オジサンとオバサンと日本大好き少女の会話
アイシューとホニーの誤解は解けたようだが、まだ二人とも完全には納得していない様子だ。
「なんだよお前ら。俺が変態じゃないってことは証明されただろ? なんでそんなにムスッとしてるんだよ」
俺の言葉に対しホニーが、
「どうして、アタシたちを連れて行かなかったのヨ!」
と、ふくれっ面で文句をつけてきた。
「ちょっと視察して、すぐに帰るつもりだったんだ。だいたいお前らは、国の仕事やら魔法の練習やらで、忙しいだろ? 俺なりの配慮じゃないか」
「もう! 遊びに行くなら、どこに行くのかちゃんと報告してからじゃないとダメでしょ!」
アイシューってば、まったくどこかのオカンみたいなことを言いやがって。
俺は小学生か? 別に遊びに来たわけじゃないんだぞ。
でもまあ、とりあえず反論はせず、なんとか二人をなだめることに
年頃の娘さんたちの扱いは、本当に難しいのだ。
娘をもつ世間のお父さんたちに、心からの賛辞を贈りたい。
とにかく、この件はこれで解決したことにしておこう。
それではチャッチャと、ニシノ国の軍隊を追い返すことにしましょうか。
よくよく考えてみたところ、『同盟』を結ぶなんて言うから、話がややこしくなるのだということに、俺はついさっき気づいた。
『同盟』ではなく、『協力』することにして、サッサとニシノ国の軍隊を追い返して、トットとこの場から退散してしまえばいいじゃないか。
「俺たちも参ノ国に『協力』してやるから、早くニシノ国の軍隊を追い返そうぜ」
俺がせっかくそう言ってやったのに、レネーゼのヤツは、
「わかった。では、あんなことやこんなことは、同盟締結までとっておくことにしよう」
と、余計なことを蒸し返しやがって……
ほらまたアイシューとホニーの眉間にシワが寄ったじゃないか。
しかし、妹のナレードが、
「これは、姉様がひとりで妄想しているだけですからね」
と、素早くフォローしてくれた。
ナレードは参ノ国の人々から天才だと尊敬されているという。
確かに頭の回転が速そうな少女だ。
でも、頭の回転の速い天然って、いったいどんな脳の構造をしているのだろうか。謎が深まる。
さて、ここまで成り行きを見守っていたパイセンが、ここで久々に口を開いた。
統合代官の家臣たちはそのまま炎の牢獄に収監しておくとして、統合代官だけは再びウインドロープで縛って、ニシノ国の軍隊の前に引きずり出すと言い、ニタリと笑っておられるではないか。
パイセン曰く、『お前たちの計画はお見通しだったのだ』と、高笑いしながらニシノ国の連中に宣言したいんだって。
確かに、ニシノ国軍を手引きする役割の北西郡代官が捕らえられれば、ニシノ国軍もこれ以上の進軍は困難になるだろう。
そういうわけで、参ノ国の国王をはじめとしたこの国の重臣10名ほどと、王女シンジラレネーゼ、キサイナレード、それから俺、ミミー、アイシュー、ホニーのパーティメンバーに加え、元伍の国の王女ツツマシヤカーと我が国の宰相クローニン侯爵、ついでにウインドロープで拘束された北西郡統合代官は、パイセンが作り出した強力な上昇気流に乗り、一路ニシノ国との国境地帯目指して飛行した。
皆一様に、決意に満ちた表情をしている。
ただ、クローニン侯爵だけは、
『今後は決して、あのお二人に逆らってはいけない……』
と、うわ言のようにつぶやきながら、怯えた顔をしていた。
そう言えば、ホニーに思い切り顔面をブン殴られ、アイシューには血が出るほど腕に噛みつかれてたっけ……
クローニン侯爵の苦労は絶えないのであった。
♢♢♢♢♢
大空をカッコよく舞う俺。しかし——
飛行中もアイシューからのお小言が続いている。
お前、ついさっきまで決意に満ちた表情してたじゃないか……
「なあアイシュー、もう勘弁してくれよ…… 誤解の元はすべて『天然王女』の妄想だって理解してくれたんじゃないのか?」
俺の話を聞きつけたホニーが、待ってましたとばかりに口を開いた。
「『天然王女』って…… ひょっとしてその人、これから夜汽車に乗って、イスカンダルまで宇宙旅行に行くの!?」
「……それはおそらく、『
「もう! カイセイさん、いつにもまして解説が長いのよ! まったく、あなたたちは日本ネタを話さないと生きていけないの?」
「まあまあ、アイシュー氏。おっさんのカイセイ氏は、久々に若かりし頃の思い出を話せて嬉しいんっスよ」
「おい、パイセン。流石に俺だって、リアルタイムでは見てないぞ? でも、そういうお前だって、俺が言ってることちゃんとわかってるじゃないか。ひょっとして、お前、俺より年上だったりして」
「ななな、なに言ってんスか。自分にとっての宇宙の端っこは、『元サイドスリー』の『ジオン公国』っスからね!」
「……それだって、結構古いじゃないか」
「え? あっ! い、今のは冗談っスよ! 自分が好きなのは、セカンドインパクトで人類がなんか補完されるみたいなヤツで…… えっと……」
「…………無理すんなよ。今度、女神様でも誘って、3人で一緒に『ジェットストリームアタック』やろうぜ」
「……………………屈辱っス」
パイセンは心ならずも、自分の敗北を認めたようだ。
俺とパイセンのやり取りを聞いていたホニーが、再び辛抱たまらんといった様子で口を開く。
「ねえねえ! アタシのコーディネートカラーは赤色でショ! だから、3倍の速さで走って、アタシは『レッドマーキュリー』って呼ばれるのヨ!」
それだと『赤い彗星』じゃなくて、『赤い水星』だよ…… うーん…… 日本語って難しいな。
♢♢♢♢♢♢
さて、そんな小ネタを挟みながら、俺たちはついにニシノ国軍の最前線部隊がいる場所へとたどり着いた。
国境線はニシノ国軍に抜かれたようだが、それでも国境地帯からあまり遠くない場所で、敵軍は足止めを強いられていた。
ニシノ国の軍勢の前面には参ノ国の将兵が展開し、侵略者たちの進行を防ぐ構えを見せていたのだ。
俺たちは急いで参ノ国軍の将兵が陣取る平原へと下降。
指揮官だと思われる人物が、空中から現れた参ノ国の王の姿を認め、慌てた声で王に告げた。
「こ、これは国王陛下! 申し訳ありません、陛下からのご命令は王宮まで撤退せよということでしたが…… これ以上の撤退は国を捨てるのと同義、私には出来ませんでした!」
先ほど参ノ国の国王は、降伏を決めたと言っていた。
だから戦闘を避けるため、国軍には王宮まで撤退するよう命令を出していたのだろう。
だが結果的には、この目の前にいる指揮官の判断により、敵軍を参ノ国の懐深くまで近づけずに済んだのだ。
参ノ国軍からニシノ国軍までの距離はおよそ1km。
ここは平地であるため、肉眼でも敵を確認することが可能だ。
このぐらいの距離なら、俺のユニークスキル『人物鑑定』を使用することが出来る。
俺はスキルを使って敵軍を眺めて見たところ——
「あっ! あそこにいるのは、『委員長』じゃないか!」
俺は思わず大声を上げてしまった。
そう、ニシノ国軍の最前線に立つ女性——ニックネームは委員長——のことを、俺はよく知っているのだ。
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