——


「どうっスか? フフフ、わかったっスよね? アンタたちの陰謀は、打ち砕かれたんスよ!!!」

 ビシッとカッコよく、パイセンが決めた!

 はずだったんだけど……


「誰ですか、その人?」

 ポカーンとした顔で、委員長がつぶやく。


「え? いや、コイツが北西部の統合代官なんスけど……」


「申し訳ありません。私、統合代官殿のお顔は存じあげないもので」


 あーあ。お前たちの陰謀を暴いてやったぜ作戦が台無しだよ

 あ、パイセンのヤツ、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめてる、プププッ。


「おい、そこの万年モテない男! こっち見てニヤニヤするんじゃねえよ! べ、別に恥ずかしいとか思ってねえんだからな! ……っスよ!」

 慌てて語尾を修正したパイセンであったが、もう遅い。


「なんですか、そのガラの悪い話し方。あなたといい先ほどの無礼な男といい…… まったく、あなたたちの品性はとても下劣なようですね」


 いや、この人こう見えて、とても崇高な女神の使徒サマなんですけど……

 これでも普段は天界にいらっしゃって、日々、下界の安寧を願ってらっしゃるんですけど……



「そこのあなた!——」

 おっと、今度はレネーゼの妹にして、参ノ国の知の象徴ナレードが委員長に対して、何か言うようだ。


「——あなたこそ失礼ではありませんか! このお方は、ナカノ国で悪政を続けてきた旧政権を先ごろ打倒され、新しい王朝を築かれたたインチキ国王陛下であらせられますよ!」

 いや、打倒なんてしてないから。ホニーのパンツを取り返しに行ったら、なんか話の流れで王様になっただけだから。



 ナレードの話を聞いた参ノ国の兵士たちから、驚愕の声が聞こえてくる。


「そんなバカな! こんな間抜けズラしたヤツが、あのインチキ陛下だって!?」

「……別に個人の感想にいちいちケチをつけるつもりはないけど、そういうことは本人のいないところで言ってくれないか?」


「こんなイヤラシイ目つきをした者が、一国の王なのか!?」

「……それはアンタんとこの天然王女が、誤った情報を拡散したからそう見えるだけだよ。俺は至ってまともな目つきをしてるよ」


「あんなことやそんなことを期待する変態のくせに、なんと貴公が隣国の国王だと言うのか?」

「…………おい、レネーゼ。なんでお前が兵士たちに混じって、しれっと俺の悪口を言ってんだよ。だいたい、お前は俺が王様だって知ってただろ? 周囲の雰囲気に流され過ぎなんだよ」


「いやぁ、なんだかワタシも、この楽しそうなイベントに参加したくなったのだ。ああ、もちろん貴公とのあんなプレイやこんなプレイも楽しみにしているからな!」


「おい! 誤解を招くようなこと、公衆の面前で叫ぶんじゃネエよ!」



「いい加減にしなさい!!!」

 ほら見ろ、目の前で委員長が激怒してるじゃないか。

 委員長は極めて真面目な性格をしてるんだから。


「あなたが、あのナカノ国の簒奪者さんだつしゃだったとは…… あなたのことは、教皇様からうかがっています。私は日本から来た転生者なのですが、あなたも同じ転生者なのですよね? 初めは同郷の人がこの世界で活躍していると思い、喜んだのですが…… なんですか、インチキ王国のインチキ一世国王って! あなた、ふざけるのも大概にしなさいよ!」


そうだよな…… 日本人が聞いたら、絶対ふざけていると思うよな。

インチキ一世と命名しやがったパイセンを見ると——

腹を抱えて笑ってやがる……


 委員長の抗議はまだ続く。

「あなたは本当にひどい人です。権力を利用して嫌がる参ノ国の王女殿下を無理矢理自分のものにしようだなんて…… あなたは全世界の女性の敵です! 不潔です! 汚らわしいです!」

 うーむ…… どこをどう見たら、レネーゼが嫌がっているように見えるんだか……

 アイツ、どう見てもノリノリじゃないか。

 ちょっとしたお祭り騒ぎだよ。

 むしろ、困っているのは俺の方なんですけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る