記念SS2 求道者

 今日はエルフの里にやってきた。


 何が目的かというと、ずばり買い出しだ。以前来た時に買い込んだ食材が底をついたので、暇を見つけてまたやって来た。


 まずはエルフの里の特産品であるナッツ類とナッツオイルを確保するつもり。種類が多くて香りもいろいろ。今はお菓子作りには欠かせない食材だ(キョウカさんが、ナッツ入りクッキーが好きだって言ってた←これ大事!)。


 他にも大森林で採れるキノコや野菜など、この里特有の品種の食材が売られているので、まとめて買っておくつもり。


 うーん。人が多いね。さすがに以前とは入れ替わっていると思うけど。


 スキルチケットを報酬でもらえるニーズヘッグ討伐は相変わらずの人気らしくて、エルフの里は大勢のプレイヤーで賑わっていた。市場に行くと、ここも結構な賑わいで露店がいくつも出ている。


「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。お得なガラガラキャンペーン中だよ。一定の金額以上を購入すると抽選券を進呈。ガラガラで景品を当てちゃおう!」


 売り子の威勢のいい掛け声が耳に入る。


 なぬ? ガラガラ——つまりくじ引きができるのか? 周辺を見回すと、露店の一画に抽選会場と書かれた看板があり、特設ブースが設置されているのを見つけた。


 近づいてみると、台の上に橙色をした八角形の回転抽選器が置かれている。クルッと回すと多色カラーの抽選球がコロンと出てくる、年末の地下街などで見かけるやつだ。こんなの誰が作ったんだ?


 たいていは参加賞のポケットティッシュをもらえる赤球か、100円くらいのお菓子と交換できる緑球しか出ないけどね。


「ガラガラキャンペーンって何が当たりますか?」


 気になるのはやはりそこなので質問してみることに。何か面白いものがあれば、抽選に参加してみるのもやぶさかではない。


「はい、これ見て。景品の一覧表だから。ちなみにハズレはないよ」


《ガラガラ景品一覧表》

 1等〈黒〉 黒にんにく(加工品。甘みが強く匂いや辛味はない。乾燥果実のような味わい)

 2等〈桃〉 桃にんにく(にんにく特有の匂いと辛味が強いが旨味も凝縮)

 3等〈紫〉 小紫にんにく(匂いも辛味もマイルド。料理の具材や生のまま薬味に)

 4等〈白〉 大玉にんにく(匂いが少なくシャキシャキとした食感で甘味がある)

 5等〈緑〉 森林にんにく(一般的な普通のにんにく)


「えっ! 景品って全部にんにくなんですか?」


 1等から5等まで、まさかのにんにく尽くし。何故こんなに、にんにくばっかり? エルフとにんにくなんて、なんかミスマッチだ。


「そう。だけど、一般に販売されているのは大玉にんにくと森林にんにくだけで、あとは市場では買えない希少品種だからね」


 希少品種なんて言われると気になるね。


「その3つが市場で手に入らないのは何故ですか?」


「その理由は、2等と3等は森では採れないからで、1等は特殊なスキルで加工したものだからだよ」


 更に詳しく話を聞いてみると、エルフは基本的に森の恵みをそのまま食べるのが主流で、調理系の指導教官にあたるNPCの存在は未だ確認されていない。


 その影響で調理系の生産職を目指すプレイヤーも、これまでは現れなかった。


 でも新規参入プレイヤーの増加に伴って、エルフのプレイヤーも増えてきて、その中に大森林で採取可能な森林にんにくに魅せられた人がいたらしい。


 なんでもその人は、リアルでもにんにくが大好きで、毎日にんにく盛り盛りの料理ばっかり食べていたら、体臭・口臭ともに匂いがキツくなり、対人関係が上手くいかなくなって困っていたそうだ。


 そんなとき、味覚までほぼリアルな再現力を発揮するISAOの噂を聞いて期待した。ゲーム内で思う存分にんにくを食べるためにゲームを始めた。ゲームを始めるにも、いろんな動機があるんだね。


 「変わりもんだけどよ。エルフの里に定住するために種族がエルフになるようにスキルを選択して、今は採取して調理するだけでは飽き足らず、にんにくの加工や品種改良まで始めている。まあここまでくれば周りも応援したくなるわけだ」


 新品種のにんにくは、まだごく少量が栽培されているだけで市場に流通するほどには収穫できない。抽選の目玉景品として高めの価格設定で買い取っているが、なにしろ栽培規模が家庭菜園で、生産者自身が沢山食べるわけだしね。金策のために少量売るくらいがせいぜいといったところ。


「凄い情熱ですね。でも採取した食材を品種改良できるなんて知りませんでした」


「わざわざ大森林に採りにいくのが面倒だと畑を作ってみたら新品種が生えてきたらしい。他の野菜じゃ、そんな話は聞いたことがないから、にんにく限定仕様かもしれないな」


 つまり運営の気まぐれ? あるいは何かの試みトライアル


 ちなみにISAOには牧場はあるけど、プレイヤーが働けるような農場はない。農業系の職業についているプレイヤーもおそらくいない。これから先に実装されるという話も今のところは聞いていないときた。


「そのプレイヤーの方の熱意に運営が絆されたのかもしれないですね」


「かもしれん。なにしろ、エルフだから結構な美女なんだが、いつもにんにくの匂いをプンプンさせているせいか『忍辱にんにく求道者マニア』っていう職業が、転職の選択肢に出てきたらしい」


「そ、それは極めてますね」


 ……絶対に運営が面白がってやっている。でもまあそれもISAOかも。


 その後、ガラガラ抽選券を集めまくって、全種類の景品を揃えたのは言うまでもない。だって、こんな機会を見逃すなんてもったいない。


 一番気になった黒にんにくは、リアルでも存在するにんにくの発酵熟成食品のようで、早速食べてみたところ、あの強烈な匂いは全くなく、甘酸っぱいプルーンみたいな味がした。


 なんか不思議。



*——ISAO不屈の冒険魂3 発売中!——*


 書き上げホヤホヤのSSです。

 ISAO3は大量に加筆しているので、SSになるような隙間(スキップした箇所)があまりないのが難しいですね。

 ストーリーの中であちこち駆け回っているので、そういった場所で生じたミニエピソードになりそうですが、ネタ探し中です。


 口絵紹介②を↓掲載しました!

https://kakuyomu.jp/users/hyocho/news/16816700426132552161


漂鳥






 


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