55 神の啓示

 


 行きに通り過ぎた「歓楽の街クォーチ」に着いた。


 ここは1人で遊んでもつまらなそうだから、冒険者ギルドで資料チェックをして「クォーチ神殿」へ挨拶をしに行っただけで通過して、一路ジルトレを目指した。



 ◆連続シークレットクエスト『**のレシピ』

 進行状況 : クエスト① 達成 5/5 ②達成 7/7 ③未達成 0/7

 クエスト① レシピの材料を全て集めよう。[クリア!]


 クエスト②調理道具を揃えよう。[クリア!]

 ・聖餐皿(中) [クリア!]

 ・聖餐鉢(中) [クリア!]

 ・聖櫃(小)[クリア!]

 ・聖匙(小)[クリア!]

 ➕【金翅鳥の羽根】[自然脱落][クリア!]

 ➕【ヒュギエイアの杯】[クリア!]

 ➕【シャムシール・エ・ゾモロドネガル】[クリア!]


 クエスト③『**のレシピ』通りに料理を作ろう。


 *


 さて、ここに来てもう一つ足りないものがある。新たに出てきたクエスト③のレシピを読むと、


【**のレシピ】※手順 1)ー7)まで順番に行うこと。


 1)「神餐水」で聖餐鉢・聖餐皿・聖櫃・聖匙を清める。


 2)聖餐鉢に「ウルズの泉水」と【金翅鳥の羽根】を入れ、羽根全体を泉水に浸ける。

  泉水の色が透明に戻るまで待つ。


 3)【シャムシール・エ・ゾモロドネガル】の刃に、「ヒソプの朝露」を3滴たらす。


 4) 聖餐皿の上で「銀の林檎」を【シャムシール・エ・ゾモロドネガル】で正確に6等分する。

  この際、【等分】などのスキルを使用しても良い。


 5)6等分にした林檎を全て【ヒュギエイアの杯】に入れ、「楽園の花蜜」を小匙1注ぐ。


 6) 林檎が完全に溶け液体が金色になったら、【金翅鳥の羽根】で液体をゆっくりかき混ぜる。

  次第に液体が固まってくるが、そのまま混ぜ続ける。


  【ヒュギエイアの杯】が虹色に輝きを放つようになったら完成。


 7) 聖櫃に入れる。



 ……問題は、手順4)にある記載だ。


「林檎を正確に6等分する。その際に【等分】を使用しても良い」


 と書いてある。目分量で正確に6等分なんて到底無理だ。だけどこれはゲーム。なら、このスキルがあれば可能ってことだよな。


 *


【等分】は生産職なら必須に近いスキルで、取得方法は情報サイトに開示されている。そしてそれは、幸い、ここジルトレ大神殿にいながらでも出来るものだった。


 非常に地味で地道な作業なんだけどな。まあ、俺向きではあるのだが。


 早速、私室の机で作業中だ。目の前にあるのは、大量の紙テープとハサミ。


 最初から立体を分割してスキルを得るのは難しいので、まず左右対称な細長い平面を等分する練習を繰り返して【等分Ⅰ】をGETする。


【等分Ⅱ】は、より面積の広い平面。折紙や便箋などを切り分けられる。

【等分Ⅲ】は、細長い立体。棒状のもの。

【等分Ⅳ】は、厚みのある立方体や長方体。

【等分Ⅴ】でやっと球体になる。林檎もここで切れるようになる。

【等分Ⅵ】以降は、左右非対称な要素が入ってくるので、スキルレベルを上げるのはかなり大変らしい。


 ちなみに、【等分】は固形物限定。液体や砂状の物を分けるには【天秤】というスキルがいるそうだ。

 両方持っている人も珍しくないらしいから、生産職って奥が深いな。


 既に目の前には紙屑の山ができている。


 一見勿体無いようだが、ここはVR。資源の無駄にはならない。片付けるのも簡単だ。俺のレベルの低い【清掃】スキルでも、これくらいならあっという間に綺麗になる。この作業の間に、スキルレベルが上がりそうだけどな。


〈ポトンッ〉


 ……また落ちた。


 コロコロと床を伝って転がってくる緑の実を拾い上げる。


 ・「風の実」風属性の果実。


 この実を落としたのは、部屋の中央に設置した〈虹彩果樹〉だ。


 ニーズヘッグ討伐報酬の「アイテム選択券[森]」を使用して入手した樹木で、説明書きに「屋内/屋外どちらにも設置出来る」とあったので、インテリア代わりに置いてみた。


 何も世話しないで放っておいても、いつの間にか可憐な白い花が咲き、黄緑色の丸い果実を枝につける。熟すと多彩な色に変わり、クリスマスの飾りみたいで賑やかだ。


 収穫してもいいのだが、落ちても実に傷がつかないので、熟して自然に落ちるままにしている。


 ちなみに、〈虹彩果樹〉の実の色は各属性を現している。装備の強化素材としては効果が弱いが、属性料理作りには便利なアイテムだった。


 ただ、俺の周りには属性料理を欲しがる人がいないんだよな。バフ料理は大人気なんだが。属性料理とバフ料理。ステータス付与効果はバフ料理の方が大きい。なぜ2種類あるんだろうな?


 まあ別に無理に料理しなくてもいいし、余ったら市場に流せばいいか。


 *


 さて、今度こそ本当に料理の時間。料理っていうより実験みたいな感じだけどな。


 調理台の上に、材料と調理道具を全て出す。

 手順の通りに並べ、配置する。


 念のため、もう一度【**のレシピ】を読んで手順を確認してから、作業を開始した。


 1)「神餐水」で聖餐鉢・聖餐皿・聖櫃・聖匙を清める。


 [クリア!]


 これはいつもやってるから、手慣れている。「神餐水」が強力なせいか、いつもより「清めの燐光」が眩しいがOKだ。


 2) 聖餐鉢に「ウルズの泉水」と【金翅鳥の羽根】を入れ、羽根全体を泉水に浸ける。

  泉水の色が透明に戻るまで待つ。


 予め鉢の深さと羽根の長さは確認してある。


 なみなみと泉水を注いだ聖餐鉢に、泉水が溢れないようにそっと羽根を浸す。

 泉水がみるみる赤くなるが、しばらく待つと透明に戻った。

 羽根を見ると、見事な銀色に輝いている。


 [クリア!]


 よし、次だ。


 3)【シャムシール・エ・ゾモロドネガル】の刃に、「ヒソプの朝露」を3滴たらす。


 [クリア!]


 これはちょっと緊張した。3滴とか微量だからな。

 でも採取瓶に、1滴ずつ入れておいたから、それを3本空ければOKだ。


 4) 聖餐皿の上で「銀の林檎」を正確に【シャムシール・エ・ゾモロドネガル】で6等分する。

  この際、【等分】などのスキルを使用しても良い。


 ここが一番の山場だな。働いてくれよ、【等分Ⅵ】。


 [クリア!]


 よし!よし!上手くいった。


 5) 6等分にした林檎を全て【ヒュギエイアの杯】に入れ、「楽園の花蜜」小匙1を注ぐ。


 [クリア!]


 6) 林檎が完全に溶け液体が金色になったら、【金翅鳥の羽根】で液体をゆっくりかき混ぜる。

  次第に液体が固まってくるが、そのまま混ぜ続ける。

  【ヒュギエイアの杯】が虹色に輝きを放つようになったら完成。


 金色だな。大丈夫だ。ゆっくり…ゆっくりかき混ぜて。


 固まってきたな。


 まだだろうか? だいぶ手応えが重くなってきたが……。


 《「虹星」が完成しました》


 [クリア!]



 輝きを放つ杯の中には、その輝きの元である虹色の多面体が出来ていた。


 これ「小星型十二面体」ってやつだ。


 正十二面体のそれぞれの面に、五角錐を張り合わせた形をしている。頂点を結ぶと正二十面体になるとかで、高校の時、授業で作らされて苦労した覚えがある。


 多面体を杯から取り出すと、通過した光がプリズムみたいに分光して七色の帯を描く。


「虹星」


 なるほどね。名前の通りだ。凄く綺麗だが、そうも言っていられない。


 7) 聖櫃に入れて保存する。


 [クリア!]


 ここまで失敗はないはずだ。[クリア!]も付いているし。


 でも、目の前の聖櫃に………変化は…ない。


《連続シークレットクエスト『**のレシピ』を全て達成し、『**のレシピ』が完成しました。これをもちまして、連続シークレットクエスト『**のレシピ』を終了します》


 あれ? それだけ? 何も起きない。


 ……な訳ないか。


《『不殺のレシピ』の顕現を確認しました》


《シークレットクエスト『神の啓示』が発動》


 ………………………… 《移界します》…………………………


 聖櫃から、突然眩い光が溢れ出す。


 放射状に放たれた光条は、虹色に目まぐるしく色を変えながら俺の全身に投射され、光の束が俺を中心に渦を巻くかのように回転し始めた。


 なんだこれ。ヤバくない?


 目の前が全て虹色で埋め尽くされ、視界を奪われたその直後、いきなり視野が開けた。


 えっと……。


 どこだここ? まさか異世界………な訳はないな。どうやらインスタンスエリアっぽい。


 ……だって、雲の上だもん。


 そう。足元の感覚が先ほどから不安定でおぼつかない。何か踏んではいるんだが、宙に浮いているかのような状態だ。


 動くに動けないじゃないか、リアルなら冷や汗ものだ。どうするんだ、これ? 何かないかと周囲を見回していると、


 何か来た?


 鳥……にしては、動きが変だな。


 小さな豆粒大だったそれが、グングン近づいてきて、次第にその姿が顕になる。白い。天馬か? ……角がある。一角獣?


 ……じゃなかった。


 色は白いがあれだ、あれによく似ている。


 ・馬か、あるいは少し短いから鹿かな……に似た立派な体躯。


 ・体表面は光沢のある龍鱗が滑らかに生えていて全身が燐光で輝き、首には立派な銀色のたてがみが豊かに風に靡いている。


 ・馬のような蹄。


 ・尾は牛に似て短いが、先端には鬣と同じ銀色の毛がフサフサと揺らめいて輝き、


 ・胸元も銀色で、背には鳥のような翼を大きく広げ、その間から青・黄・赤・白・緑の鮮やかな五色の背毛が同じ色の彩光を放っていた。


 しかし、顔はまるで龍だ。そして額には大きな槍のような一本角。


 ……うん。ここまで近づけば明らかだ。


 姿形が、某老舗ビール会社のラベルに描かれている生き物にそっくりだ。色はだいぶ違うけどな。


「麒麟」に違いない。


 目が覚めるほど美しい白い麒麟が、今、俺の目の前にいる。


 *


 驚いたことに、麒麟は妖精たちと同じように意思の疎通が出来た。


 生体鑑定してもいいか聞いたら許可をくれたので、ステータスを見せてもらった。見た目は龍っぽいのに、優しげで大人しい感じの子だという印象だった。



 《神獣 索冥》

 レベル---[HP]---[MP]---

【飛翔】空中を自在に飛翔できる。

【解毒】あらゆる毒を無毒化する。

【慈雨】あらゆる者を癒す。

【息吹[聖]】聖なる炎を吐くことができる。

【守護】騎乗者に外敵を寄せ付けない。

【吉祥】LUK+50 周囲に幸運をもたらす。

【遊聖】鳴き声で楽の音律を奏でる。※特殊効果+

【虹星[不殺]の導き】:作成者 ユキムラを[騎乗許可対象]とする。

【神獣の友愛[索冥]】MND+50


 名前はないのか聞いたが、白い麒麟は1体だけしか存在しないので、索冥「さくめい」と呼んで欲しいと言われた。ちなみに、麒麟は体色が違うと呼び名が変わるそうだ。


 ステータス欄に、「ユキムラを[騎乗許可対象]とする」とあったので、乗ってもいいのか聞いたら、OKをもらった。


 ここに居てもラチがあかないから、どこかに移動したい。


〈ここはいったいどこなのか?〉


 と聞いたら、「神獣界」だと言われた。


 ああ、なんかアナウンスで《移界します》とか言ってたものな。


 インスタンスエリアなのか別サーバーなのかよく分からないが、別世界設定なのか。

 どうやって元の世界に戻るのだろう。


〈えっ! 知ってる?〉


 下界へ通じる場所が、この「神獣界」には何箇所かあるらしい。

 ただ、人間が通れそうなところは一箇所しかないそうで、俺はそこに連れて行ってくれるように索冥に頼んだ。


 *


 本当にここ?


 目の前には、雲を突き抜けてそびえる白い塔があった。

 直径は5mもないくらいの細い塔。塔の上の方は、さらに高い所にある雲に隠れてしまっていて、先端は見えない。


 問題は、その入口。


 塔の外周を覆うように、グルっととぐろを巻いた、エメラルド色の大蛇「ミドガルズオルム」が塔の入口を塞いでしまっている。


 また蛇?


 このゲーム、蛇が多過ぎない?今度はどうすりゃいいんだ!

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