美を愛でる男

 クローニン侯爵を宰相に、そしてアイシューを公爵にするというパイセンからの入れ知恵を、みんなに披露したところ——


「それは妙案ですじゃ!」

 ケッパーク卿、賛成。


「それがよろしいかと」

 オソレナシー将軍、賛成。


「皆様がそれでよろしいのであれば、この不詳クローニン、謹んでこの大役を務めさせていただきます」

 クローニン侯爵、謙遜しつつも賛成。


「……………………」

 セイレーン卿、パイセンに見れているため棄権。


 セイレーン卿ってば、今度はパイセンを見つめて、ぽわーんとした顔をしている。

 忘れがちであるが、パイセンは女神様に勝るとも劣らぬ超絶美人なのだ。

 女神様がカワイイ系の美女だとすると、パイセンはカッコいい系の美女だと言える。

 セイレーン卿は、またしても心を奪われてしまったようだ。


「セイレーン卿! 貴殿はまた、なんというだらしのない顔をしているのじゃ!」

 おじいさん貴族のケッパーク卿に、またもや叱責されるセイレーン卿。


「も、申し訳ありません……」

 真っ赤な顔で謝罪にの言葉を口にするセイレーン卿。

 デジャブ。



 さて、旧ナカノ国の家臣のみなさんからは、概ね賛成を得られたようだが……

「ちょっと待って下さい! なんで私が公爵になるんですか!?」

 困った様子のアイシューが叫んだ。


「そうヨ! そういう役割は、このホニーさんが適任じゃないのヨ!」

 アイシューだけに良いところを持って行かれてなるものかと、ホニーも叫んだ。


 パイセンがまた俺の耳元でゴニョゴニョつぶやく。そして俺は——


「えっと…… ホニーはヒガシノ国の伯爵だから、他の国の王様から爵位をもらうと、ややこしいことになるって……」


「むむむ…… 仕方ないわネ。パイセンがそう言うなら、今回はアイシューに譲ってあげることにするワ!」

 ホニーのヤツめ、パイセンの言うことには素直に従うようだな。


 しかし——


「ムムっ! なんでオレっちがコーシャクじゃないのかわからないゾ!」

 今度はミミーが大声をあげた。


 またパイセンがゴニョゴニョ…… そして、また俺は——


「えっと…… ミミーはまだ小さいから? 幼い女の子に爵位を与えると、俺に変な下心があると思われる…… って、おいパイセン! それだと、なんか俺が変態みたいじゃネエか!」


「パイセンがそう言うなら、オレっちは我慢するゾ!」

「納得するなよ!」

 でもまあ、ミミーは基本的に素直でいい子だから、これはこれで良しとしよう。


「パイセン殿、では他の公爵家の扱いはどのように?」

 次に、とても真面目なクローニン侯爵が、とても真面目な質問を投げかけてきた。


 ゴニョゴニョ…… 俺は——


「えっと…… 他の公爵家は降爵こうしゃく? 爵位を下げるってことでいいのか? まあ、そう言う感じでアイシューを一番にして……」


「パイセン殿、それではアイシュー殿は陛下の親族と考えて、よろしいのですか?」

 クローニン侯爵の質問が続く。


 ゴニョゴニョ……


「えっと…… 俺に万が一のことがあっても、後継者がアイシューみたいな感じになってると、市民も安心するって言うか…… え? それって、俺が死んでもいいってことなのか?」


「パイセン殿、アイシュー殿叙爵の時期については、いつ頃がよろしいか?」

 またクローニン侯爵が……


 ゴニョ……


「あああっっっーーー!!! メンドくせえ!!! おい、パイセン、もうお前が直接、話をしろよ! 別に俺がお前の代わりに話す意味、ねえじゃねえか!」


「相変わらずカイセイ氏はバカっスね。いいっスか? 女神様に仕える者が、特定の人物に肩入れしちゃあ、いけないに決まってるでしょ? だから、これまでのカイセイ氏の発言は、全てカイセイ氏が考えたことっスから、みなさんもそのつもりで」


「……ここにいる者誰一人として、こんな名案を俺が考えたなんて思ってねえよ。もう、お前は女神の巫女じゃないってことにしておけよ。だいたい、なんでわざわざ巫女服なんて着てくるんだよ」


「服務規定で、そう決まってるもんで」

「…………意外と厳しい職場なんだな」


 あきれ顔でそうつぶやいた俺に続いて、

「私は巫女服がどのようなものであるか知りません。私にはパイセン様が着ておられる衣服は、ごく普通の普段着に見えますよ」

と、クローニン侯爵が発言した。


「流石はクローニン侯爵。私にもごく普通の衣服に見えますな」

 ケッパーク卿、同意。


「なるほど。政治の世界とは複雑ですね。ふふっ、きっとそこにおられるのは、ごく普通の服を着た、ごく普通のご婦人なのでしょう」

 オソレナシー将軍、同意。


「セイレーン卿、貴殿はどうなのじゃ?」

 ケッパーク卿から意見を述べるよう促されたセイレーン卿はというと……


「私には、とても美しい女性に見えます!」

 なに言ってんだろう、この人……


「えっと…… セイレーン卿については、今日のところは、いないということにしておきましょう。そういうわけで、満場一致でパイセンはごく普通の人ということに決まりました。だからパイセンはこれ以降、自由に話していいからな。あっ、セイレーン卿、ちょっとうるさいから黙っててもらえますか?」

 俺は、パイセンの美しさを語り出したセイレーン卿を黙らせた。


「じゃあ、普通の人になったようなんで、ここからは直接話をさせてもらうっス。あっ、セイレーン卿、ちょっとうるさいんで黙ってて欲しいっス」

 まだパイセンの美しさを語り続けていたセイレーン卿、再び黙らせられる。


 ひょっとして、セイレーン卿って、興奮したら周りが見えなくなるタイプなのかな。

 それとも、恋に生きるタイプなのか?

 まあ、セイレーン卿の生態については、追い追い調査することにしよう。

 ちょっと楽しみだ。



「あの…… セイレーン卿のオモシロ具合がうなぎのぼりのところ恐縮しますが…… そろそろ私のことも思い出してもらえないでしょうか」

 ため息まじりに、アイシューが愚痴をこぼした。

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