54 ガルダの試練


 やっと入山の順番が回って来たので、冒険者ギルドで「ガルダ」の巣へ向かうパーティ募集を探した。かなり山奥なのと、ここは最前線に近いので、1人じゃちょっと不安だったからだ。


 どれどれ……あった!


 ◆[パーティ募集]募集No.9000455

 目的)ガルダの試練

 場所)ガルタマヤ岳・ガルダの巣

 募集人数)6名(最低催行人数6名)募集状況)3/6名 受付締切)ゲーム内時刻◯時

 資格)LV70以上 上限なし


 ◆[パーティ募集]募集No.9000459

 目的)ガルダの試練

 場所)ガルタマヤ岳・ガルダの巣

 募集人数)6名(最低催行人数6名)募集状況)4/6名 受付締切)ゲーム内時刻◯時

 資格)LV68以上 上限なし


 ◆[パーティ募集]募集No.9000462

 目的)ガルダの試練

 場所)ガルタマヤ岳・ガルダの巣

 募集人数)6名(最低催行人数6名)募集状況)5/6名 受付締切)ゲーム内時刻◯時

 資格)LV70以上 上限なし


 結構あるな。どれにしよう。


 えーっと……。


 ◆[パーティ募集]募集No.9000467

 目的)ガルダの試練

 場所)ガルタマヤ岳・ガルダの巣

 募集人数)6名(最低催行人数5名) 募集状況)4/6名 受付締切)ゲーム内時刻◯時

 募集資格)LV75以上 上限なし

 所要時間)ゲーム内時間で9時間程度

 備考)移動中の拾得物・ドロップ品は個人所有。


 これに決めた![参加]ポチッ。


 *


《募集No.9000467 に参加しました。パーティチャットを利用できます。》


 ユキムラ〈参加しました。ユキムラです。よろしくお願いします。〉


 アカツキ〈いらっしゃい。募集主のアカツキよ。よろしくね。〉


 シオン〈同じくシオン。よろしく。〉


 ホムラ〈よろしくな。これで5人だな。〉


 ジュウベエ〈よろしく。もうこれでいいんじゃないか? 全員LV80以上だぜ。〉


 アカツキ〈皆さんがよければ、私たちは構わないわ。どうかしら?〉


 ホムラ〈俺も構わない。〉


 ユキムラ〈皆さんがよければ、俺もいいです。〉


 アカツキ〈じゃあ、ギルドホールに集合。〉


 *


「あら!」


「この間の……」


 魔女さんだ。


「偶然ね。これもご縁かしら。よろしくね、ユキムラさん」


「アーちゃんの知り合い?」


「この間たまたま、声をかけたのよ。受付でガルダのことを聞いていたから」


「そうなんです。パーティ募集があることを教えて頂いて」


「よお。俺がホムラだ。あんたがアカツキさん?」


「そうよ。よろしくね」


「お互い、髪が真っ赤だな」


「ふふ。火焔使いなのが丸分かりね」


「シオンも火焔使いだけど紫色だよ。ユキちゃんも焦茶だね」


 ユキちゃん!?


「俺は火焔使いというわけではないので……」


「えっ! そうなの?」


「待たせたか。ジュウベエだ。よろしくな」


「よろしく。アカツキよ。じゃあ、全員集まったので出発しましょう」



 俺以外は、全員火焔使いだった。そりゃそうだ。《ガルダの試練》なんだから。


《ガルダの試練》は、火焔使い(火焔系特化職)育成クエストのひとつだ。



 ガルタマヤ岳 のガルダの巣を訪れると、


「試練を受けるなら加護を与えよう」


 とガルダに言われ、受諾すると《ガルダの試練》が始まる。



 試練時間は最長60分。プレイヤーが戦闘不能(HP1以下)になると終了。


 個人クエストなので試練は1人で受けるが、それぞれがインスタンスエリアで行われるので、パーティで行っても待ち時間はない。


 また戦闘不能になっても、続けて何回でも挑戦できる。ただし、1回の入山につき合計1時間までしか試練は受けられないようになっている。


 試練の初回クリアの際、ガルダに少しでもダメージを与えられたら、


金色火焔こんじきかえんⅠ】


 という「火焔系攻撃力上昇」効果のある加護がつき、それ以降は、ガルダに与えたダメージに比例して加護経験値を貰える。


 一方、全く攻撃が出来ないままHP1以下になってしまうと、加護はつかないらしい。


 俺は羽根を拾いたいだけだから、加護はいらないんだが……聞いてみるか。


「ちょっと教えて頂きたいことがあるんですが、いいですか?」


「試練のこと? 答えられる範囲ならいいわよ」


「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく。ガルダの試練の際、巣に落ちている物を拾ったら、持って帰れますか?」


「ああ。そのことね。滅多に成功しないけれど、実際に持ち帰った人を知ってるわ」


 聞いてみるもんだね。既に持ち帰った人がいるのか。それは朗報。


「へぇ。何を持って帰ったんだ? 卵か?」


「卵が落ちているっていうのは、聞いたことがないわ。拾えるのは2種類。『羽根』か『巣の枝』よ」


「何に使えるんだ、それ?」


「羽根は火焔系の武器・防具やアクセサリの強化。枝は杖の素材。なかなか有用な素材らしいのだけど、すんなり持ち帰らせてはくれないみたい。持って帰るには条件があるの」


「どんなですか?」


「ガルダの試練を60分間、HP1以下にならずに耐え続けること。それが条件よ」


「厳しい〜。クリアした奴がいるのが信じられないな」


「私が聞いたのは2人。AGI特化の盗賊系上級職と水系魔法の上級職ね」


「水系? 火焔の加護を貰ってどうするんだ?」


「加護を取得後、火焔系も育成したら、新しい属性魔法を手に入れたそうよ。火・水の2属性で『爆発』っていったかしら」


 つまり、水蒸気爆発を起こす魔法ってことか。それは強力そうだな。


「そりゃあ、凄いな。俺たちも同じことができると思うか?」


「出来そうな気もするが、自分で実験したくはないな。その知り合い、かなり度胸があるな」


「そうね。とても面白い子よ。私ならここまで育てた火焔を駄目にするリスクはとれないわね」


「シオンもそう思う」


「ユキムラさん、これで答えになったかしら?」


「十分です。貴重な情報をありがとうございました」


「ユキちゃんは、羽根と枝、どっちが欲しいの?」


「羽根です。今やっているクエストに必要なので」


「ふうん。随分面倒なクエストね。もしかしてシークレット?」


「ええ、そうです。それも連続クエストなので、終わりが全然見えないんです」


「シークレットか。大変だな。元々あってなかったようなクエストだと思えばいい。気楽にやれよ」


「ユキちゃん、手に入るといいね」


 *


 途中に出てくるモンスターをサクサク倒しながら、ガルダの巣にたどり着いた。


 火焔系特化凄い。


 鳥のモンスターが多かったが、ことごとく焼き鳥になった。


 俺は攻撃方面では全然出る幕がなかったので、支援ばっかりしていた。あまり攻撃は受けなかったが、魔法職パーティなので、当たると脆い。少しでも役に立てて良かった。


「じゃあ、ここからインスタンスね。集合は制限時間いっぱいの1時間後」


「よし! いっちょやるか!」


 パーティメンバーと別れてインスタンスエリアに入るとすぐ、ガルダが現れた。大きいな。

 翼は真っ赤で身体は金色。烏天狗みたいな顔をしている。


「汝は試練を望むか? 試練を受けるならば加護を与えよう」


《チャレンジクエスト《ガルダの試練》が始まります。参加しますか?》


 心の準備はOK。


 イメトレは移動しながら済ませた。よし、行こう。[参加]。


 要は、60分間HPが減らなければいいってことだよな。ガルダの攻撃は物理とブレス。


 ……そうしたら、これしかないだろう。



 GPは、余裕を持って4200だ! 【戦闘支援】[天衣無縫]!!


 全身が金色に輝く。よしOK。被ダメする前に掛け終わった。あとはゆっくり羽根拾いだ。


 *


「ユキちゃん、全然出てこなかったね」


「そうね。でも、すれ違っていただけじゃない?」


「そうかなぁ。ホムちゃんやベエちゃんに聞いても、見てないって言ってたよ」


「随分、気にしてるじゃない。そういえば、シオンの好みのタイプの平凡顔細マッチョよね」


「それだけじゃないもーん。ユキちゃん、言葉使いも丁寧だし、視線もイヤラしくない」


「好みなのは認めるんだ。私は、男はちょっとイヤらしいくらいがいいと思うけど。でもユキムラ君、私の足は気にしてたかな。足フェチかしら?」


「アーちゃんの足は、すっごく綺麗だもん。私だって見ちゃうよ、それ」


「ありがと、シオン。あなたに褒められると凄く嬉しいわ。……そろそろ終わりね。あと数分」


 *


「あっ! ホムちゃん出てきた! こっちだよー!」


「お疲れ〜。あれ?まだ3人? あの2人ギリギリまで粘るのか?」


「私は途中で弾かれるのが嫌だから残り時間が少ないと切り上げちゃう派だけどね」


「シオンも〜」


「俺も時間切れで弾かれるのはヤな方。不意を突かれる感じで落ち着かない」


「本当よね。最後までやらせてくれたらいいのに」



「おーいベエちゃん! こっち〜こっちこっち!」


「それにしても人が多いな。群れているプレイヤーで、出入口がロクに見えないじゃないか」


「待たせたか?」


「ユキちゃんがまだ〜。あっ! 出てきた! ユキちゃ〜ん! こっちに集合〜!」



「すいません。お待たせしました」


 試練が終わったら、まだ効果時間が残っていた金ぴかオーラは消えてくれた。よかった。


「よう。初めての《試練》はどうだった?」


 バッチリだった。


「おかげさまで、無事、羽根を入手出来ました」


「えっ! マジ?」


 マジです。


「はい。見ますか?」


「シオンも見ていい?」


「どうぞ。ついでに枝も拾って来ました」


「おー。こりゃすげえ。いったいどうやって攻撃を凌いだんだ? AGI特化じゃないよな?」


「はい。ちょっと特殊な身体強化を掛けまして…」


 何しろGP4200だ。


「特殊な身体強化?」


「……あっ! どこかで見かけたような気がしてたんだよ。もしかして、あのバジリスク戦の時にいた神官、お前か?」


 結構見てる人多いんだよな、あれ。


「公式PVのであれば、そうですね」


「いやぁ、全然気づかなかったぜ。ユキムラ地味過ぎ」


「よく言われます」


「『神殿の人』なの!? こんなところにいるとは思わなかったわ。不意打ち過ぎ! もうビックリ」


 いや……引きこもってるわけじゃないんで。


「ユキちゃん、有名人なの!? すっごーい。シオンもビックリ!」


 有名ってほど目立ってない……はずなんだけど。


「じゃあ、いろいろ話しながら帰りましょうか? ニーズヘッグ戦は、報酬にS/Jスキル選択券があるんでしょ? そのうちやりに行くようになると思っていたの」


「当事者から話聞くのが早いよな。代わりに俺たちが知っている、この辺りの情報を教えるのでいいか?」



 *ーー《チャレンジクエスト《ガルダの試練》入手アイテム・初回クリア報酬》ーー*


 入手アイテム

 ・【金翅鳥の羽根】[自然脱落]4

 ・【金翅鳥の巣の枝】1


 入手加護 ※初回クリア報酬

 ・【金翅鳥の守護I】INT+10 ※火焔耐性上昇(大)。

 入手条件)試練中、ガルダに攻撃を一切仕掛けない。その上で、ブレス攻撃を一定量以上浴び、最後まで耐久する。

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