インチキ国王誕生

「申し上げまーーーす!!! 街にいた憲兵は、すべて捕らえました! もう、人質を取られる心配はありません!!!」


 オソレナシー将軍の背後から叫び声が聞こえた。

 ナカノ国の兵士が大声を上げているようだ。


「皆聞け! 獅子身中の虫どもは捕らえた! お前たちの家族はもう安全だ!」

 オソレナシー将軍がそう叫ぶと——


「「「「「 うおおおーーー!!! 」」」」」

 兵士たちから、大歓声が湧き上がった。


 なるほど。憲兵っていうヤツらが、人質を監視する役割を担ってたんだな。

 じゃあこれで、人質の問題も一件落着だな。


「あのー…… じゃあもう、降伏とか、そういうのはいいんじゃないでしょうか……」

 とても控えめに俺がそう言うと、オソレナシー将軍の隣にいた上品そうな服を着たおじさんが、

「確かにおっしゃる通りかと。ではどうか、私の首ひとつでお許し下さい」

 と、のたまったではないか……


「……いったいどこがどの通りなんですか?」

 俺がそう言うと、おじさんは両膝をついた。この世界で言うところの『献命嘆願の礼』と言うヤツだ。日本的に言うなら、これから切腹しますんで、どうかお願い聞いて下さいねって感じのアレだ。


「コウケツー卿、何を言われる! それは私がやるべきことだ!」

 オソレナシー将軍が声を上げる。


 人物鑑定スキルでおじさんを鑑定したところ、名前はイチズヒト=スジ・コウケツーというらしい。

 確かに高潔な人物のようだ。


「待たれよ! そういうことは、古来より年寄りの役割と決まっておる! どうか、このシワ首ひとつでご勘弁を」

 今度はおじいさんっぽい人が声を上げた。

 名前は—— ゼンシンゼン=レイ・ケッパーク。

 なるほど。この人も性格がとてもよろしいようだ。


「お待ち下さい! けいはケッパーク家の御当主ではありませんか! 私はしがない男爵家の三男坊、どうかそのお役目はこの私に!」

 今後は俺と同い年ぐらいの人——ココロネ=ズット・セイレーンというらしい——が、おじいさんっぽいケッパクー氏を庇った。


「若者が死に急いでなんとするか! こういう役割は古来より年寄りが——」


「もう、いい加減にして下さい!!!」

 アイシューが叫んだ。そして——


「カイセイさん! どうしてさっきから黙ってるの!?」


「あっ、そうだ! スマン、ちょっとボーッとしてた……」

 俺はオソレナシー将軍の顔を見て、前回のターンのことを思い出し、いろいろと考え込んでいたのだ……


 チクショウ、何やってんだ、俺。

 前回と同じことを繰り返すのはもうごめんなんじゃないのかよ。


「みなさん、なんだかいろいろ誤解があるようですが、まず、ここで誰か死ぬ必要なんてありません! と言いますか、絶対に死んだらダメですよ? いいですね? 俺、女神様と約束したんです。誰も死なない、そして殺されない方法でこの世界に平和をもたらすと。どうか俺を背教者にしないでいただきたい」


「あっ、なんかカイセイがカッコいいこと言った」

「そうよ、カイセイさんはふざけなければ、ちゃんとカッコいいんだから」

「オニーサンはふざけても真面目でもカッコいいゾ!」


 なんだか娘さんたちから、思わぬ高評価をいただいた。

 でも、それはそれで、ちょっと恥ずかしいんですけど……



「コホン…… 失礼しました。えっと、そう、誤解です。どうやら我々の間には誤解があるようです。まずですね、俺たちは別に戦いに来たわけじゃないんです。ウチのメンバーのホニーの、その…… 下着を取り返しに来ただけなんですから」


 俺の言葉を聞いたオソレナシー将軍をはじめとするナカノ国の兵士たちが顔を見合わせた。

『コイツ、ナニイッテンダ?』みたいな顔で、みんな困惑している。


 戸惑いながらも、兵士を代表して将軍がこれまでの経緯を説明してくれた。


 将軍の話によると、俺たちがこの街に攻めて来ると思った国王は、住民を置き去りにして、有力貴族たちと共に、サッサと南へ逃げ出したそうだ。


 この街に残された軍の責任者はオソレナシー将軍。政治の責任者は先ほど命を投げ出そうとした3人の貴族だそうだ。


 将軍と3人の貴族は、国王たちが少しでも遠くへ逃げるための時間を稼ぐよう、命じられていたとのこと。


 まったく…… この国の王は本当にクズだな。


 説明を終えた将軍が、俺に向かって懇願する。

「もし、大魔導士様がこのまま引き上げられたら、あなた様に降伏した兵士はもちろん、この街の住人まで国家反逆罪で捕縛されるでしょう。どうか、我らの王となり、この街の民をお守り下さい!」


「オウっ! そういうことなら、オニーサンにドドーンと任せておけばいいゾ!」


「おい、ミミー! お前、なに調子のいいことを——」


 その時、俺の言葉をさえぎるように、街の中にいる兵士の背後から声が聞こえた。

「インチキ魔導士様!!!」

 あっ、コイツは元特殊工作部隊隊長のセッカチーじゃないか。

 なんでこのタイミングで、この街にいるんだか……


 それから…… インチキの意味を説明するのずっと忘れてたよ。

 アイツが『大魔導士様』なんて言うもんだから、ちょっと謙遜して『俺なんてインチキ魔導士ってとこだよ』なんて言って以来、アイツは俺のことをそう呼ぶのだ。


 この世界には『インチキ』という概念がないそうで、セッカチーからすると、意味はわからないけど、イカした感じの外来語みたいな雰囲気で使っているのだ。


「みんな聞いてくれ! このお方は、インチキ魔導士様と言われるとても素晴らしいお方だ! みんなでインチキ魔導士様を讃えようじゃないか! インチキ魔導士様、いや、インチキ国王陛下バンザーイ!!!」


「何回インチキって言えば気がすむんだよ! 本当にせっかちなヤツだな! いいか、俺はまだ何も——」


「「「「「 インチキ国王陛下、バンザーイ!!! 」」」」」


 ……ほら見ろ。兵士たちからも歓声が上がってしまったじゃないか。

 でも、なんだか大勢の人から一斉に悪口を言われているような気分だ。


 いや、そんなことより……

 俺に王様なんて務まるわけないだろ!!!

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