幕間(説明回) 女神様の影響力
(今話はこの世界についての『説明回』です。特に中盤部分は説明が多いので、面倒な方は、どうぞ読み飛ばして下さい)
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俺は最近、『インチキ王国』の国王になった男、キシ・カイセイ。
市民からは『インチキ王』という嬉しくない名前で呼ばれている、36歳独身だ。
ここ数日、10歳前後の女の子との縁談話がひっきりなしに持ち上がり、人の傷口を言葉でエグるのがとても上手い天界から来た超絶美人や、美人を見ると魂を抜かれるオモシロ家臣に囲まれ、俺は楽しい毎日を送っている…… わけないだろ。
さて、どこからツッコめばいいのやら。
俺が『インチキ王』と呼ばれるようになった経緯については、ちょっとした誤解があったことは認めよう。
ほんの些細な誤解から、元特殊工作部隊のセッカチーは、俺のことを『インチキ魔導士サマ』と呼んでいた。
なんだか訂正するのも面倒なので、俺は放置していたのだ。
だが、セッカチーの野郎が、大勢の市民や家臣の前で、『インチキ魔導士サマ、万歳!』なんて大声で叫んだもんだから、みんな誤解したんだ。
でも俺は後日、インチキという日本語の意味を説明した上で、『どうか他の名前で呼んで下さいね』って、みなさんにお願いしたのだ。しかし——
知らない間に、俺は『インチキ王国』の初代国王『インチキ一世』と命名されていた。
コレ絶対、女神の使徒パイセンの
俺が一世ということは、俺の子孫までインチキ呼ばわりするつもりなんだな。
パイセンのヤツ、絶対に楽しんでやがる。
くそぅ…… いつか必ず然るべき報いを受けさせてやると心に誓った俺は、只今絶賛、パイセンの恥ずかしい二つ名を考え中だ。
ちなみに、頭脳明晰でいらっしゃる女神の使徒パイセンサマは、この国が落ち着くまでもう少し地上に留まって、法整備やらなにやら手伝ってやるとエラそうにのたまいやがり、我が邸宅の一番良い部屋を不法占拠してふんぞり返っておいでになる。
くそぅ…… なまじ仕事が出来るだけに、ヤツに対してぞんざいな態度を取れない自分が憎い。
ついでに言うと、俺は前王が使っていた王宮は使用せず、この街からトンズラしやがった下級貴族の邸宅を押収し、住居兼執務室として使っている。
日本で育った俺にとっては、大きな部屋より小さな部屋の方が落ち着くのだ。
きっと共感してくれる日本人も多いことだろうと思う。
しかし、市民からすると、華美を好まない品行方正な王様のように見えるようで、意外にも俺の人気がうなぎのぼりなんだと。
それから、ここのところ、旧ナカノ国の貴族や代官たちが毎日のように押しかけ、服従を申し出てくるため、彼らの面談に追われる毎日を送っている。
まあ、それはいい。無駄な争いは起こらないに越したことはない。
しかし、なぜかコイツらは縁談話もオマケとして持ち込んでくるのだ。
でも、その相手が幼いんだ。みんな10歳前後なんだ。
この世界の貴族たちは、10代前半で嫁に行くんだって。
だから妙齢の女性は残ってないんだと。
今まで何回言ったか、もうわからないけど、それでもあえて、もう一度言わねばならない。
俺はロリコンじゃ、ネエんだよぉぉぉ!!!
ハァ…… 疲れた。
さて——
ここは元下級貴族の邸宅にある執務室。
俺がいつも仕事をしている場所である。
俺の目の前に座っているパイセンが面倒くさそうに口を開く。
「今、おそらく、頭の中でイヤラシイ妄想を巡らせているカイセイ氏。そろそろ話を始めたいんスけど、いいっスか?」
別にイヤラシイことなんて考えてねえよ。
お前の恥ずかしい二つ名を考えてるんだよ。
なんてことはどうでもいい。
「今、一番の懸案事項、悪魔教徒のアジトから逃げた黒いフードを被った男についての話っス」
この男、俺のユニークスキル『広域索敵』に反応しなかったのだ。
こんなこと、前回のターンを含めて初めての経験だった。
更には全知全能を自称する女神様の追跡をかわして、どこかへ逃げてしまったのだ。
なにやってんだよ、女神様。
「天界から黒いフードの男を捜索中なんスけど、未だ所在は不明っス」
「……ということは、今は女神様がパイセンの代わりに、天界からその男を探してるってことなのか? それなら…… パイセン、お前早く天界に帰った方がいいんじゃないか?」
——ゴロゴロ……
上空からカミナリの音が聞こえたような気がした……
「えっと…… とても美しくて聡明であられる女神様が、今日も息災であられることをお祈りしつつ、話を続けようか」
「……アンタ、どこまでも小心者っスね」
「チッ、今のは聞かなかったことにしといてやるよ…… なあ、パイセン、天界から地上を眺めれば、黒いフードの男なんて簡単に見つかるんじゃないのか? 実際、今だって女神様は俺たちのやり取りを天界から見ているようだし」
「黒いフードの男は、女神様のご威光が届かないところにいると思われるんスよ」
「ご威光? なにそれ?」
「第4世代女神にして、現在唯一の女神であられるテラ様の信者がいない地域は、天界から地上の様子が見えないんスよ」
「え? 魔人族がテラ様を信仰していないのは、前回のターンで学んだけど…… ひょっとして、他の種族の人たちからも、テラ様って人気ないのか?」
「ハァ…… しょうがないっスね。ちょっと説明するっス」
そう言って、パイセンが魔法のようなもので、空中に文字を書き始めた。もちろん日本語でだ。
前にも言ったが、ほんと、パイセンはプロジェクターいらずだな。
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第1世代女神の時代
(北)魔人族——マージ
(西)森林族——フェアー
(東)人間族——ヒューマ
(南)獣人族——ビース
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「これが始まりの女神4柱っス。これは大丈夫っスよね?」
「ああ、大丈夫だ」
再び、パイセンは空中に文字を刻む。
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第2世代女神の時代(開始時)
(北)魔人族——ホクセー
(西)森林族—— 〃
(東)人間族——ナントー
(南)獣人族—— 〃
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「二柱の女神でこの世界を治めるはずだったんスけど、北西部を担当したホクセー様の御心が正しく伝わらず、大部分の魔人族、森林族の人々は、前世代女神たちへの信仰を続けたんス。第2世代女神の治世後半を文字で書くとこんな感じっスね」
そう言って、またパイセンは空中に文字を刻む。
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第2世代女神の時代(後半)
(北)魔人族の大部分——マージ(第1世代)
(西)森林族の大部分——フェアー(第1世代)
魔人族と森林族の一部——ホクセー(第2世代)
(東)人間族——ナントー(第2世代)
(南)獣人族—— 〃
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「次の第3世代女神が火・水・風の新魔法を人間族にだけ付与し、人間族をこの世界の統治者にしようと考えていたことは知ってるっスよね? 当然、人間族以外の種族は反抗し、獣人族は前女神であるナントー様への信仰を続けたんス」
「なんで第3世代女神マエノー様は、人間族だけを優遇したんだ?」
「いろいろあったんスよ…… 話すと本当に長くなるんで、今日のところは割愛するっス。ああ、それからナントー様の時代に作られた教会に属する人たちは、最後までマエノー様を受け入れなかったっス」
「なんか、いろいろ争いがあったみたいだな」
「そうっスね。マエノー様は新しく『聖堂会』を作って、教会は廃止するつもりだったみたいっスから。その時代の勢力関係を文字にすると、こんな感じっスかね」
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第3世代女神の時代の信仰
(北)魔人族の大部分——マージ(第1世代)
(西)森林族の大部分——フェアー(第1世代)
魔人族と森林族の一部——ホクセー(第2世代)
(東)人間族の大部分——マエノー(第3世代)
人間族の一部(教会派)——ナントー(第2世代)
(南)獣人族——ナントー(第2世代)
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「さて、いよいよ我らが女神、第4世代女神テラ様の登場っス。テラ様は自分を信仰する人なら誰でも新魔法を付与するとおっしゃったんっス。ヨッ、この太っ腹って感じっス」
「盛り上がってるのか、からかってるのか、よくわからないとこ悪いんだけど…… でも結局のところ、テラ様って、あんまり信仰されてないんだな?」
「……前女神マエノー様のせいっスよ。テラ様は一応マエノー様の後継者ってことになってるから、人間族以外の種族からは信頼してもらえないんス。それでも、獣人族領の東部あたりでは、テラ様を信仰する人たちも増えてきたんスよ」
「そうだよな。前回のターンでも、獣人族の義勇兵が、俺たち人間族軍と一緒に戦ってくれてたからな」
「あとは、人間族の中でもニシノ国だけは、未だにテラ様を信仰してないっスね」
「ニシノ国は謎だよな。鎖国政策なんてやってるし」
「ニシノ国では、今でもマエノー様への信仰一色って感じっス。じゃあ、現在の勢力関係を文字にするっスね」
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第4世代女神の時代(現在)の信仰
(北)魔人族の大部分——マージ(第1世代)
(西)森林族の大部分——フェアー(第1世代)
魔人族と森林族の一部——ホクセー(第2世代)
(東)人間族(聖堂会派)——テラ(第4世代)、マエノー(第3世代)
人間族(教会派)——テラ(第4世代)、ナントー(第2世代)
注) ニシノ国——マエノー(第3世代)のみ
(南)獣人族東部——テラ(第4世代)、ナントー(第2世代)
獣人族西部——ナントー(第2世代)
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俺のように、テラ様だけを信仰する人——ミミーは『テラ様オンリー信者』って言ってたっけ——も、ごく少数はいると思うけど、基本的にテラ様を信仰している人は、他の女神様も同じように崇拝しているのだ。
「よくわかったよ。ありがとうな、パイセン。じゃあ結局、現在テラ様のご威光の及ぶ地域、すなわち天界から地上の様子をウオッチ出来る範囲は——」
「まとめると、こんな感じっス」
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第4世代女神テラ様のご威光が及ぶ地域
(東)人間族——ニシノ国を除く地域
(南)獣人族——東部
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「……まとめる必要あったのか? なんだかちょっと悲しくなってきたぞ……」
「……そんな顔して自分のこと見ないで欲しいっス……」
「俺、これからは頑張って、テラ様を応援するよ…… あれ? 何の話だっけ。そうだ、フードの男の話をしてたんだ」
「そうっス。だから、フードの男は天界からウオッチ出来ない地域にいるってことっス」
「ふーん…… でもまあ、それって俺たちの近くにはいないってことだよな。なら、当面は俺たちに変なちょっかいを出してくることもないってことか」
「そういうことっス。でもあの男は相当ヤバそうなんで、ヤツの対応は自分がするつもりっス。だから万が一の時は、カイセイ氏も娘さんたちを連れて、全力で逃げて欲しいっス」
「よし、とりあえず了解だ。でも、パイセンもあんまり無理するなよ。出来ることがあれば、俺も協力するからさ」
「カイセイ氏は時々男前な発言をするっスね。これで顔が悪くなければ、完璧なナイスなガイなのに」
「……お前は顔が良いよな。美人だと思うよ。これで口と性格と根性と、その他諸々が悪くなければ、もっとプリティなウーマンになるのにな」
「……性格と根性は同じようなモンでしょ。語彙力ないんっスか?」
「……お前みたいに、悪口の引き出しが多くないもんでな」
大事な話も一段落して、俺とパイセンが口喧嘩の臨戦態勢に入ったところ——
「ああっ! パイセンとカイセイ発見。こんなところにいたのネ。 アタシ、探してたんだから!」
笑顔のホニーが、執務室に乱入して来た。
最近、ホニーは夜になるとパイセンの部屋に入り浸っている。
いや、ホニーだけではない。
アイシューやミミーも、パイセンに何やら遊んでもらっているようだ。
娘さんたちも楽しそうなので、きっと男の俺では出来ないような、心理的なケアやらフォローやらをしてくれているのだろうと、ほんのちょっぴりパイセンに感謝している。
「あのね、アタシ昨日の夜、パイセンから錬金術ウハウハ生活を送るジイさんの話を聞いたの! その話をカイセイにも教えてあげようと思ってたのヨ!」
錬金術ウハウハ生活って…… またパイセンのヤツ、いい加減なこと教えやがって。これだから、心の底から感謝できないんだよ。
と思ってパイセンを見たところ——
姿が消えている。
きっと都合が悪くなったんで、魔法か何かを使って逃げやがったんだな。
「あれ? パイセンがいなくなったけど…… まあいいワ」
ホニーが話をしたくてウズウズしている。仕方ない。その錬金術ウハウハ生活ってのを聞いてやろうじゃないか。よし、来い!
「むかーし昔、あるところに、おじいさんとおばあさんと、もう一人ジイさんが住んでいました」
……なんだか複雑な家庭環境だな。
「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きましたが、もう一人のジイさんは家でゴロゴロしていました」
……もう一人のジイさんは働かないのか?
「どうしてもう一人のジイさんは働かないのかって? それは、もう一人のジイさんは——」
錬金術師だから家にいるんだろ?
「——厚生年金受給者だったからです」
「は?」
「おばあさんは言いました。『ああ、私はどうして若い頃、自営業なんかやっちまったんだろう。国民年金だけじゃ、やっていけないよ』と」
いや、昔、自営業やってたんなら、当時は結構儲けてたんじゃないのか?
貯金があったりするんじゃないのか?
あれ? ひょっとして俺、もっと年金制度のこと、勉強しなきゃいけないのか?
…………そんなわけないだろ。ここは異世界じゃないか。
なんだかもう、どうでもよくなってきたけど、でも一応ツッコんでおくか。
「きっと、パイセンの話は『
なんだか真面目に話をするのが面倒になってきた俺は、適当にこの話を終わらせることにした。
「まあ、なんだ。もしホニーが日本に転生したら、お前も定年退職するまで一生懸命サラリーマンとして働けよ。きっと年金充実ウハウハ生活を送れると思うから、まあ頑張れ」
「うーん…… でもこれからは、給付開始年齢が引き上げられると思うから、いくら厚生年金だからといって、そんなにウハウハ生活は出来ないんじゃないかしら」
ホニーよ。お前、実は本当に日本に転生するつもりだったりして……
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