あほボンとモブとハレンチ神官
「あの…… いくらなんでも、ここまで魔獣が一匹もいないなんておかしいです。カイセイさんに魔獣がどういうものか見てもらいたかったんですけど…… やはり今日はここで引き返しましょう」
流石、普段はドジっ娘でも、戦闘場面では冷静沈着になるナミダーメさんだ。俺はユニークスキル『広域索敵』を使い周囲を確認する。もう少し進むと魔獣がいるようだが、さてどうしたものか。
ちなみに、俺は前回のターンで女神様から『広域索敵』と『人物鑑定』という二つのユニークスキルをもらっていた。外れスキルだと言うヤツもいたが、この二つ、結構便利なんだよね。
この二つのスキルの使用方法はごく簡単。なんとなく『見たいな』と思うと、頭の中にウインドウが表示される、即ちオンの状態になるのだ。ナミダーメさん困ってるみたいだし、しばらくオンにしておこうかな。
「それにしても、本当にここまで魔獣がいなかったのかしら? ひょっとして、誰かさんが魔獣を見逃してるだけだったりして。やっぱり索敵手なんて頼りにならない者より、治癒魔法の使い手の方が必要だということがはっきりしましたわね」
うわっ、バイン、カンジワルぅ! 相変わらずだな、オマエ。あっ、当たり前か。それから、何がはっきりしたんだって? オマエだって、今日まだ一回も魔法使ってねえじゃねえか!
「ムムっ! オレっち見逃してなんかないゾ! さっきからいっぱい前方にいるけど、オレっち達から逃げるみたいに、みんな遠くに離れて行くんだゾ!」
確かにそれはあり得ることだ。魔獣は相手のレベルを魔力で感知することができるため、自分より高レベルの存在を感じ取ると退避行動をとる。レベル差があればあるほど逃げる速さが増していく。
………… 俺のレベル、99なんだよな。
人間族で強者と呼ばれる者達でも、だいたいレベルは40代ぐらいだろうか。レベル99の俺を魔獣どもが見たとしら…… 人生、いや魔獣生? 始まって以来の猛ダッシュで逃げること請け合いである。
ということで、魔獣がいないのは俺のせいだったんだ…… ダンジョンに潜るのなんて久し振りだったからうっかりしてたよ。なんだかちびっ子に悪いことしたな……
「あらあら、なんだか必死で可愛いわね。じゃあ、可愛い索敵手さん、そこまで言うのなら今、その逃げて行った魔獣はどの辺りにいるかおわかりかしら?」
「ムムっ! 1番近いヤツで、だいたい前方75m、虫っぽいヤツが3匹。それから100m辺りには10匹ぐらいいるけど…… 遠いから魔獣のタイプまではわからないゾ……」
「まあ、言うだけなら——」
俺は物欲大王バインの言葉を遮り、興奮交じりに口を開いた。
「おい、ちびっ子! お前スゲーぞ! そんなしょんぼりした顔すんなよ! 正確には前方73mにクモに似てる魔獣が3匹岩に張り付いてる。それから100mから110m辺りに、えっと…… 12匹だ。タイプは単一じゃない、いろんなタイプの魔獣が混在してるな。珍しい、こんなの見たことないな……」
「オウっ!? オニーサンも索敵が得意なのカ?」
あ、しまった…… のか? ちびっ子の索敵能力があまりにも見事だったのもあるが、バインの厚顔無恥ぶりにイラっときて、つい叫んでしまったが…… まあ、別に隠す必要もないし、いいことにしよう。
「ああ、俺も得意だ。なんたって俺のユニークスキルは——」
「まあ! なんて素晴らしい方なのでしょう!」
は? 何言ってんだ、バイン。お前、俺の話を
「カイセイ様は、その獣人族の子どもを憐れに思い、そのようなことをおっしゃっておられるのですね!」
「おい、バイン、違うぞ。俺のスキルは——」
「君、善人ぶるのはやめ給え! そんな見え透いた手を使って、ナミダーメ嬢の気を引こうなんて、少しは己の醜さを恥じたらどうだ?」
「いや、だからそんなつもりは——」
「!!! チ ャーーーーン ス !!! 」
「うわっ、びっくりした!バイン、 何だよ急に!」
「これは、チャンス到来ですわ!!! カイセイ様、今、わたくしのことを『バイン』とお呼びになりましたわね!」
「貴様! ナミダーメ嬢だけなく、バイン嬢まで毒牙にかけるとは! 羨ましいぞ!!!」
「おい、本音が口から出てるし、しかも叫んでるぞ! ちょっと冷静になれよ!」
「お前ちょっと生意気だしぃ。調子に乗ってると痛い目に合うかもだしぃ」
「お前、誰だよ!!! あっ、あほボンのパーティメンバーか。あーもう、ややこしいんだよ! 誰が誰だかわかんなくなるだろ! 勝手に参加すんなよ!」
「あほボンとは何だ!」
「あなたのお気持ち受け取りましたわ!」
「モブ扱いすんなしぃ」
「ああああああ! ウッセーんだよ! くらいやがれ!!!」
俺はやかましい3人組に向かって水魔法を放ち、残りのメンバーの前には風魔法で作った壁を出現させた。
やり過ぎじゃないかって? 心配無用だ。水魔法はカッター状やボール状にしてぶつけるのではなく、ちゃんと威力を加減した放水タイプをチョイスした。俺はこの魔法をウォーターディスチャージと呼んでいる。消防車の放水ホースから水が吹き出すようなイメージだ。
これなら相手は5mほど後方に吹っ飛ぶが、命に別状はない。こう見えても俺は配慮の出来る男だ。5m吹っ飛ぶぐらい…… この世界では日常茶飯事なのだ、たぶん。
それから風魔法で壁を作ったのも、くっちぃのパーティメンバー達が、俺に向けて攻撃するのを防ぎたかったからであり、彼らに敵対する意図など全くない。いくらくっちぃが救いようのないあほボンだからといっても、流石に自分たちのメンバーが攻撃されたら、応戦するだろうからな。
ん? 何だろ? ナミダーメさんが、なんかアワアワしてるぞ?
「む、無詠唱? 異系統の魔法同時使用とか…… ありえない……」
しまった…… バイン達に水魔法をぶっ放したことは1ミリたりとも後悔してないが、ナミダーメさんにはちょっと刺激が強すぎたか? なんか固まっちゃってるし……
どうしよう、とても気まずい……
ちびっ子の方に目をやると…… こっちは大丈夫そうだ。むしろキラキラした目で俺を見ている。
そうだ、ここは…… 逃げよう!
「おい、ちびっ子。コイツら…… ナミダーメさん以外は、俺達が嘘ついてると思ってるぞ。魔獣が逃げるんなら、俺たちで先回りしてやっつけてやろうぜ!」
「オウっ! オレっち達でやっつけるゾ!」
ちびっ子の返事を聞くや否や、俺は速攻でちびっ子を左腕で抱えた。
「いいか? これから風魔法を使って加速するからな。空を飛んでるような感じになるが、ちょっと我慢しろよ?」
俺はちびっこを抱えてダンジョンの奥深く目指してダイブした。さっき飛んでるみたいって言ったけど、実際に飛んでるんだよね、しかも高速で。
「うわぁぁぁー! すごいゾぉーーーー!」
おっ、ちびっ子のヤツ、笑顔が戻ってきたな。さっきまで厚顔ムッチムチのバインに意地悪されてシュンとしてたのが嘘みたいだ。
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