72 資格審査 さらなる高みへ*

《ユーキダシュ・アラウゴア大神殿》


 とうとうこの時がやってきた。この神殿に来るのも、もう何度目になるかな。


 しかし今日はいつもとは違う。


 大聖堂には、俺のクエストのために大勢のNPC神官が集められている。両翼に左右に分かれて配置された神官たちは揃いの白い典礼服、聖堂の壁際を守る神殿騎士たちは緑色の制服を着て、粛々と儀式が始まるのを待っている。


「ユキムラ首座大司教、ご準備はよろしいですか?」


「はい。始めて頂いて結構です」


「分かりました」


「ではこれより、『資格審査』を開始致します。一同、賛美」


 大勢の神官たちによる見送りの賛美が響く中、飾り気のない白い装束に身を固めた俺は、大聖堂の奥にある、普段は閉ざされている扉を開けて隠し部屋に入った。


 隠し部屋は四畳半ほどの小さな部屋だった。その奥に据えられている白い石造りの祭壇の前で目を閉じ、祈りを捧げる。


《対象者を確認しました。「審査の間」に転移します》


 アナウンスの後、頬に湿った空気を感じて目を開けると、そこは広々とした洞窟の中だった。天井が高い。白っぽい岩石から成る洞窟の壁は、半球を描くようにカーブし、見上げるような高さの天井へと続いている。


 そして目の前にあるのは大きな湖。地底湖か?


 辺りを見回すが、この洞窟の中にあるのは、どうやらこの地底湖だけみたいだ。


 ここは閉ざされた空間のようで、通路や風穴など、外界と通じているようなものは一切見当たらない。


 それにも関わらず、不思議な明かりに満たされた洞窟内は、至る所が白い光を放ち、鏡面のような地底湖の湖面に反射して、よりその輝きを高めていた。


 眩しい。


 目を細めてよく見ると、地底湖の中央に小さな島? のような陸地があり、その上方が特に眩しい光を発しているのが見えた。


《湖を渡り、中央の島へ移動して下さい》


 渡りって、船も橋もないぞ? アイテムを使えってことか? 確かそんなのを持っていたな。


 ……と、アイテムボックスを開こうとするとが、


《アイテムは使用できません》


 ダメなのか。じゃあどうしろと? 泳いで行くのか? それとも見た目ほど水深が深くなくて歩けるとか?


 ……しばらく待ってみたが、何も起こらない。どうやら行くしかないみたいだ。


 湖に近づき水面を覗き込むが、俺の姿が映るばかりで水中の様子は全く分からない。


 よし! 移動しろって言うんだから、渡れるんだろう。歩いて行けることを期待しよう。


 気合いを入れ直し、濡れるのを覚悟で水面に足を一歩踏み出した。


 おわっ! 


 やっぱり水じゃん! それに深い! 俺は思いっきり足を踏み外し、どっぷーん! と水中に深く沈み込んだ。


 ……ブクブクブクブク……!?


 とは、何故だかならなかった。息が苦しくない。ここは本当に水中か?


 水の中に落ちた筈なのに、周囲に見える景色もおかしい。


 もし全て鏡でできた迷路に入り込んだとしたらこんな感じだろうか? 上下左右どこを見ても、鏡面のように光る多角形の板で埋め尽くされている。


 そして一枚一枚の鏡には、次々と移り変わる風景。なんだっけこういうの。走馬燈?


 忙しく俺の周りを巡る景色に次第に飲み込まれ、気がつくと俺は、不思議な映像を映すだだっ広い空間に浮いていた。


 足元に俯瞰して見えるのは、恒星や惑星の誕生と盛衰。


 爆発・膨張・拡張……無から有へ。とてつもないエネルギーの放出。


 崩壊・冷却。そして誕生。


 数百億、数千億もの星々が産声を上げ、宇宙に広がっていく。


 次第に星々は渦を巻き、いくつもの銀河が形成され、そして神々の降臨を迎えた。


 ……なんか、科学博物館とかの映像展示みたいだ。神々が出て来なければだけど。


 神々による天地創造が始まった。


 星を大気の層が覆い、大地は豊かな海で満たされていく。どこまでも蒼く、宝石のように美しい惑星が現れる。


 海底火山の噴火が続き、大陸が隆起しその姿を現す。海に、そして陸に生命が誕生した。


 ……ここからが、リアルとはかなり違うな。ファンタジー感が増し増しになってきた。


 生まれ出たのは神々の恩寵を受けた神秘的な存在たちだ。


 神話の生き物が、思うがままに地上を跋扈していた古の時代が、目の前で刻々と再現される。


 雲を突くような巨人


 空を自由に謳歌する怪鳥


 奇怪な怪物たちの栄枯盛衰


 惑星上に様々な動植物が生まれ、広まり、そしてようやく人間の姿が現れた。


 ……以前の転職クエストで学習させられた、創世神話の映像版といったところだが、映像スケールが凄いな。


 生きとし生けるもの全てに神々の意図が宿り、随所にその御技が行使され、ありとあらゆるものが祝福を受けていた平和な時代。


 人々は集い、楽園コロニーを作り、その繁栄は約束されたかのように見えた。


 それが一転。


 何がきっかけだったか。……神々の間に諍いが生じ、その争いは日毎に激しくなっていった。


 人智を超えた暴力に巻き込まれていく地上の、そして天上の生き物たち。


 争いは大戦へと発展し、地上は荒れ果て、人々は活路を求めて大陸のあちこちに離散した。


 ようやく神々同士の長い抗争が明け、勝利したのは天空神オティオーススとその眷属神たちだった。


 ……この勝利側が、神殿や修道院が聖神として祀っている神々だ。


 荒廃した地上に、聖神により再び希望の種が撒かれ、人々は各地で復興を始め、繁栄を求めた。


 *


 どのくらい観ていたのだろう。


 蝋燭の火が消えるように、フッと映像がかき消えると、俺は先ほど見た湖の中央の島に立っていた。


 目の前には、強い光を放つ何らかの「意志を有する存在」——そう感じるものが宙に浮いている。


 光に引き寄せられるように、一歩近づくと、


《教えに導かれし者よ。その辿りし道は……正道に則り、神の威光に照らされている。


 その特質は……「信」・「義」・「勇」・「潔」・「徳」・「仁」・「礼」……全てを備えるか。


 中でも、より極めしものは……「潔」と「徳」。よかろう。


 汝に相応しきもの—— “審判は下された。汝に『デュナメイス』の権能を授けよう”

 

  ……そなたが、なおその歩みを止めぬなら。行って、その手に取るがよい》


 韻々と響く声が消え、辺りが静寂に包まれる。


 手に取るがよいって……あの光のことか?


 恐る恐る近づいて、手を伸ばしそっと光の中心に触れた。


 すると、何か温かく力強いものが、指先から俺の身体に勢いよく流れ込んできた。光は奔流となって、次々と俺の中に吸い込まれていく。


 島の中央にあった全ての光が俺に吸収され、その場から消えたとき、


《『デュナメイス』の権能を授かりました。ステータスが上書きされます》


 いつもの声でアナウンスがあり、一瞬、目の前がホワイトアウトしたかと思うと、俺は元いた隠し部屋の祭壇の前に戻っていた。


 ……これで終わりか?


 しばらく待ってみたが、何も起こらなかったので、これで終わりということだろうと判断した。


 隠し部屋から出て大聖堂に戻ると、先ほど見送ってくれたNPC神官たちが、列になって出迎えてくれた。


「大司教。見事『資格審査』を通過したようだな。おめでとう。選考会議の準備は既に整っている。正装に着替え、呼ばれるのを待ちたまえ」


 *


 その後の「総大司教選考会議」は、儀礼的なものに終始し、あっけない程あっさりと終わった。


 こうして、俺の「⑥次職」への転職は無事に終了した。


 今回のは、これまでの総まとめ——集大成的な感じだったのかもしれない。ISAOを始めてからの行動が判定にかけられて、職業コースが一筋に定まった。そんな印象を受ける。


 とうとうここまで来た。


 これより上の2つの職業は最上級職で、いわゆる特別職に相当する。今のところ転職条件は全く不明で、果たしていつどうやったらなれるかは、まだ全然分からない。


 もちろん、このゲームを続ける限り、チャンスがあればその高みを目指して行くことになるだろう。


 LV100で総大司教。ISAOを始めて、リアルでは9カ月、ISAO内だと2年3カ月が過ぎたことになる。


 長いようで短い。でも達成感はある。


 もし現実だったら、ここまで到達するには何十年とかかる。リアル重視といっても、そこはやっぱりゲームだ。何十年も同じゲームをし続けるなんて無理だし、そりゃ当然か。爺さんになっちゃうもんな。


 まだ行っていない街もあるし、遊んでいないコンテンツもある。グラッツ王国内で新たに行けるようになった場所や更にその先のマップ。出会いもイベントも、この先あふれているに違いない。


 だから、俺のISAOはまだこれからだ。


 そうそう、みんなが「⑥次職」になったら、とっておきの肉を使ってバーベキューでお祝いしたいな。



 *—— LV100ステータス——*


 [ユーザ名]ユキムラ[種族]人族 [特殊能力]『デュナメイス』の権能者

 [特殊称号]『光芒の砲撃主』『敬虔』『救済者』『☆神の啓示[神獣の翼賛者]』

 『冥界の帰還者』『守護者[聖]』

 [称号]『祈祷者』『聖神の使徒』『調理師免許』『神の技倆[聖餐]』『斉天大聖』

 『教義理解者』『疾病治癒者』


 [職業]総正大司教(格★)

 [レベル]100

 [HP]1020[MP]980[GP]7950/8490(棒/杖)

 [STR]255【225/25】=480/280(棒/杖)

 [VIT]290【220】=510

 [INT]405【85】=490

 [MND]2585【1390/1660】=3975/4245(棒/杖)

 [AGI]305【235/175】=540/480(棒/杖)

 [DEⅩ]490【50】=540

 [LUK]505【315/410】=820/915(棒/杖)

 Bonus Point 0


《職業固有スキル》

【戦闘支援】身体強化 精神強化 属性強化 状態異常耐性 天衣無縫

【結界】結界 範囲結界 拠点結界 聖籠 至高聖域

【浄化】浄化 範囲浄化 聖属性付与 祝聖(生物に聖属性付与) 天燦階梯

【状態異常治癒】毒中和 麻痺解除 衰弱解除 混乱解除・魅了解除 全状態異常解除

【回復】回復 範囲回復 持続回復 完全回復 蘇生回復


[S/Jスキル空き枠] 3[S/Jスキル選択券*]5[ Pスキル空き枠]0/3+1**

《JPスキル》【JP祈祷Ⅹ】【JP黙想Ⅰ**】【JP☆秘蹟Ⅲ】

《Jスキル》

【J教義理解MAX】【J聖典朗読Ⅷ】【J説法Ⅵ】【JS疾病治療MAX】【J聖典模写Ⅵ】

【J聖水作成Ⅸ】【J儀式作法Ⅷ(聖職者)】【J礼節Ⅷ(聖職者)】【J天与賜物Ⅷ(聖職者)】

【J聖餐作成MAX】【J聖歌詠唱Ⅳ】【J聖文暗唱Ⅱ】【J 辞書(聖)Ⅳ】【J聖霊石作成Ⅱ】

【J共振感応Ⅱ】 【JS浄滅Ⅱ】【J聖歌隊指揮Ⅰ】

《Pスキル》【P頑健Ⅵ】

《Sスキル》

【S棒術MAX】 突き 打撃 薙ぎ 連撃 衝撃波 【S棒術EX☆Ⅰ*】

【S生体鑑定Ⅶ】【Sフィールド鑑定Ⅴ】【S解体Ⅳ】


《一般スキル》

【速読Ⅸ】【筋力増強Ⅴ】【調理X】【気配察知Ⅴ】【暗視Ⅴ】【清掃Ⅳ】【採取Ⅲ】【水泳Ⅲ】

【釣りⅠ】【魔物図鑑Ⅰ】【植物図鑑Ⅰ】【動物図鑑Ⅰ】【アイテム図鑑Ⅰ】【方位磁石Ⅱ】

【不動心Ⅳ】【持久走Ⅳ】【登攀Ⅵ】【採掘Ⅰ】

【乗馬Ⅰ】【平衡感覚Ⅲ】【滑空Ⅱ】【等分Ⅴ】【体幹支持Ⅱ】


《加護》

【井戸妖精の眷顧】【図書妖精の眷顧】【聖神の加護X】

【ヒュギエイアの祝福Ⅱ】【パナケイアの祝福Ⅱ】【金翅鳥の守護Ⅰ】


《装備》

 SSR【至聖のローブ】

 SSR【輝煌聖銀の典礼服】

 SR{【輝煌の飾り帯(肩)】【輝煌の飾り帯(腰)】【輝煌の飾り帯(腕)】}

 SR【輝煌の司教冠】


 UR【テミスの天秤棒】/UR【パナケイアの螺旋杖[螺旋宝珠]】

 SSR【流星天馬の軌跡】LR【アイギスの雲楯[黄金翼]】SR【聖紫銀のガントレット】


《アクセサリ》19+1***/20+1***

 【聖典MAX】 【聖典原書★】

 SR【ルーンの指輪】SR【万雷の首飾り】R【雨燕の指輪】R【螺旋の腕環】

 N【開運の木彫りブローチ(山葡萄)】N【開運の木彫りペンダント(山葡萄)】

 R【学位記・神学***】

 SR【星降る慈愛の指輪】SSR【光赫焜耀玉のロザリオ】R【星霜の神符】

 R【水精の神符】SSR【神威の指輪】SSR【世界樹の護り[耐混乱]】

 SSR【邪透蛇眼の指輪[耐石化]】SSR 【瑞雲の腕輪】UR【メギンギョルズ】

 SSR 【金銀砂子のロケット 】 拡①R【聖霊石(旧)】拡②SSR【蛇燦石】

 SR【輝煌の指揮棒】


《御使い妖精》名前[メレンゲ]レベル3[HP]15[MP]15

【御使い妖精の服】MND+10【渾天のドレス(翼)】【妖精の接吻Ⅳ】【天空の綺羅星Ⅰ】


《聖妖精ユールトムテ》名前[サン・ニコラ]レベル1[HP]5[MP]5

【素敵な赤い帽子】【橇・ユールボック(藁のヤギ)】【聖夜の贈物Ⅲ】【トムテの親愛】

【聖なる美食Ⅰ】


《神獣 索冥》レベル———[HP]———[MP]———

【飛翔】【解毒】【慈雨】【息吹[聖]】【守護】【吉祥】【遊聖】

【虹星[不殺]の導き】【神獣の友愛[索冥]】


《装備外》

【通行許可証(墓陵遺跡)】設置アイテム【招運の木彫り置物(猫)】

【虹星】【銀の鍵[**の鍵]】【国境砦 オーミッド小隊長の紹介状】

 SSR【火鼠の皮衣】SSR【風霊の盾】

 ・虹彩果樹 ・原木栽培[茸]・山の清流・ワサビ栽培セット

 ・ユグドラシルの葉

 ・SSR以上確定/職業別・武器/防具/アクセサリ・選択召喚券 1

 ・SSR以上確定/アクセサリ召喚券2


(※旧装備・一部保有武具は記載を省略)

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