42 地下道①
《地下道入口》
入口から建物内部に足を踏み入れると、すぐに石造りの螺旋階段が下へと続いているのが目に入った。
螺旋階段は、階段の幅やステップが狭い上に、表面が濡れているように見える。うっかりすると足を踏み外しそうだ。
俺たちは1列になって、一段一段、足元を確かめるようにして降りていった。
長いな。
数えたわけではないが、軽く100段以上はありそうだ。螺旋階段の中心から下を覗き込む。
下のフロアまでは20mくらいの高さがあった。
周囲は薄暗く、ひんやりと湿った空気が充満している。天井や壁からは地下水がしみ出し、ジメジメしている上に肌寒さを感じるようになってきた。
階段を降りきると、石造りの門の形をした入口が目の前にあった。門の上部の石版に、何か文字が書いてある。
……読めない。見たことのない文字だな。
「あれは、なんて書いてあるんですか?」
「古代語で『止まれ! ここは死者の国への入口だ。』と書いてあるらしい。何かいわくありげだろ?」
死者の国か。地下の採石場に?
なんとなく首を竦めて入口をくぐると、やや広めのホールに出た。
やはり薄暗くてジメジメした感じがする。
ホールの壁には、入口以外に4つ、人が2ー3並んで通れそうなくらいの横穴が開いていた。これが十字路だろう。
「では、ここから班ごとに分かれての行動になる。先行するのはA班だ。最初の分岐でB・C班とは別行動になる。B班とC班は協力し合って横道の調査をお願いする」
A班は、先頭はリーダーのココノエさんで、索敵をしながら慎重に進んでいる。
次に剣士のオオガネさんと盾士のカナタ君。
次が魔法職のユメミさんと俺。
殿が槍士のアカギさんという陣形だ。
いつもは物理職ばかりのパーティだから、こういう並びはちょっと新鮮かもしれない。
道中、鼠と蝙蝠が現れたが、周りがすぐに倒してしまうので、俺の出る幕がない。
……暇だな。
しばらくしてB・C班とは横道で分かれ、A班の単独行動になった。
「後衛、することがないですね」
ユメミさんが、退屈になったのか話しかけてきた。
「そうですね。いつもは牽制役で前に出ているので、なんだか勝手が違います」
いつもは俺、後衛っぽいことはあまりしてないんだよな。
「ユキムラさん、支援職じゃないんですか?」
「支援職が本職ですが、普段は棒術で闘ってますね」
「殴り神官っていうやつ? ユキムラさん体格いいし、それも似合いそう」
カナタ君が一瞬振り返った。こちらの会話が気になるのかな。
「どうかな? 棒で殴ったり突いたりはしているけど、前衛で体を張ってはいないです」
「そうなんですか。それにしても、支援職でレベル85って凄いですね」
「第一陣なので。いつもパーティを組んでいる生産職の仲間も同じくらいですよ」
「そっかぁ。第一陣だと、みんなそれくらいなんだ。やっぱりまだ差が大きいな」
「ユメミさんとカナタ君は第二陣ですか?」
「そうです。パーティメンバーの希望で王都に来たんだけど、失敗したかも」
カナタ君がビクッとしたのが目に入った。ユメミさんの台詞に反応したんだろうな。
「失敗?」
「ここ、探したけど魔法関係のクエストが全然ないんですよ。『王都』っていうから、少しは期待してたのに」
「魔法なら、ユーキダシュの方が、クエストがありそうですよね」
「そう。そうなんです。本当はユーキダシュに行きたかったんです。行ったことありますか?」
「あります。かなり長いことあの街にはいました。王都よりも大きな街です」
「やっぱり、そう聞くと行きたくなります」
カナタ君、そわそわし出しちゃったよ。
「ただ、ユーキダシュで転職絡みのクエストを受けるには、紹介状を持っているのが基本みたいですよ」
「紹介状がいるんですか?」
「必須かどうかは分かりませんが、とにかく大きな街なので、紹介状がないと、どこに行って誰と会えばいいのか見当がつかないと思います」
「そうなんですか。じゃあ、紹介状を手に入れてないってことは、どこかでフラグを拾えてないってことですよね」
「かもしれません。魔法職の場合は魔術の塔が関係しそうですから、そこへの伝手を探す必要があるかもしれないですね」
「うーん。どこに行けばいいんだろう?」
「どこかクエストを飛ばしてしまった場所はありませんか?」
「一応、一通り街は巡ったつもりなんですけど、かなり駆け足だったかも」
そうやって、カナタ君ウォッチングをしながら話しているうちに、中ボスクラスのモンスターと接敵した。
*
「サーペントだ。まず間違いなく毒、あるいは猛毒を持っているだろう。ユキムラ君、治療を任せてもいいか?」
「はい。承知しました。状態異常耐性もかけましょうか?」
「是非お願いする。というわけで、もう毒は恐れなくていい。後衛の2人には後ろに下がってもらい、前衛は巻き込みや尾による振り払いに気を付けながら、バンバン攻撃だ。準備は……いいみたいだな。では、行こう」
みんなレベルが高い攻撃職なだけあって、戦闘慣れしている。臨時パーティなのに、お互いの距離の取り方がかなり上手い。
攻撃を繰り返すと、攻撃した人は毒や猛毒の状態異常をもらってしまうが、それを後衛から治療するだけのとても楽な仕事だった。
よし。終了。
《「サーペント」を倒しました。一部マップが解放されました。》
アナウンスが流れた。
「これでこの先へ進めるようになる。先ほど、B・C班から連絡が入った。あちらもサーペントと接敵し、これから戦闘に入るそうだ。戦闘の状況が分かるまで、しばらくここで休憩をとる」
休憩だって。ドロップ品でもチェックするか。
雑魚モンスターを倒した場合、経験値は全員に分配されるが、ドロップは討伐者にしか落ちない。でも、ボスクラスのモンスターは、パーティを組んでいるメンバーにもドロップがある。
ここまで攻撃には参加していないから、攻撃職に比べて実入りは少なめだけど、お金には困っていないからいいや。
・サーペントの大皮 1
・サーペントの毒牙 1
・サーペントの魔石(中) 1
・サーペントの毒袋 1
・サーペントの上質肉 1
全部素材だ。いいのか悪いのか分からない。……肉もあるな。食べられるんだ。美味しいのかな?
「神官さん、耐性と治療ありがとうな。おかげで楽に闘えた」
わざわざお礼を言いに来てくれた。野良パーティって、どうなのかなって思ってたけど、なんかみんないい人っぽい。
「お役にたててよかったです」
「そうそう。これ、耐性なくて毒消しを使ってたら大変だったよ。毒攻撃多過ぎっていうか、あの毒の息ヤバイ。毒毒パラダイスだ。途中から猛毒に変わったし、薬を使っていたら回復が追いつかなかった」
耐性をかけているのに随分と毒状態になるなって思っていたが、毒毒パラダイスだったのか。
……毒毒パラダイスってなんだ?
「毒中和薬、未だに高いから気軽に使いにくいしね。あまり予備も持ってないし」
「毒消しは捨値になったんだけどな。毒中和薬はあまり値下がりしないよな」
「材料費が高いらしいですよ。今の価格でも儲けはそれほど出ないって薬師のフレが言ってました」
「そうなのか。ボッタクリってわけじゃなかったのか」
「麻痺解除薬も同じ理由で値下げできないみたいです」
「麻痺か。蜘蛛系のボスも出そうだよな、ここ」
「雑魚蜘蛛がいたからね。中ボスが何匹もいるなら、その中にボス蜘蛛が入っていてもおかしくないな」
「でも、うちの班には神官さんがいるから、安心して戦えるな」
「そうだな。また、よろしく頼むぜ」
はい。頑張ります。
そうして雑談をしていると、B・C班によるサーペント討伐とマップ解放のアナウンスが流れた。
これで中ボスはあと1体だ。
*
探索を続けて、先ほど解放されたマップに入った。
辺りの様子が一変する。今までは剥き出しの削れた石壁だったのだが、壁の質感に今までにない違和感を感じる。
「骨? これ骨じゃないか?」
そう言われて観察してみると、坑道の左右の壁が、上から下までびっしりと隙間なく積まれた何かの骨で埋め尽くされているのに気付く。
おびただしい数の骨。
更に先に進むと、骨壁の中にボール大の丸いものが模様を描くように幾つも埋まっているのが見えてきた。
「やだこれ、頭蓋骨? やっぱり。人の頭蓋骨だわ」
本当だ。頭蓋骨……いわゆる髑髏だな。
ポッカリと空いた2つの穴がこちらを向いているものがある。不気味だが、不思議なことに怖いという感じはしない。
「マジか。じゃあ、この壁ってもしかして全部人骨?」
「断言はできないが、可能性はあるな」
既に周囲のどちらを向いても骨だらけだ。
骨、骨、骨。骨の壁に骨の柱。
天井と床以外は骨しか見えない。これがもし全て人の骨なら、いったい何人分……いや、何万人分の遺骸なのだろう?
「それにしても、骨が種類別に綺麗に揃えて積まれている。人為的なものだろう。なんのためにこんなことをしたのか……」
「お墓とか? 何かで聞いたことがあるわ。リアル世界の話だけど、墓地が不足して都市の地下にお墓を作ったことがあったって」
「そうか。『死者の国への入口』って書いてあったのは、そういうことなのかもしれないな」
入口の古代文字のこと、すっかり忘れてたよ。
「でも、お墓にしてはアンデッドが出ないわね」
確かに。
「そこのところどう? 神官さん的には?」
なぜ俺に振る?
「分かりません。ここの運営は結構意地悪ですから」
「違いない。こう作り込んでいるんじゃ、何か仕掛けてきそうだけどな」
その後は、延々と続く骨の壁に挟まれながら進み、順調にマップを更新していった。
*
《「サーペント」を倒しました。このエリアの全マップが解放されました。》
3体目は、新たに解放されたマップ内で見つけることができた。みんな、本日2回目とあって、危なげなく倒し終わる。
「これでエリアボスのところまで行けるようになったはずだ。B・C班も別経路から大空洞を目指す。なるべく交戦前に合流を果たしたい。探索のペースを少しあげよう」
そして、俺たちは出てくる雑魚モンスターをものともせずに、探索範囲を広げて行った。
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