70 クォーチ歓楽街 後編


 一旦ログアウトして、夜時間帯に再ログイン。


 最初の予定は、ひと昔前の世界的に有名なキャバレーのショーを再現という触れ込みのディナーショーだった。


 いや、すごい。


 衣装が、ちょっと目のやり場に困るような露出度で、上半身なんかほとんど何も着ていない。大事なところが、ポロンポロンと出ちゃってる。


 なのに背中には凄いボリュームのフサフサした羽根の束をしょって、頭にも沢山の羽根飾り。わずかにダンサーの体表を覆うラインストーンやスパンコールが、舞台照明を浴びてキラキラしてる。


「あれで踊るの?」

「大胆な衣装だな。モロ見えじゃないか」


 最初は、そういった衣装に目を奪われてドギマギしていた。でもその内、そんなことも忘れて舞台に見入っていた。


 ほぼ半裸な姿で踊っているのに、なぜかいやらしい感じがしない。イケメンダンサーも追加で出てきて、男女共に踊りはキレッキレ。


 何重にも布が重なったフリフリのスカート。お揃いの衣装で行われるラインダンスは、足の上がる高さや、角度、リズムの全てがきっちり揃っていて、もの凄い迫力があった。


 華やかな衣装に華麗なパフォーマンス。こんな世界もあるんだね。


 ダンサーの露出度が高いので、女性の反応はどうかなとちょっと心配になったが、キョウカさんは、ダンサーの衣装にかなり興味があるらしく、ダンサーの動きに合わせて効果的に舞う衣装のデザインに、すっかり感心しているようだった。


 *


 そして、やってきました。カジノです。歓楽街に来て、これをしないという選択肢はないよね。


 どこにしようか迷ったけど、みんなと相談して、とりあえず、この街で一番大きいというヴェネチア風リゾートホテルのカジノに来てみた。


 いやもうびっくり。


 カジノ施設内は、ものすごく広い上に内装がゴージャスで、目に眩いくらいだ。


 まず中央に2階ぶち抜きの広い吹き抜けのホールがある。


 周囲を取り巻く柱は、全てキンキラキンのゴールド。天井には発色の鮮やかなフレスコ画が、美しい男女や風景、妖精たちが飛び交う花園などの不思議な光景を描き出している。


 床は、色大理石を組み合わせた花模様のタイルが全面に貼られていて、照明を照り返してピカピカだ。


 このホールからは、放射場に四方に通路が伸びていて、ホールの周りに配置されている各プレイエリアに移動できるんだけど、そのプレイエリアがまたとにかく広い。


 何卓あるか分からないくらい、はるか遠くまで埋め尽くすように置かれているゲームテーブル。


 スロットコーナーでは、ここでいつまでも隠れん坊ができますよっていうくらい、林のようにスロットマシンが据えられている。


 こんなに広さに見合うほど、まだプレイヤー数が増えていないと思うんだけど。これから増えるのを見込んでなのかな?


 でも、テーブルでプレイしている人をよく観察すると、NPCの客も相当混ざっていそうだ。プレイヤー以外にNPCとも一緒に遊べるのか。


 カードゲームはよく分からないので、ルーレットをちょっとやってみたけど、これが当たらない。


 他のみんなは、ボチボチ当たっているみたいで、いい感じ。


 みんなの邪魔はしたくない。どうしようかなって考えていたら、トオルさんがスロットコーナーに移動するっていうので、俺も一緒について行くことにした。


  Qコインを入れ、バーを倒してスロットスタート。


 そして、ストップボタンをポチ・ポチ・ポチ。


「ダメか……」


 むむむ。ハズレだ。


 もう一度。


 ポチ・ポチ・ポチ。


 「うーん。ハズレ」


 何回かやってみたけど、ツキが回ってこない。俺、ギャンブル運がないのかも。


 すると、近くでスロットを回していたトオルさんが、


「キターーーーーーー!」


 見ると、見事な777。


 ジャラジャラジャラジャラと、凄い数のQコインが次々と出てくる。


「うわぁ、凄いですね」


「ユキムラ! コインを入れる箱を持ってきてくれ!」


 これは大変と、急いで箱を探して持っていくと、やっとコインの排出が終わったところだった。


「度々使って悪いけど、コインを箱に入れるのを手伝ってくれるか?」


「いいですよ。それにしても、一体何枚あるのかな?」


「分からん。でもこれで遊ぶ軍資金ができたな。みんなにも配布するから、今日は思いっきり遊ぼうぜ!」


 そうして、トオルさんが気前よくくれた箱入りQコインで、何をしようかなって考えてたら、


「ユキムラ、ゲーセン行かないか?」


 とアークに誘われたので、今度はゲームコーナーに移動。そこで、対戦ダンスゲームというのをやって、アークにボロ負けをした。


 マス目状のパネルが敷かれた専用ステージに乗って遊ぶゲームで、宙にもたくさんの透明タッチパネルが浮かんでいる。


 曲に合わせて光ったパネルをタッチしたり踏んだり、時に見本の映像に合わせて決めポーズをとったりするんだけど、足のステップに気を取られると、手の振りがおろそかになり、手足を両方とも意識し過ぎると、リズムが乱れる。


「アーク、メチャメチャ上手くない?」


「まあね。ダンスゲーはしょっちゅう、リアルでやってるから。でもユキムラも初めてにしてはいい動きをしてたと思うよ」


「マジ?」


「うん。反射神経がいいんだね。もうちょっとリズムを意識したら、すぐスコアが上がると思うけど」


 アークはお世辞を言わないのを知ってるから、これはちょっと嬉しい。


「だから、もうちょっと付き合ってよ。俺、ユニットで踊るダンスがしたくてさ。でも、あのおっさんたちじゃ無理じゃん?」


 あれ? 俺が買われたのは若さ?


 まいっか。結構楽しいし、ちょっと乗せられてやってみるか。


「わかった。この際、すっごく上手くなってやる!」


「そうこなくっちゃ!」


 その後、何回かやって、だいぶリズムに合わせられるようになってきた。


「ちょっと、二人だけ遊んでズルい!」


 そこにキョウカさんが乱入。キョウカさんも、こういう身体を使うゲームが好きなんだそうだ。


 その後は、3人でメチャクチャ踊った。


「あのネーチャンやばい」


「ブルンブルン……いや、バルンバルンだな。いいものを見せてもらった」


 周囲に人が集まってきた。


 ……もう揺れる揺れる。あまりの迫力に、気になって目が離せない。


 何がって? それはもうキョウカさんの素晴らしいアレです。お


「すげえな。俺、きょぬーには興味ないけど、さすがにあれは気になる」


「俺は興味があり過ぎて、目が……目がどうしても引き寄せられてしまう」


 こんな風に、ひそひそと男同士で話していたのは内緒だ。


 対戦以外にも、ユニットで踊れるマルチプルステージに移動して、ユニットダンスで奮闘したり、球状の重力軽減ドームに入って遊ぶエアリアルダンスで遊んだり、それからとにかく踊り倒した。


 ログアウトしても、頭に音楽が流れてたけど、今日は本当に楽しかったな。

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