間話 前回のターンの話(ギャグ)② 自動翻訳機能再び
今話は、本編から約4年前の『前回のターン』の話です。
若干、性的な単語が含まれますので、苦手な方はどうぞ読み飛ばして下さい。
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ここは異世界。中世ヨーロッパ風の小さな街にあるダンジョンの前での一幕。
「いやー、まったく今日も異世界生活は順風満帆だな」
俺はカイセイ、37歳。日本ではごく普通のサラリーマンだった。異世界に来て2年目。今は冒険者ってヤツをやっている。
「イヤー、まったくアニキの言う通りっスね。今日の魔獣討伐も楽勝でしたから」
コイツはリューセイ、元工業高校2年生。つい最近この世界に転生した駆け出し冒険者だ。ちなみにコイツは俺のことをアニキと呼んでいる。ちょっと恥ずかしい。
「もう、カイセイさんも、リューセイくんも、危機感が足りないんじゃないですか? 真剣にやらないと、いつか死にますよ?」
で、この真面目なのがマナブ。なんでも日本では有名な進学校に通っていたそうだ。年齢もこの世界に来た時期もリューセイと同じ。やはり冒険者をやっている。
リューセイとはまったく正反対の性格であるが、二人の仲は悪くない。
ここのところ、俺はこの二人とつるんで行動することが多かった。だが最近、新たな女性転生者が俺たちの仲間に加わることになったのだ。
「マナブ君の言う通りですよ? 今日だって何回か危ない時がありましたから。明日からはもう少し慎重に、ダンジョン攻略頑張りましょうね」
コイツの名前は
俺よりも異世界生活が長い委員長であったが、他の転生者と出会ったのは俺たちが初めてとのこと。なんだか新鮮な感じがして楽しいと言っている。基本、性格は超真面目だ。
「委員長は本当に真面目だな」
俺は笑いながらキララに声を掛ける。
キララは自分の名前が好きじゃないと言っていた。だから、俺はコイツに『委員長』という性格ピッタリのアダ名をつけてやったのだ。
さて、俺達はダンジョンを出て、街の中心にある冒険者ギルドに向かっている。今日の収獲物を届けるためだ。俺たち4人でワイワイ話をしながら歩いていたところ——
「おーい、キララー! ちょっと待ってよぉ〜!!!」
俺たちの背後から声が聞こえてきた。声がする方角に目をやると——
なんだかスゴい美人が俺たち目掛けてダッシュしている。
「やっと見つけたよ、キララー! もう、私に黙ってニシノ国から出て行くなんて、ヒドイよぉ〜」
そう言って、この美女は委員長目掛けてダイブしたかと思うと…… なんと、委員長に抱きついたではないか! いくら女同士とはいえ、ちょっとエロいぞ。
あっ、なんだかマナブがモゾモゾし始めたんだけど…… ここは見て見ぬ振りだな。ふっ、俺は大人の配慮が出来る男なのだ。
「ちょ、ちょっとセメディ、やめて下さいよ! みんなが見てるでしょ!」
この美人さん、セメディって言うんだ。それにしても、この人スッゴく美人だな。いや、美人というより、カッコいいぞ。エラく男前な甲冑なんか着込んでるし。男装の令嬢って感じだ。
「べ、別にセメディが嫌いだから置いていったって訳ではないんですよ? セメディに迷惑をかけたくなかったと言うか……」
ちょっと恥ずかしそうに委員長がつぶやく。
「もう、わかってるわヨ! アタシはキララーの親友なんだから〜」
この人、どうやら委員長を追って、ニシノ国からやって来たようだな。ふーん、委員長って案外人望あるんだな。でもなんていうかこの人、見た目と言葉遣いが合ってないんだが…… 外見はとても凛々しいのに、中身はなんだか子どもっぽいというか。
「ああ、みなさんすみません、驚かせちゃって」
委員長が俺たち3人に向かって声をかける。
「こちらは、私がニシノ国にいたころ、一緒に行動していた——」
委員長の言葉を途中で
「は〜い! アタシ、キララーの親友で〜す。名前は————」
♢♢♢♢♢♢
さてここで、俺達転生者が女神様からもらった転生者特典『自動翻訳機能』について、説明せねばならない。
この自動翻訳機能はとてもスグレものである。俺達が理解できないこの世界の言葉を日本語に翻訳してくれるのは当たり前。この自動翻訳機能さんの真の力は、もっと他のところで発揮されるのだ。
なんと、この自動翻訳機能さん、地名や人名を翻訳する時、俺達転生者一人ひとりが覚えやすいよう、各自の趣味嗜好に合わせた訳を提供してくれるのである。
実例をあげて説明した方が早いだろう。
俺の知り合いには、スタイル抜群にして超美人の神官がいる。ソイツが俺、リューセイ、マナブの前で自己紹介した時、俺たちにはこんなふうに聞こえたのだ。
お笑い好きの俺には『バイン・バイーン』
三国志好きのリューセイには『ヨンダイビジン・チョウセン(四大美人貂蝉)』
美少女アニメ好きのマナブには『セーラーズ・ピーチ』
これによって、マナブが隠れ美少女アニメ好きだということが発覚したのだが…… まあ、それはいい。ちなみに、マナブの隠された趣味については、俺たち男3人だけの秘密にしてある。
♢♢♢♢♢♢
さて、ではそろそろ、目の前の出来事に話題を戻そうか。
さっきから俺の方をチラチラ見ていたリューセイが、俺に向かってヒソヒソと話しかけてきた。
「ねえアニキ。アニキには今の自己紹介、なんて聞こえたんスか?」
リューセイのヤツ、興味津々って感じだな。
「俺か? 俺には『ラスカルッポイ=ケド・オスカルー』って聞こえたぞ」
「なんスかそれ? やっぱり今日もアニキんトコの自動翻訳機能さんはキてるっスね」
確かに。愛くるしい性格をしてるからラスカルっぽいけど、見た目はカッコいいからオスカルって感じだよな。いやはや、今日も自動翻訳機能さんはいい仕事してるよ。
「で? オマエはなんて聞こえたんだよ?」
俺も興味津々、リューセイに問い返す。
「俺っスか? 俺は『キュウヨウキ・ソンショウコウ』っスね』
「ん? えっと…… ああ! 『
「そうっスね。でも、アニキんトコの翻訳で言うところの『ラスカルっぽい』ってところが、上手く表現されてないっていうか……」
「ふっふっふ。まあ、俺んトコの自動翻訳機能さんは世界最強だからな」
そんな俺達をあきれたような目で見つめながら、マナブが小声でつぶやく。
「ちょっと二人とも。なに自動翻訳談義で盛り上がってるんですか。そもそも自動翻訳機能は人じゃありませから」
俺はヒソヒソとマナブに応える。
「まったくマナブは真面目だな。ところでマナブには一体なんて聞こえた……」
「……………………」
マナブの刺すような視線が怖い。
「わかってるよ、ちょっと言ってみただけだよ。大丈夫だって。秘密はちゃんと守るから」
大方、『美人戦士・セーラーズ・プリティ』とか、そんな感じなんだろう。
「ちょっとみなさん! さっきから、なに男同士でコソコソと話をしているのですか!?」
おっと、委員長からお叱りを受けてしまった。委員長はぷりぷりしながら更に続ける。
「まったく、男の人って、本当に美人に弱いんだから。失礼ですよ、『セメデモウケ=デモ・バチコーイ』さんに」
「「「 えええっっっっっ!!! 」」」
「あ、そっか。やっぱり…… 女性の私がそんな言葉を口にしたら、そういうリアクションになりますよね……」
頬を赤らめた委員長が恥ずかしそうにつぶやく。
……いや、違うんだ。ちょっと待ってくれよ委員長。
『セメデモウケ=デモ・バチコーイ』さんって何だよ?
そうか、オマエは…… BLが好きなんだな。
しかも、結構ハゲシイのがお好みなんだ……
言っておくが、俺は別にBLに対して悪い感情とか、そういうのはまったく持ってないからな。
最近は本屋に行っても、普通にBLコーナーがあるぐらいだ。
俺だって読んだことがあるぐらい、今ではポピュラーな小説のジャンルになってるよ。
だからその…… なんていうか…… そのネーミングが生々しいんだよ!
たとえこれが…… 男女間の肉体的行為を具体的に表現したものであったとしても、若い女の子が口にすると……
じゅ、18禁的なネーミングはおっさんにとっては、その…… ああもう! とにかく恥ずかしいんだよ!
「み、みなさんどう思いますか、この自動翻訳機能について?」
顔を真っ赤にした委員長が再び口を開いた。
「わ、私この世界って結構好きなんですけど、唯一嫌いなのが、この『自動翻訳機能』なんですよね。なんかこう…… 人の名前を呼ぶのが恥ずかしいって言うか……」
……違うんだ委員長。恥ずかしいのは自動翻訳機能じゃないんだ。
「でもね。私はこう思うんです! 名前を呼ぶのを恥ずかしがるって、なんだか相手の人に失礼だと」
……そういうことじゃないんだよ。いや、でもある意味やっぱり失礼なのか?
「だからね、私、もう恥ずかしがるのをやめたんです! いいじゃないですか、『セメデモウケ=デモ・バチコーイ』さんで。聞き様によってはいい名前です。だって『セメデモ——』」
「わかった委員長! わかったからもうやめてくれ!!! 」
たまらず俺は委員長の発言を制止する。そして俺はリューセイとマナブに目をやったところ——
リューセイの野郎…… 腹を抱えながら笑ってやがる。
マナブはと言うと…… スッゲー気まずそうな顔して、俺と目を合わせてくれない。
ここはやはり、俺が委員長に説明しないといけないのか?
俺は意を決して委員長に話しかける。
「あのな、委員長。どうか心を落ち着かせて聞いて欲しいんだが——」
俺は委員長に、自動翻訳機能さんの優れた実力について説明した。説明を聞いた委員長は——
「う、嘘…… 嘘よ! そんな話、信じられないわ!!! じ、じゃあ、みなさんには、どんなふうに聞こえたって言うんですか!?」
「俺は…… お笑い好きなんで『ラスカルッポイ=ケド・オスカルー』って聞こえた」
「ジブンは三国志好きなんで『
「…………えっ! ボクも答えるんですか! いや、その………… ああもう、わかりましたよ! これも委員長さんのためです! 言ってやりますよ!」
あっ、マナブのヤツ、腹をくくったようだ。
「ボクは、その…… び、美少女アニメ好きなんで…… ああ、もう! 『キュワーズ・ワンダープリティ』って聞こえました!!!」
惜しい。そっちの方だったか。
「い…… いい…… いいい……」
俺達の話を聞いた委員長が固まっている。
「おい、どうした委員長。もしこの件について秘密にしておきたいのなら、大丈夫だ! 絶対秘密にしておいてやるから、っておい」
「いやぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!」
真っ赤に染まった自分の顔を両手で覆い隠した委員長は、叫び声を周囲に響かせながら、俺たちの前から走り去った。
状況が飲み込めない『セメデモ——』、いや、『ラスカルッポイ=ケド・オスカルー』さんは、ポカーンとした表情で委員長を見送っていた。
それにしても、なんで委員長のトコの自動翻訳機能さんは、この人にこんな名前を割り振ったんだろう?
うーむ…… この人の見た目、ちょっと男っぽいから、その道のプロである委員長には、なにかしら感じるものがあったのかも知れないな。よくわからないけど。
♢♢♢♢♢♢
後日、俺たち4人は委員長とマナブの秘密を絶対にバラさないという誓いを立てることにした。
リューセイのヤツがゴキゲンな様子で、『
リューセイの野郎…… ニヤニヤしながら、俺の顔を見やがって。
仕方ない。
俺はお笑い好きを自認する関西人だ。
売られた喧嘩、いや振られたボケなら買ってやる、いやツッコんでやるよ。
俺は諦めてこうつぶやいた。
「じゃあ、略して『
その直後、俺は委員長に脳ミソが飛び出るほどブン殴られた。
リューセイめ…… 覚えとけよ。
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