番外編 書籍3巻発売記念SS
記念SS1 ピコピコなやつら
ISAO運営の熱心な広報活動のおかげか、以前に比べて、ここウォータッド大神殿でも新規参入プレイヤーの姿を見かけるようになった。
ただ、人気なのは神殿騎士へのルートを辿る神官兵みたいなんだよね。
俺の転職クエストの光景を映した広報PV(周囲の評判はとても良かった)には、バッチリ正装を決めた大勢の神殿騎士が登場している。
その派手な露出がアピールになったのか、神殿の武闘系正規ルートへの認知度が高まって、目指す人が増えたらしい。
……うん。神殿騎士の緑色の制服は確かにカッコいい。変にジャラジャラしていないし、スッキリとしたクールなデザインだ。
神官兵の中では先輩プレイヤーになるエリーが、他のプレイヤーから質問を受けたり頼まれて指導をしていたりする姿がちょっぴり羨ましい今日この頃。
それに比べて、支援系神官は、相変わらず人気がないみたいだ。攻略サイトを覗いても、ブラックな職業ランキングの常連で、ベスト3には必ず入っている。
それにどうやら、支援系神官は戦闘ができないと思われているフシがある。これもやっぱりPVの影響らしい。
PVでは大規模レイドや転職クエストの光景ばかりが編集されているから、どれも派手な支援スキルや奇跡スキルに格式ばった儀式ばかり。機会があれば、そういった誤解を是非払拭したいと考えている。
支援系神官だって戦える。そんな風にイメチェンできたらいいな、なんてね。
「……あの」
作業場で聖水を作りながら、そんなことをツラツラと考えていたら、背後から遠慮がちな声が聞こえた。
「はい、なんでしょう?」
振り返ると、司祭のローブを纏った見慣れぬプレイヤーが二人いる。見た感じでは、高校生くらいかな?
「あの……NPCの人たちに、ここで聖水を作ってこいと指示されたのですが、どうすればいいでしょう?」
新人さん? 勝手が分からないといった様子だから、司祭になって初めての聖水作りなのかな?
「君たちは今日が初めての作業?」
「はい、そうです」
「俺もこれが初めてです」
今時の高校生男子にしては、言葉使いが丁寧だ。感心感心。
「君たち用に材料と道具を揃えてもらうから、ちょっと待ってて」
俺つきの神官見習いのNPC少年に頼んで、すぐ隣の作業台に彼らの分の道具や素材を持ってきてもらう。
「やること自体は簡単なんだ。必要な道具を揃えて、計量して、スキルを使ってGPを注ぐ。できた聖水の品質を確認したら瓶に詰める。それだけ」
俺は聖水を一度に大量生産しているから、瓶詰めはNPCにお任せしているけど、通常はそれも自分でやる必要がある。
「それだけでいいんですか?」
「うん。最初は結構な割合で失敗するかもしれない。でも繰り返していれば、スキルレベルが上がっていくに連れて成功率が高くなるから、ミスも減っていく。まあ、考えるよりもやってみるのが早いよ」
彼らが覚束ない手つきで聖水を作り始めるのを見て、自分の作業に戻る。
新規参入プレイヤーたちが「龍が淵」のレイドに取り組む時期になると、上級聖水がバカ売れする。今からそのストック作りだ。
「うわぁ。なんか凄いことしてますね」
「やっぱり『神殿の人』は違うわ」
上級聖水の大量生産は効果エフェクト付きで、ちょっとばかりピカピカ光る。それを見て新人さんの二人が驚きの声をあげた。
最初は俺も驚いた。慣れると気にならなくなるんだけどね。
「この程度なら、数をこなせば簡単にできるようになるよ」
「そんなものですか?」
「うん、そんなもの」
支援系神官ならイケるはず。でも武闘系だったらステ振り次第かな?
作業が一段落して一緒に休憩を取ることになり、彼らに困っていることがないか聞いてみた。神官職同士助け合いが大事!
「あの、質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「どうやったら強くなれますか?」
「強く? それはスキル面で? それともレベルかな?」
「両方です。鍛えた方がいいスキルとか、レベル上げに適した方法とか、その辺りを教えてもらえたら」
「そうだな。二人とも【JP祈祷】は持ってる?」
「はい」「持っています」
「だったら、一番大事なのは『祈り』かな。とにかく祈る。暇があったら祈る。祈って祈ってひたすらスキルレベルを上げる」
「い、祈りですね。分かりました。それ以外にお勧めはありますか?」
「うーん。あとは……どれかといえば全部? 満遍なくJスキルのレベルを上げる感じだったかな? 順番は……NPC神官と仲良くなっておくと、その時に優先するべきものを教えてくれるよ」
NPCに指導を仰ぐと
「えっと……全部……ですか? じゃ、じゃあ、プレイヤーレベルの上げ方は、どうすれば?」
「お勧めは、やっぱり墓陵遺跡と常闇ダンジョンかな。浄化や結界を使えば安全に倒せるから」
「でも、その二箇所だと、パーティで行く必要がありますよね? 一人あるいは支援系神官職だけでレベル上げってできないんですか?」
「一人で行っても大丈夫だと思うけど……ああ、まあ慣れないうちは、大量湧きすると大変か。だったら……あれかな?」
*
ユキムラのお勧めの狩りスポットに、早速彼らはやってきた。
「おい、本当にコイツを倒せばいいのか?」
「ユキムラさんがそう言ってたじゃん。それに念のために攻略サイトを見たら、確かに打撃武器で倒しやすいとは書いてあった」
彼らの正面には、丸っこい甲羅を持った黒い亀が1匹。試しに、思いっきり棒で叩いてみると。
「硬っ! って、どこに行くの——っ!」
棒の先が滑って急所を外してしまったため、亀はピコピコと弾んで、ピンボールのように明後日の方向に飛んで行く。
何度か試してみるが、なぜか上手くいかない。
「棒じゃ無理だ。次からはメイスに変えてやってみよう」
武器を変えてみると、メイスの方がまだマシであった。が、やはり当たりどころが悪いと、クルクルとスピンして、どこかに飛んで行ってしまう。
「やっぱり来るのが早かったかな? ユキムラさんは、水汲みを十分にしてから行った方がいいって言っていたしね」
「うーん。力の問題もありそうだけど、どっちかと言うと、命中率の方がやばい気がする」
「命中率か。そういうのが苦手だから支援職になろうかと思ったのに」
「やっぱりあの人は特殊なのかも。『支援系神官だって戦える』なんて言っていたけど、実際はこんなだもんね」
「支援系と神官兵、どちらのルートに進むか迷っていたけど、こうなると神官兵かな」
「そうだね。神官兵はチームを組んで連携をするから、ちゃんと訓練したら戦えるようになるってエリーさんも言っていたしね。このまま支援系を選んだら前途が不安過ぎる」
意外にも倒すのが難しかったブラックトータス。
こうしてユキムラの想いとは裏腹に、実践を経験するほど、戦える(かもしれない)支援職よりも、確実に戦えそうな神官兵軍配が上がってしまうのであった。
*——不屈の冒険魂 ISAO 3巻【本日発売!】——*
3巻で活躍するのはこの2人↓(口絵紹介①カクヨム 近況ノートへのリンク)
https://kakuyomu.jp/users/hyocho/news/16816700426103816603
書籍版ならではのエピソードを是非お楽しみ下さい!
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