後日談 〜ヒトスジー伯爵領〜
〈 これは俺達がセバスーさん達と別れてから数日後、偶然道中で出会ったジンセイ=ズット・クローニン侯爵のお供の人から聞いた話だ。また適度にツッコミを入れながら、話の内容を振り返ってみることにしよう 〉
ここは中・東、両国国境付近にあるクローニン侯爵軍の本陣。俺との面会を終えた侯爵とコヤクニーン改めセッカチーが話をしている。
「コヤクニーン、本当に気待ちは変わらないのだな」
クローニン侯爵が口を開く。
「自分はセッカチーです。いんちき魔導士様にいただいたこの名前で、これからは心を入れ替えて生きて行こうと思います」
セッカチーがなにやら
「うむ。では特殊工作部隊を辞めるだけでなく、国軍も退き、公務員じたいを辞すると言うことでいいのだな?」
「はい。自分の決心は変わりません」
なんと、セッカチーのヤツ、そんなことを考えてたんだ。
「まあ、あの御仁の人柄に触れては、今までの価値観など、どこかへ吹き飛んでしまっても仕方ないか……」
「はい。これからは冒険者として生きて行こうと思います。今の俺じゃあ、いんちき魔導士様の足元にも及びませが、もっと経験を積んで、いつかはいんちき魔導士様のパーティに加わりたいと思っています」
ほう、セッカチーは俺のパーティに加わりたいと思っているのか。
「ふふっ。確かにあのパーティは刺激が多くて楽しそうだな」
「ええ。ヒトスジー伯爵令嬢はもちろん、あのミミーって娘もなかなか味のある人物ですよ。それから、なんと言っても元水の聖女のアイシュー様ですが、あの方なんて、ここ数日で見違えるほど面白くなってましたから」
確かに。アイシューのヤツ、ここのところ、だいぶ自分の本性を晒け出してきたからな。
「そうか…… 私ももし、もう少し若くて領主というしがらみがなければ、お前と同じような行動をとっていたかも知れないな」
「なんと!」
へー。侯爵もそんなことを考えてたのか。
「まあいい。ただ…… 猊下に関して、少し気になる情報も入っているのだが……」
あれ? なんだかまた嫌な予感がしてきた……
「えっ、それはどのような…… あっ、し、失礼いたしました! 侯爵様に対してこのようなことを。でも…… でも、どうか教えていただけませんか? 俺、いんちき魔導士様のことなら、なんでも知っておきたいんです!」
「まあ、そうだな。ここでお前と出会ったのも何かの縁だ。お前にとって大切な情報になると思うので、伝えておこう」
「ははー。ありがたき幸せ」
「これは旅の商人達の噂なのだが…… なんでも猊下は年若い娘がお好みだとか」
……やっぱりそうきたか。
「と、言いますと?」
「うむ。その噂では、猊下は年若い娘しかパーティメンバーにしないということなのだ」
まったく…… 色ボケ神官バインバイーンが放ったインチキ情報の浸透力は凄まじいな。
「いやー、こう言ってはなんですが、確かにいんちき魔導士様の周りには女の子が多いですが、あれはなんというか、性的な関係というより、親子の関係って感じに見えましたが」
そうだ、よく言ったぞセッカチー! お前は本当に物事の本質を見る目があると思うぞ。この前はぞんざいな扱いをしてゴメンな。
「うむ。私も実際にこの目で見て、お前が述べた意見と同様の感想を持ったのだ」
流石です、クローニン侯爵! その慧眼、尊敬します。
「じゃあ、単に年が若ければなんでもいいって訳じゃないのかも知れませんね」
「うむ。たまたま猊下が愛されたお方が年若かったというだけのことかも知れないな」
いや、そういうことじゃ、ないんですけど……
「そうですね。じゃあ、俺、美人の嫁さん見つけて、スッゲー可愛い女の子をつくって、いんちき魔導士様の義理の父親になりますよ」
「はっはっは。それもいいかも知れないな」
えっと…… 和やかな雰囲気になってるとこ申し訳ないんですけど…… ちょっと確認しておこうか。まず俺は今までの人生において、10代の女性と付き合ったことはないからな。
俺、10代の頃はとてもピュアな少年だったんだよ。だから始めて女性と付き合ったのは20歳を過ぎてからなんだ。もちろん相手も20代だったし。だから『年若い娘』を好んだことなんてないんだよ。
それから、今後どんなに可愛い娘がいても、日本の法律に反するような行為はしないからな。
もう、パーティメンバーじゃなくてもいいんで、誰か一緒に同行してくれる成人——別に男でも女でもどっちでもいいや——を探さなければ、誤った噂がどんどん広まって行くような気がする…… 今度、冒険者ギルドに求人募集の張り紙でも出しておこうかな。
それにしても、いったいどれぐらいの人にウソ情報を話せば、こんなに噂が広まるものなのだろうか? 恐るべし、ホラ吹き神官バインバイーン……
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