69 クォーチ歓楽街 前編

 

 今日は、みんなでクォーチの街に遊びに来た。


 この街には、これまで何度も立ち寄ってはいるんだけど、いつも通り過ぎるだけだったから、どんなところかとても楽しみだ。


 *


 俺たちが今いるのは、街の中央にある円形広場だ。観光案内所の脇に設置されている、大きな街路マップを見ている。


「この南北に走っている方が『バーティカル大通り』で、東西に走っているのが『ホリゾンタル大通り』なわけね」


 縦横に走る2本の大通りが、この中央円形広場で垂直に交差する。それにより、クォーチの街は4つのブロックに分けられている。


「ホテルと、それに併設されているカジノは、全てこの大通り沿いにあるのか。分かりやすいな」


 そして大通りの両脇には、様々な趣向を凝らした何棟ものホテルが立ち並んでいた。


 典型的なリゾートホテルもあれば、ピラミッド型だったり、童話に出てくるお城みたいだったりと、何かテーマを掲げたホテルも多くて、見ているだけでも楽しい気分になる。


「ほとんどのホテルに、カジノが併設されているんだったよな」


「ホテルによって雰囲気は違うが、どこのカジノでも気軽に遊べると聞いたぞ」


 カジノには、各種カードゲームやルーレット、ダイス、スロットマシンなどの他に、ビリヤードや麻雀、ゲームセンターなど、リアルと同じ遊びが取り揃えられていて、クォーチ歓楽街専用の通貨、Q(クォーチ)通貨で遊ぶことができる。


 以前、ジオテイク川のエリア解放時に次のチケットをもらった。


 ・「歓楽の街クォーチ」リゾート施設利用券 1


 これが、そのQ通貨と交換できるサービス券になっていた。


 Q通貨は、この街にあるカジノ以外の遊戯施設でも使用できる共通通貨だ。ゲーム内通貨であるGからQ通貨へは交換はできるが、その逆はできない。カジノで儲けてGを増やす事が仕様上できなくなっている。


「ユキムラの泊まるクォーチ神殿は、どのブロックにあるんだ?」


「海側の北東ブロックにあります。そこに大きなショッピングモールがあるんですが、その中の一画です」


 この街でも宿泊するのは神殿だ。リゾート施設も気にはなるけど、俺の場合、ログアウトに使うだけだしね。遊戯施設を満喫できればそれでいい。


「へえ。ずいぶんとカジュアルな場所にあるんだな」

「ショッピングモール周辺も是非行かなくちゃな」


 北東ブロックには、ショッピングモールの他に、ショーハウスやダンスホール、クラブ、映画館に演芸場などが設置されている。


 低層の建物が多く、ところどころに休憩できる公園やカフェなどもあり、この街の中では、比較的落ち着いたエリアになっているそうだ。


「北西ブロックはアトラクションエリアか。リアルの遊園地をパワーアップした感じだと情報掲示板で見たけど、どんなアトラクションがあるんだ?」


「結構激しいみたいだぞ。リアルだったらあり得ないだろう軌道を描くジェットコースターとか、ブンブン振り回されて遠心力をいやというほど体感できる乗物とか、おっさんにはしんどそうな乗物ばかりだった」


「それはちょっと、遠慮したいな」


「レイルウェイパークというところだけ行ってみたいかな。地上・地中・空中のいろんな場所に線路が敷かれていて、好きなコースを選んで、機関車や電車を操縦して走らせることができるんだって」


「それは面白そうだ」


 北側(海側)のエリアはこんな感じで、一方の南側(山側)エリアはというと。


 南東ブロックには、四輪、二輪、様々な車種の車に乗って遊べるサーキット場や自転車、ボート、馬などに乗って遊べる各種レース場がある。そして南西ブロックには、一部のプレイヤーの間で注目の的になっている闘技場がある。


「俺はレース場がいい。サーキット場で遊びまくりたい」

「ボートもあるのがいいね。競争しようぜ」


「闘技場はどうする?」


「あんまり興味ないかな。参加する気はないし」


「そうだな。せっかく来たから、ちょっとだけ覗くか」


 闘技場は対人戦がメインの施設だから、みんな気乗りしないみたいだ。もちろん俺もだけど。ここだけは、ゲーム内のステータスそのままで遊べる仕様なので、見るだけならともかく参加する方は、ちょっとね。戦闘職のために存在する遊戯施設と言っても過言ではない。


「じゃあ、今夜の宿を決めたら、順に回るとするか。カジノやショーハウスは夜時間帯に行くんだったよな。昼間はアトラクションかレース場となると、先にレイルウェイパークに行ってからレース場でいいか?」


 ということで、レイルウェイパークに移動した。


 地上・空中・地中に線路が走るというから、網の目のように線路が敷かれているのかと思ったら全然違った。


 おおまかに「地上コース」「空中コース」「地中コース」に分かれていて、各コースの概要は次の通り。


 「地上コース」は、そのコースの種類が非常にバラエティに富んでいた。


 ・自分で作成したジオラマをリアルサイズに変換した中を走れる「ジオラマコース」


 ・江戸時代みたいな街並でも、恐竜の跋扈する大地でも、好きな時代の風景を選んで、その中を走ることができる「時代巡りコース」


 ・近未来的な工場地帯や爆破・火災の中を走り抜ける「エキサイティングコース」


 ・美しい湖沼地帯や山岳地帯、大瀑布の裏側や海峡など、雄大な自然風景を楽しみながら走り抜ける「絶景コース」


 ……など、本当に様々。どれもやってみたくなるような魅力的なコースばかり。


 「空中コース」は1種類だけ。発射台のように地上から空へ向かって斜めに伸びる線路からスタートし、そのまま大気圏を突き抜けて宇宙空間へ乗り込む。煌めく星々を眺めながら縮小版太陽系の中を巡って旅をするという、非常に夢のあるロマンチックなコースだった。


 そして最後。


 俺とキョウカさんが一緒に乗ったのは、定員2人までの「地中コース」だ。


 トロッコみたいな狭い車両に乗り、地中に張り巡らされたトンネル内の線路上を、障害物を避けながら、右に左に舵を切りながら走り抜けてゴールを目指すというもので、観察力と反射神経、咄嗟の機転が要求される。


「次は?」


「右! ……じゃなくて、やっぱり左!」


 キョウカさんが進路を見定めて指示を出し、俺が舵を切る。右に倒しかけた舵を、力いっぱい左へ戻した。けっこう大変。


 うおっと。慣性の法則をモロに感じる横揺れ。


「次は、また左! ちょっと線路が切れてるけど、きっと大丈夫!」


 線路がない? マジか。左!


 ブワッと浮遊感に襲われたと思ったら、すぐにガゴン! という衝撃と共に着地……じゃなくて、この場合、着線路? その衝撃でトロッコが上下に大きく揺れた。


「よし! 行けたわね。次は、今度こそ右!」


 どわっ!


 なにこの急カーブ。もの凄い遠心力が働き、身体が反対方向に引っ張られる。倒れ込んできたキョウカさんの身体を思わずキャッチして抱きとめる。


 ムギュ!? ……あ、あれ? こういう状況だと接触NGにはならないのか?


「きゃっ! ご、ごめんなさい! ええっと、次は、また左!」


 すぐに離れていく温もり。きゃっ! の意味が気になったけど、まだまだゲームは続く。


 *



 集合場所に戻ると、既にガイアスさんとジンさんが戻って来ていた。


「よう! 2人共、随分とヘロってるけどどうした? 地中でラブラブデートじゃなかったのか?」


 ……そうなるといいなと思っていたけど、なんか違った。


「いや、その、なんか、走り切るのに精一杯で、すっごい疲れました」


「楽しかったけど、思った以上に緊張感溢れるというか、大変だったのよね」


 そう。ゲームとしてはかなり盛り上がったが、危機感があり過ぎてアドレナリンが出過ぎた。


「お二人はどうでした?」


「俺は宇宙を旅して来たぜ。いやあ良かったよ。思わず『地球は青かった』とか言っちまったぜ」


「俺も快適。綺麗な景色を眺めながらのんびり旅をして来た」


 うーん。役得もあったけど、空中コースや絶景この方が、デート向きかもしれないな。


 と、そこへ。


「よう! みんな早いな。エキサイティングコース最高。メッチャ楽しかったぜ。ボンボン爆発するわ、容赦なく燃え盛るわで凄くお勧め」


 と言いながら、トオルさんが戻って来た。


「いやいや。その言葉には騙されないぞ。お前の楽しいには絶対乗らないから。俺が乗ったら緊急ログアウト間違いなしだ」


「本当ですって、マジ楽しいから。ところでアークは? まだ戻らないのか? あいつ、ジオラマコースだっけ?」


「さっきアークから連絡があった。今日はしばらくここにいるから、自分を置いてサーキット場に行って構わないそうだ」


「ジオラマがよほど気に入ったのか?」


「すごく凝ったのを作っているみたいだ。あいつ凝り性なところがあるから」


「そうか。俺も、もうちょいここにいてもいいけどな。ここに残りたければ残って、サーキット場に行きたいなら自由に行くってことでどうだ?」


「そうするか。みんなもそれでいいか?」


 ということで、その後は自由行動になった。


 俺とキョウカさん、ガイアスさんとジンさんは「空中コース」「絶景コース」「時代巡りコース」の好きなところを回り、その後は、サーキット場へ移動して、ボートレースに参加して遊んだ。


 残りの2人とは後ほど合流して、結局最後は全員で遊ぶことになった。戦績はイマイチだったけど、小型ボートを操って水上を高速で滑走するのは、とても爽快で楽しかったです。


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