66 狂鳥ハルピュイア
《解放クエスト『ダカシュの関』戦闘経過時間 00:05:23
レイドボスモンスター『狂鳥ハルピュイア』討伐に参加します。よろしいですか?》
戦闘エリアに入ると、そこはすでに嵐の中だった。
空には真っ黒な嵐雲が立ち込め、宙を割るような稲光と、それに続く轟音。叩きつけるような雨と暴風に身体が晒され、視界を確保するのも難しい。
予め指示されていた所定の位置に辿り付き、すぐさまスキルを使う。
【範囲結界】[気象]
今の位階になって覚えたスキルだ。周囲の気象状況から隔離した空間を作ることができる。まさにこのレイド向け。俺を中心に、ドーム状の透明な隔壁が現れると、次々と、その中にプレイヤーが駆け込んできた。
「やばいなこの嵐。前は見えないし、じわじわHPが削られる」
「俺たち魚人は、雨はいいんですけどね。雷は困るな。[雷脆弱]を持ってるんで」
「避雷針の設置はまだかな?」
「半分以上は終わってるみたいですよ。きっと、もう少しですね」
「この上、さらに[沈黙][魅了]を仕掛けてくるのか。たまんねえな」
「巨人では火焔地獄、ハルピュイアでこれですもんね。だんだんタチが悪くなる」
本当に。全くの同感だ。
「おっ。全員戦闘エリアに入り終わったようだな。このエリアに入ってから、ダカシュ側とも連絡がつくようになったのはありがたいな」
「本当ですよね。今までメチャメチャ大変でした。レイドなのにゲーム内で連絡を取れないとか、縛りがキツ過ぎですよ」
「まあこの挟み撃ち仕様は、オプションサービスみたいなものなんだろう」
「オプションサービスですか?」
「あの水路を通って、どれだけこちら側に人員を送り込めたかで難易度が変わるだろ? これで初回撃破成功率が上がるわけだから、嫌がらせ的な仕様も享受するしかないな」
「ここまで苦労したんですから、一発で上手く行って欲しいです」
「よし。避雷針の設置と陣地形成が終わったようだ。戦闘準備に入るぞ!」
「「「おうっっ! ! ! 」」」
今回俺は、砦側の支援専属になっている。
というのも、ダカシュ側には、最西の地にある「寺院」で修行を終えて戻ってきた、上級職の神官が配置されている。野良ルートの支援系神官だが、俺よりひとつ上の位階である「⑥次職」だ。
もう「⑥次職」かっていうのも驚きだけど、修行で得た戦闘補助系の強力なスキルを持っているらしい。それは是非どんなものか見てみたいな。
「ダカシュ側が、モンスターの敵視を稼いでる間、俺たちは死角から接近して[奇襲]ダメージを稼ぐ。被弾ダメが大きくなったら、深追いせず、すぐ後方に下がれ。こっちは人数が少ないからな。無駄な消耗は避け、ヒットアンドアウェイだ。では行くぞ!!」
気合いの言葉と共に、攻撃部隊が嵐の中へ出て行った。
[身体強化][状態異常耐性][持続回復]は、もちろん全員に掛けてある。まずは小手調べだろう。ここでリズムを作らないとな。
*
両陣営の協力で、群れを成してわんさかいた取り巻きのハーピィを綺麗さっぱり一掃し終わり、いよいよ親玉であるハルピュイアへ猛攻を仕掛けるという段取りになった。
ハルピュイアは、猛禽類のような下半身に人間の女性の上半身を持ち、両腕の代わりに左右に広がる幅広く巨大な翼を生やしている。その醜悪な顔には鋭く曲がった嘴を備え、太く鋭利な鉤爪のついた頑強な足で敵を攻撃する飛行型モンスターだ。
土魔術で生成された大量の石礫が、放射状に一斉射出され、逃げ場のないハルピュイアのHPが、目に見えて減っていく。いい感じだ。
そう思っていたところ、突然、激しかった嵐が止み、ハルピュイアが翼をはためかせて空高く舞い上がった。なんだ?
「歌」!?
魂を揺さぶるようなハルピュイアの美しい歌声が、みるみる戦場全域を覆っていく。高く玲瓏な、神秘的とさえ言えるその歌声は、聴く者の心を縛り、その動きを著しく制限していった。
うおっ! これヤバイ。
MNDがメチャメチャ高いこの俺が影響を受けるんだ。これは他のプレイヤーは堪らないだろう。普段より一段鈍くなった思考で打開策を考える。
先に結界か?
……と思ったその時、宙に浮かぶハルピュイアに対峙するように、ダカシュ側から、虚空を貫くような眩い光条が放射された。
金色の力強い鼓動を伴った強い光。
その光は徐々に膨張して人型をなしていき、ハルピュイアと同じくらいの大きさに成長した後、フッとその明かりを消した。そして、今まで光があった場所には、右手に煌めく宝剣、左手には五彩を放つ紐のようなものを持った「金色の童子」が出現していた。
「金色の童子」は、その身体に数え切れないほど沢山の宝剣を吊るし、目まぐるしく回転する車輪を足下に踏み締め、それを変幻自在に操りながら、空を縦横無尽に疾駆している。
見た目はどう見ても動く仏像だが、その動きは非常に俊敏で、ハルピュイアを翻弄するかのように、その周囲を駆け巡っていた。
童子の出現によって、ハルピュイアの歌声が止まった。
よし! 今のうちだ!
重い頭を振り、魅了・混乱、更に、恐らく掛かっているだろう沈黙を解除するために、戦場全域にわたるように全状態異常解除を掛ける。
「魔法一斉攻撃!!」
解除後、すかさず号令が発され、幾本もの鋭く尖った岩石の槍がハルピュイアを襲い、串刺しにした。
〈ギュィヤァッーーーー!!〉
耳をつんざくような雄叫びをあげて、ハルピュイアが錐揉みしながら墜落していく。
畳み掛けるように攻撃は続き、今度は岩の弾丸が
でも、それで終わりじゃない。これからが本番な筈だ。
……いったい、どれだけのMPを投入したのだろう。
突然、爆音が轟き、驚いて遥か上空を見上げると、天を割って巨大な隕石が落ちてくるのが目に入った。
隕石は、大気と激しく摩擦を起こし、瞬く間に燃え盛る火焔を纏って巨大な火球と化した。そしてそのまま、軌道を誤らずハルピュイアの頭上に落下し直撃、そして押しつぶした。
すっげー。土魔術、極めると半端ないな。なにあの大技。あまりの迫力に、思わず惚けて見てしまった。いやあ、このゲーム凄い。
この作戦が嵌って、勢いに乗ったレイドチームはその後も猛攻を繰り返し、『狂鳥ハルピュイア』は無事初回討伐された。
*
「ダカシュの関」が解放されたことで、ようやく2つの解放クエストは終了し、グラッツ王国内へ至る街道も、無事開通した。
久しぶりの大型解放に、ゲーム内はお祭騒ぎだ。まあ、その先は攻略組に任せて、俺はジルトレに帰るつもりだけどな。
いよいよ帰還するということになって、別れの挨拶を…と思って、砦のオーミッド小隊長に会いに行ったら、
「この度のご助力、誠にありがとうございました。おかげさまで、砦の兵を1兵も損なうことなく、魔物から守りきることができました。我々にお返しできることがなくて大変恐縮ですが、この度のことを
……と、丁寧にお礼を言われて【国境砦 オーミッド小隊長の紹介状】を貰った。
この人も、最初は怖かったけど、いい人(NPC)だったな。
「皆様のお力になれたのであれば、私も嬉しいです。紹介状をありがとうございます。一旦、モーリア王国へ戻るつもりですが、グラッツ王国へはいずれまた来ることになると思います。その時またお会いできるといいですね。では、お元気で」
……これでやっと終わりだ。
グラッツ王国への道が開通したら、またマップが広がる。でも先へ進む前に、温泉と歓楽街かな? みんなと相談してみよう!
*ーー《解放クエスト「ダカシュの関」成功報酬》参加上限150名ーー*
[参加報酬]
・50000G・HP回復ポーション(5)・MP回復ポーション(5)
[討伐全体報酬]※参加人数で調整された数値です。個人のアイテムボックスに配布されます。
・100,000G
・HP回復ポーション(25)
・MP回復ポーション(25)
・アイテム選択券[山]1 ※初回討伐限定アイテム
・『狂鳥ハルピュイア』の素材召喚券 5
・『狂鳥ハルピュイア[雷]』R素材召喚券1
・『狂鳥ハルピュイア[風]』R素材召喚券1
[討伐個人報酬]※貢献度により調整された数字です。個人のアイテムボックスに配布されます。
・SSR以上確定/職業別・武器/防具/アクセサリ・選択召喚券 1
・SSR以上確定/アクセサリ召喚券 2
・アクセサリ装備枠拡大券 2
・S/Jスキル選択券 1
・『狂鳥ハルピュイア』武器/防具/アクセサリ召喚券 1
・『狂鳥ハルピュイア』アイテム選択券 2
〈素材召喚券〉・『狂鳥ハルピュイア』の{羽根・毛・眼・心臓・血・肝・魔石 }から1つ
〈R素材召喚券〉
[雷]{雷光弾・雷光鉱・雷光玉}から1つ、[風]{竜巻弾・竜巻鉱・竜巻玉}から1つ
〈武器/防具/アクセサリ召喚券〉
・狂鳥ハルピュイアの羽根扇
・雷霊の鎧・雷霊の兜・風霊の脚甲・風霊の盾
・雷霊の護符[耐雷]・風霊の護り[耐暴風]
〈狂鳥ハルピュイア アイテム選択券〉※初回討伐限定アイテム
・ 雷獣の皮1 ・ 雷獣の爪1 ・風雷樹の枝 1
〈アイテム選択券[山]〉※非戦闘エリア用アイテム。取り外し、再設置可能。
・丸太橋
・丸太梯子
・丸太船
・魔法のピッケル
・魔法のロープ
・雪山縦走セット[耐寒]
・原木栽培[茸]※屋内/屋外どちらにも設置出来る
・筍栽培セット ※屋内/屋外どちらにも設置出来る
・山の清流・ワサビ栽培セット ※屋内/屋外どちらにも設置出来る
・SSR以上確定/職業別・武器/防具/アクセサリ・選択召喚券 1→保留
・SSR以上確定/アクセサリ召喚券 2→保留
・『狂鳥ハルピュイア』武器/防具/アクセサリ召喚券 1→SSR【風霊の盾】
・『狂鳥ハルピュイア』アイテム選択券 2→保留
・アイテム選択券[山]1→保留
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます