顔が赤いのは火魔法のせいだ

「ムムっ! この先、右、黒い岩の上、クモみたいなデッカいのが隠れてるゾ!」

「よし、任せとけ!」


 俺は左腕でちびっ子を抱えたまま、風魔法の力を使い上空へ移動。岩の切れ目から右手一本で剣を突き刺し、余裕でクモ型の魔獣を仕留める。これで3体目だ。


「オオっ! オニーサンすごいゾ! 一撃だゾ!」

「なぁに、俺にかかればこんなの造作もないさ! 」

 ああ、なんだか気分がいいな。このちびっ子ってば、意外に誉め上手じゃないか。


「次は左の上の方、あの赤い大きな岩がいっぱいあるところ! あそこに4体ネズミっぽいのが隠れてるゾ! でも大きいから気をつけた方がいいゾ!」


 うん、本当は俺も索敵能力があるからわかってるんだ。でもここはちびっ子に花を持たせてやろうじゃないか。これが大人の対応というものだ。バインめ、思い知れ! って、ここにはいないけど。


「いいか、ちびっ子? あの赤い岩は流石に硬そうだ。まず風魔法を使って前方の岩を削るからな。岩から出てきたところを剣で仕留めよう。おい、ちびっ子、お前もその短剣で戦うか?」


「オウっ! でもオレっち、ちびっ子じゃなくてミミーだゾ! オレっちも戦うぞ!!!」

「よしわかった! じゃあミミー、どれでもいいからお前がまず1体仕留めろ。残り3体は俺に任せろ!」


「オウっ! わかったゾ!」


 ああ、なんだろう。心地の良い充足感が俺の中に沸き起こっている。これもきっとミミーのおかげだな。俺たちは地上に降りて、もうしばらく魔獣討伐に励むことにした。


 そんなこんなで、気がつけば結構ダンジョンの下層まで降りて来ていた。なんだかんだで100体以上、魔獣倒しちゃったかな。流石にちょっとハシャギ過ぎたか…… でも見てみろよ、ミミーのヤツ。キラキラした目で俺を見てるよ。

 いやー、純粋な気持ちで心からの賛辞を贈られるって心地いいもんだな。なんだか心が洗われるよ。ここのところ、ずっと戦場生活だったからな。きっと心が荒んでたんだろう。



♢♢♢♢♢♢



 さて、俺とミミーが魔獣討伐を始めてから随分時間が経ったようだ。バイン達がいたあの場から逃げ出して来たものの、流石にそろそろ戻らないとマズイな。


 そうだ、ナミダーメさんにサッと挨拶して、サッサとその場から立ち去ろう。別に悪いことをしたわけじゃないけど、自分の能力を隠してたんだからやっぱりちょっと気不味いな。


 本当は護衛なんか必要ないのに、『ナミダーメさん、一緒に来てくれますか?』みたいなことも言っちゃったし…… 冷静に考えるとかなり恥ずかしい。決して下心があったわけじゃないんだ。いや、ちょっとはあったけど……


「ムムっ? オニーサンどうかしたのカ? 顔が真っ赤だゾ!?」

「きっと火魔法を使ったからだろう」


「ムムムっ? オニーサンは風魔法しか使ってないゾ?!」

「そこはデリケートな部分なんだ、そっとしておいてくれないか? そんなことよりミミー、随分遠くまで来ちまったから、流石にみんな心配してるだろう。そろそろ戻ろうか?」


「オウっ! わかったゾ! じゃあ、オレっち、お金になりそうな魔獣を解体するから、ちょっと待ってて欲しいゾ!」

「でも、解体してたら時間かかるだろ? 今日はそのまま持って帰らないか?」


「ムムっ? オニーサンの言ってること、よくわからないゾ?!」

「ああ、それはだな、こうするんだよ」


 俺は風魔法を使い、仕留めた魔獣のうち高額で買い取ってもらえそうなものを何体か空中に浮かせた。


「オオーーー! オニーサンはサイキョー戦士なだけじゃなく、ダイ魔導士だゾ!」

 俺の本業は魔導士なんだけどな。まあ、今はそんなことどうでもいいや。


「ああ、どうもありがとよ。でも、流石に魔獣の数が多いんで、直接抱えて帰るのは無理だな。ミミーだけなら、さっきみたいに腕と脇に挟んで高速で飛べたんだけど。仕方ない、速度は落ちるが、魔獣は空中に浮かせた状態で移動することにしよう。直接触れずに物質を空中移動させるのって、結構難しいんだぜ」


「ムムっ? オニーサンはオレっちが可愛いから抱っこしてたんじゃないのカ?」

「…………俺はロリコンじゃないぞ」


 なんだ、この世界でも幼女にはノータッチが基本なのか? 前回のターンではこんな幼女と関わったことなかったから知らないぞ? うーむ…… これは気をつけねば。衛兵さんに通報されては困る。



 誤解が解けたことを確認した後、俺とミミーは倒した魔獣50体ほどと一緒に風魔法で空中を飛翔する。さあ、ナミダーメさん達がいる場所へと向かうとするか。もちろん、今回はミミーを抱えていない! ココ、大事!


 実はこんなにいっぱい魔獣を持って帰るつもりはなかったんだが…… 帰り道、ミミーが『これも持って帰る、あれも持って帰る』と、ハシャいだもんでつい……

 なんだかデパートのオモチャ売り場で、子どもの言うがままにオモチャを買い漁るダメな父親の気分だ。


 さて、俺たちは山のようなお土産? と共に、ナミダーメさん達の待つ場所へと戻ったのだが……

 あれ? ナミダーメさんだけじゃなく、バインの野郎をはじめ、アホぼんことくっちぃとあまり愉快ではないその仲間達まで、口をポカーンと開けてこっちを見ている。まあ、そりゃそうなるか。この宙に浮いた魔獣の山を見たら。



「すみません、ナミダーメさん、ご心配をおかけしました。魔獣を解体する時間が無かったもんで、そのまま持ってきちゃったんですけど。冒険者ギルドの方で解体お願い出来ますか? もちろん手数料は払いますから」


「えっ! ええ、ええ。えっ、えっ、えええええぇぇぇぇーーー!?」


「”え“ ひとつで、よくそこまで表現出来ますね……」


「すっ、すみません、すみません! はいっ、あの、可能です! 全力で可能です、ええ、そりゃあもう可能ですとも!」

 普段のドジっ子ナミダーメさんに戻ってる……


「はあ、そうですか…… では解体後の買取りも冒険者ギルドでお願いしたいのですが、大丈夫ですよね」


 コクン、コクン、コクン。ナミダーメさんが激しくうなずいている。もう言葉も出ないって感じかな。あー、なんだか申し訳ない…… 早くこの場から立ち去ろう。


「じゃあ一足先に、この仕留めた魔獣をギルドに持って帰りますんで。ミミー、元気でな! あっ、ナミダーメさん、ギルドに帰ったら冒険者登録しときますんで」


 俺は高速飛行でそそくさとこの場から離れる、が離れてすぐ、俺は大事なことを忘れていたことに気付き引き返す。


「あのー、すみません」


「「「「「「「 ( ビクっっっっ!!! ) 」」」」」」」


 ミミー以外、全員の表情が固まる。そんなにビックリしなくてもいいのに……


「あのー、報酬は人数割りが基本でしたよね? どうしましょうか? ここにいる全員で分けるよう、ギルドでお願いしとけばいいですか?」

 あーあ、誰も返事してくれないよ……


「じゃあ、えっと…… おい、くっちぃ! お前、パーティのリーダーなんだろ? 分け前欲しいか?」

「(……パクパク)……」

 ダメだ。ビビり過ぎて声が出ないようだ。


「じゃあ、サブリーダーは誰だ? まさか『だしぃだしぃ』言ってた兄ちゃんだなんてことはないだろうな?」

「(……ふるふるふる)……」

 コイツもダメか。首を振るだけで答えてくれない。


「あのー。別に怒ってるわけじゃないんだよ、ちょっとしか…… えっと、サブリーダーはいないんですか?」


「あっ、あの! お、俺が、いえ、僕がサブリーダーです!」

 ああ、さっき爆笑しながらくっちぃを羽交い締めにしてたイカツイ男の人だな。この人、俺と同い年ぐらいに見えるけど…… 僕って言うキャラじゃないでしょう?


「どうしましょうか? 一緒にダンジョンに入ったんだから、報酬は均等割にしても構いませんよ?」

「そ、そんな…… あの、こ、今回僕たち何もしてないんで、報酬なんてもらうわけにはいかねえ、い、いや、いかないです、はい!」


「他のみさんもそれでいいですか? そうですか、わかりました。じゃあミミー、オマエは働いたんだから、俺とオマエで折半せっぱんだ、いいな?」

「オウっ! セッカンだゾ!」


「なんで俺がお前にいたぶられなきゃいけないんだよ…… そんな趣味ないからな! まあいいや、ギルドには話を通しとくから後でギルドに寄って報酬もらっとけよ」

「オウっ! オニーサンの言うこと時々ムズかしいけど、タブンわかったゾ!」


「それじゃあ、お先に失礼!」

 俺は今度こそ、この場から退散しようとしたのだが——


「ひょっと、いえ、ちょっと、おもち……お待ち下さい!!!」

 バインが豪快に噛んだ。あの傍若無人なバインバイーンサマがビビってるのか。初めて見たぞこんな姿。口の中、カラッカラッて感じだな、ぷぷ、ちょっと愉快だぞ。


 でも、もうバインとは関わりたくないからな。ここは立ち止まらずに、一言だけ残して退散することにしよう。


「永遠にさようなら! パイパイ・カイーンさん!!!」


「ちょ、ちょっと! わたくし、バインバイーンですわよーーーー!!!」

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