51 暴食竜ニーズヘッグ

 

 結局、懸念していた事態はいい形に収まり、更に1人メンバーを追加して、参加上限50人ちょうどでレイドは始まった。


《緊急イベント「ユグドラシルの暴食竜ニーズヘッグ」が開始されました》


 ニーズヘッグは、禍々しい黒い大きなドラゴンだった。


 全体のフォルムはティラノサウルスに似ていて、頭がおおきくてアンバランスな印象をうける。それを黒くして、太くて長い尾を生やし、全身にウニみたいな鋭くて長い棘が生えたら完成って感じ。尾の振り回しとか、直撃したら大惨事だろう。


 周りにはお供の蛇の群れ。おびただしい数の大蛇が、ニーズヘッグを取り巻くように、うじゃうじゃいる。


 ニーズヘッグのHPバーは4本。


 注意しないといけないのは、ブレスの予備動作と状態異常。


 そして最初はメチャクチャ硬い。


 棘によるダメージで[衰弱]「出血」がつくから、バフと衰弱解除。


 2本目開始からは、【威圧】による[混乱]「恐怖・竦み」が付くから混乱解除。


 3本目からは[暗闇]追加。[暗闇]は、ほとんどの攻撃を通らなくしてしまうから即解除。


 4本目はあの巨体が空に浮かんで上空から乱射攻撃。棘は飛ばす、ブレスもガンガン、熱線ビームのおまけ付き。


 ……どうやって倒すんだ、これ? って思った。


 とにかく忙しかった。


 序盤から、状態異常解除とバフを掛けまくり。俺が。このレイドチーム、支援職全然いないじゃん!


 よくこれでレイドを始めたな。


 救いは生産組に上級職が多くて、惜しみなくアイテムを投入してくれたことだ。


 それ以外は戦闘職ばっかりの超火力寄り。


 だから、メチャクチャ硬いにも関わらず、2本目を削り終わるまでは、レイドの進行はとても速かった。


 そして3本目。


 [暗闇]は思っていた以上に厄介だった。解除アイテムもあるけど、使用してもすぐにまた[暗闇]になってしまう。従って、遠距離から弓と魔法でジワジワ削って、なんとか削りきることができた。


 属性弓と遠距離魔法が、束になってニーズヘッグに直撃する。弧を描いたり直進したり。着弾しては光が弾ける。その様は、まるで色とりどりの花火が次々に打ち上がるようで、その光景に思わず見とれてしまった。


 最後4本目。


 空中からの波状攻撃にどう耐えるか。それが問題で、今までもここで失敗、全滅していたそうだ。


 でも、今回はそうはさせない。


 今日使うのは、この技。初めて使うけど、上級職になって出てきた技だ。おそらく強力……だよね?


【結界】[至高聖域]!!


 投入GP3000、大量ぶっこみだ!



 俺の両手から放たれた白い光が、戦場で白く輝く眩い光球となる。光球は、次第に凝縮するように輝度を上げながら収束していったかと思うと、今度は上下に筋状に伸びていき、その形を変えていった。


 ……なんか、やたら派手な演出。そして長い。いつまでCG流してるんだ?


 ピシッ! 高い、何かが弾けるような音が、あたりに次々と響いていく。


 光の筋に沿って空間に亀裂が入り、みるみるひび割れて、その周囲にも亀裂が広がっていく。


 すると、広がった亀裂の隙間から白い光の奔流が溢れ出し、螺旋を描きながら徐々に立ち昇って何かの姿を形作っていった。


 天使?


 右手に大剣を掲げ、左手に巨大な盾を構えた、全身をプレートアーマーで完全武装した巨人……がそこにいた。


 巨人の背中には大きな翼が生えている。天使かあるいは戦乙女って感じだ。顔の上半分を隠したヘルムから、長い銀色の髪がこぼれ落ち、煌めいていた。


 巨人は、ニーズヘッグが空中から放つ範囲攻撃をことごとくその大きな盾で吸収し、またはブロックして跳ね返した。


「今の内に総攻撃だ! 行くぞ!」


 脳筋たちが特攻していく。


 バフを追加でかけておこう。そのくらいならGPは大丈夫だし。


 4本目冒頭のニーズヘッグによる波状攻撃が一旦収束すると、後は脳筋たちの晴れ舞台だった。


 先ほどの総攻撃の間に、ニーズヘッグの羽の飛膜は無惨に破れ、浮力を失った暴食竜は、既に地面に落下している。


 嬉々として出撃していく脳筋たち。


 えっ?


 俺のGP回復を待ってまた特攻する?


 まだ? まだ? ってまだだよ。


 いくら俺でも3000GPだからな。もう少し祈りの時間が必要だ。


 そんなこんなで、かなり時間はかかったが、暴食竜ニーズヘッグは無事初回討伐された。



 ◇



 ニーズヘッグ戦後、俺は一旦、ジルトレに帰還した。


 ニーズヘッグ討伐では、いろんな報酬を貰った。その中には、幸いなことにS/Jスキル選択券も1枚あり、喜んだアカギさんとヘイハチロウさんは、すぐに「竜の谷」に旅立っていった。


 俺も今のうちに整理しておくか。


《緊急イベント「ユグドラシルの暴食竜ニーズヘッグ」》参加上限50人


 [討伐全体報酬]※参加人数で調整された数値です。個人のアイテムボックスに配布されます。

 ・150,000G ・HP回復ポーション(25) ・MP回復ポーション(25)

 ・アイテム選択券[森]1 ※初回討伐限定アイテム

 ・暴食竜ニーズヘッグの素材召喚券5

 ・暴食竜ニーズヘッグR素材召喚券1

 ・フヴェルゲルミルの泉水2 ※初回討伐限定アイテム


 [討伐個人報酬]

 ・SSR以上確定/職業別・アクセサリ召喚券1

 ・SR以上確定/職業別・武器/防具召喚券1

 ・アクセサリ装備枠拡大券1

 ・S/Jスキル選択券1

 ・暴食竜ニーズヘッグの武器/防具/アクセサリ選択券1

 ・ユグドラシルのアイテム選択券1※初回討伐限定アイテム


 〈素材召喚券〉・暴食竜の{牙・皮革・鱗・棘・肝・心臓・血}から1つ

 〈R素材召喚券〉{・暴食竜の熱線眼(右)・暴食竜の熱線眼(左)・魔石・胃袋 }から1つ

 〈武器/防具/アクセサリ選択券〉以下から1つ選択

 ・暴食竜の棘剣[威圧]・暴食竜の棘槍[暗闇]・暴食竜のメイス[出血]

 ・暴食竜の鱗鎧[耐暗闇]・暴食竜の鱗盾[耐出血]

 ・冥王の護符[耐暗闇]・世界樹の護り[耐混乱]

 〈ユグドラシル アイテム選択券〉以下から1つ選択

 ・ユグドラシルの実 1 ・ユグドラシルの花 1 ・ユグドラシルの葉 1


 素材券はいいとして、分からないものがいくつかある。[詳細]ポチッと。



 〈アイテム選択券[森]〉※非戦闘時アイテム。取り外し、再設置可能。

 ・ツリーハウス:樹上に設置出来る小型キャンピングハウス。3名まで使用可能。

 ・ボートハウス:河川上・湖上に設置出来る小型キャンピングハウス。3名まで使用可能。

 ・地下ハウス:地下に設置出来る小型キャンピングハウス。3名まで使用可能。

 ・洞窟ハウス:岩盤に設置出来る小型キャンピングハウス。3名まで使用可能。

 ・ハンモック:屋内/屋外どちらにも設置出来る。HP・MP・GP回復速度上昇効果(中)。1人用。

 ・妖精蜂・養蜂セット:妖精蜂の蜂蜜を定期的に採取できる。

 ・虹彩果樹:屋内/屋外どちらにも設置出来る樹木。果実をランダムに収穫できる。

 ・アルラウネの種:育てればアルラウネになる。育てたアルラウネはテイムできる。

 ・賢者の木:杖の素材。魔法力を大幅にあげることができる。

 ・金のアヒル:ランダムに鉱石を産む。


 〈フヴェルゲルミルの泉水〉

  ドラゴン系 武器/防具/アクセサリの強化素材


 〈ユグドラシルのアイテム選択券〉 ※初回討伐限定アイテム 譲渡・売却不可

 ・ユグドラシルの実(LUK)使用するとステータス値+50

 ・ユグドラシルの花(INT)使用するとステータス値+50

 ・ユグドラシルの葉(MND)使用するとステータス値+50


 うわっ。森のアイテム選択券が予想外だった。すごい沢山選択肢がある。これは迷うな。虹彩果樹が気になるから説明が欲しいが、これ以上[詳細]はないのか。


 ……まあいっか。取っちゃおうっと。


 他の武器/防具/アクセサリ券も使っちゃうか。保留にしていたバジリスクの武器/防具/アクセサリ選択券 1枚も、この際、使用してしまおう。


 ・虹彩果樹

 ・SSR以上確定/職業別・アクセサリ召喚券1

 →SSR【神威の指輪】

 ・SR以上確定/職業別・武器/防具召喚券1

 →SR【輝煌の司教冠】

 ・世界樹の護り[耐混乱]

 ・ユグドラシルの葉

 ・邪眼の指輪[耐石化]


 これでイベント報酬の整理は一段落かな。


 次はいよいよ王都だ。シークレットクエストを進めないと。


 でも、せっかくあの方面に行くのなら……と、今回はみんなに声をかけた。一緒に王都に行って、俺は霊峰、みんなは観光。その後は全員で渓流下りだ。返事は全員OK。


 やっぱりレジャーも大事。今からそれが楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る