思いやりのカケラを探して
先ほど参ノ国の将兵が陣取る地上に、大空から舞い降りた俺たち。
そんな俺たちを、改めてじっくりと眺めていた指揮官の一人が、
「なんと! シンジラレネーゼ様もおられるではありませんか!」
と、大声で叫んだ。
その言葉を聞いた多くの将兵たちから歓声が上がった。
レネーゼは性格的にはアレだが、戦闘力は折り紙付きだ。
妹のナレードが参ノ国の知の象徴であるなら、姉のレネーゼは武の化身と言ったところか。
期待を含んだ指揮官の言葉を聞いたレネーゼがつぶやく。
「私に何か用か? ひょっとして…… お前もワタシに際どいプレイを期待しているのか?」
……お前はもう喋るな。
兵士たちの歓声が完全に収まるのを待ち、国王は指揮官に向け語り始める。
「お前たちには迷惑をかけたようだ…… だが、安心してくれ。私の気弱な心は既に吹き飛んだ。ここでニシノ国の軍勢を止めよう。いや、ここで敵軍を追い払おうぞ!」
再び、参ノ国軍から大きな歓声が響いた。
歓声を上げている参ノ国の将兵を眺めて見ると——
そこには、前回のターンで共に魔人族軍と戦った戦友たちの姿があった。
俺は
まだニシノ国軍との戦端は開かれていない。
ここで旧友たちの命を失ってなるものか。
俺がそんなことを考えていた時——
ニシノ国軍から二人の人物がこちらに近づいて来るのがわかった。
参ノ国軍の高揚を不審に思った敵軍が、斥候でも放ったのかと思ったのだが……
二人はまるでここが戦場であることを忘れているかのように、悠々とした態度でこちらに向かって来るではないか。
おわかりだと思うが、二人のうちの一人は、日本の同胞委員長ことキララ。もう一人は…… ラスカルッポイ=ケド・オスカルーさん、そう、誰が何と言ってもオスカルーさんだ。それ以外のネーミングは絶対に認めない。
「俺はアイツらのことをよく知っている。特に、そのうちの一人はかなりのヤリ手だ。ここは俺に任せてくれないか。まあ、いきなり攻撃して来ることはないと思うが」
と、俺がカッコよく言ったところ、参ノ国の将兵からは、『誰だ、お前?』みたいな視線が返って来た……
まあ、そりゃそうなるか。
みんな、前回のターンのことは知らないんだからな。
しかし、場の空気を読まないレネーゼが、
「いや、ここはワタシが行こう。なあに、ワタシにまかせれば、あんなヤツらイチコロだ」
などと言うではないか。
「……なあ、天然王女サマ、お前、人の話はちゃんと聞けよ。とりあえず向こうには戦闘の意志がないって言ってるだろ?」
「キッ、キサマ——」
あ、指揮官の人が怒った。
「——シンジラレネーゼ様に向かって、何という口の利き方だ!」
「ふっ、別にいいのだ」
レネーゼが何やら余裕の表情を見せ、そして話を続ける。
「なにせこの男は、ワタシのご主人様なのだからな」
「ナレードさーーーん! お姉さんの妄想がまた爆発してますよー! 訂正のほど、よろしくお願いしまーーーす!」
俺はナレードに丸投げすることにした。
そうこうしているうちに——
「あっ、ほら見ろ! バカなこと言ってる間に、あの二人、こっちに来ちゃったじゃないか。俺、参ノ国軍の一番先頭に立って、アイツらと話をしようと思ってたのに」
万が一のことを考え、参ノ国軍に被害が出ないよう、かなり軍勢の手前に出てあの二人と話をしようと思っていたのだ。
「皆、道を開けよ」
俺の言葉を聞いた参ノ国の国王がそう言うと、よくわからないといった顔をしながらも、兵士たちは軍勢の最前線へと至る道を作ってくれた。
兵士たちの『大丈夫かよ、コイツ』と言わんばかり視線に見送られながら、俺は軍勢の最前線へと歩みを進めた。
なんだかちょっと気分が滅入る。
みんなして、そんなウサンクサそうな顔で、俺を見なくてもいいじゃないか……
もちろん、パイセン始め王宮から一緒に空を飛んでここまでやって来たメンバーも、俺の後に続いた。
俺たちは兵士たちの集団の最前線に出た。目の前には委員長たちの姿がある。
もう少し前に出たかったが仕方ない。俺たちのすぐ後ろには参ノ国の将兵が控えているが、ここで話をするしかないようだ。
♢♢♢♢♢♢
「私はニシノ国の聖騎士、マエダ・キララと申します」
俺たちの目の前までやって来た委員長が、礼儀正しく我々に言葉を向けた。
へえ、委員長はニシノ国にいた頃、聖騎士なんてやってたのか。
アイツ、恥ずかしがり屋だから、聖騎士だったこと俺たちに隠してたんだな、なんてことを考えていると——
「そして、私の隣にいるのは、同じく聖騎士の——」
「ちょっと待てぇぇぇいいいッッッ!!!」
俺は大声で、委員長の言葉を
危ない、まさかここでそう来るとは。
でも大丈夫。
俺は意外と思いやりのある男なのだ。
委員長の秘密はちゃんと守ってやるからな。
「な、なんですか、あなたは! いきなり大声を出して。失礼ですよ」
もう一度言おう。それでも俺は極めて思いやりのある男なのだ。
ついでに言うと、ホニーは日本語が理解出来るのだ。ホニーはまだ、お多感なお年頃なのだ。
「えっと、なんて言うか…… そう、自己紹介はもういい。お前たちは自己紹介をしにここまで来たのか? 俺たちに何か言いたいことがあって、ここまで来たんだろ? 時間は大切にしようじゃないか」
うん、我ながら思いやりのある発言だな。
しかし、委員長から返って来た言葉は——
「なんて傲慢な物言いなんでしょう…… あなたのような無礼な人、始めて見ました。人の話は最後まで聞きましょうと、子どもの頃先生から教わらなかったのですか?」
俺、一応教員免許持ってるんですけど……
教育実習中は、『先生』って呼ばれてたんですけど……
「まったく、あなたには、人を思いやる気持ちのカケラもないようですね」
……さて、砕け散った思いやりのカケラでも集めようかなと、ブロークンハートな俺がそんなことを考えていると——
「カイセイ氏、どんまいっスよ!」
背後から声がかかった。
そうか、パイセンは前回のターンのこと、知ってるんだよな。
俺を見かねた…… のかどうかわからないが、とにかく俺のちょっと後ろにいる参ノ国の国王が口を開いた。
「私は参ノ国の国王、イワズトシレータ=ドゥ・テンネンである。使者殿のお話をうかがおうではないか」
やっぱりこの人も天然なのかな? なら、あまりこの人に喋らさない方がいいのかな? なんて、どうでもいいことを考えていると——
「あなたが参ノ国の国王さんなんですね。わかりました、そこにいる礼節をわきまえない人は放っておいて、話を進めましょう」
あんまりだよ委員長…… でも自動翻訳機能の正体を知った時の委員長を想像すると、なんだか切なくなるんだよ……
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