41 王都②

 上級職への転職が無事終わり、やっとひと息つけた。


 全く手付かずの王都観光をするにも、1人じゃつまらない。でも、他の仲間はまだ転職クエストの最中だ。自分も大変だったが、生産職の転職クエストもかなり面倒で時間がかかるらしい。


 俺、フレ少ないしな。


 神殿でNPCと過ごす時間がやたら長いから、他のプレイヤーとの接点があまりないんだ。


 トリムの近くの牧場で乗馬体験ができるらしいから、遊びに行ってみたいんだけど。俺が転職クエストにかかりっきりになっている間、クワドラ海岸の「磯釣り」と魚人の集落近くの「川釣り」が実装されたそうだ。


 面白そうだけど1人じゃやだな。


 とりあえず、冒険者ギルドに行ってみるか。まだ資料室をチェックしてないしな。その後は、ざっとショップを見て回ればいいや。



《王都 冒険者ギルド》


 ギルドホールには、プレイヤーが沢山いた。


 随分、活気があるな。みんな俺みたいに転職クエストできているとか? それともご新規さんか? 


 いや。第三陣が来てから2ヶ月近くなるし、もうさすがに新人はいないよな。転職クエストボケだな。他のプレイヤーの動向が、全然分からなくなっている。


 買い物に行く前に少し情報収集もした方がいいな。ちょっと食堂に寄っていくか。

 王都の名物料理もチェックしないとな! 



 王都の食堂は、都内の小洒落たカフェみたいだった。そして同じく小洒落たメニューを開くと……。


 ・ふわふわスフレパンケーキ。王女様の幸せ。蕩けるクリーム&木苺ソースを添えて。


 ・王様のキッシュ 金冠鶏の産みたて卵と太陽の恵みのほうれん草を使って。


 ・魔女風窯焼きドリア 季節野菜と香草鳥のトマトクリーム遊び。


 ・将軍風ジューシーソーセージの盛り合わせ。2色の友情ソース付き。


 ・4種の芳香チーズの窯焼きピッザ 森の宝石・黄金糖蜜添え


 ・ギュッと搾りたての果物ジュース 弾けるトキメキの香り



 パタンとメニューを閉じる。


 ……うん、きっと美味いんだろう。


 もしかしてプレイヤーメイドとか? 


 そうだとしたら、少なくとも【調理】のスキルレベルが高いのは間違いない。まあ、なんか頼んでみるか。だったら、リアルじゃ絶対に食べに行かないのにしておこう。


「すいません。パンケーキをひとつお願いします。コーヒーのセットで」


「はーい。ただいまお持ちしまーす」


 ……本当にすぐきた。


 しかもできたて。スフレって、時間が経つと萎んじゃうから、リアルだと注文を受けてから焼くんだよな、確か。


 はふ。美味いな、これ。


 あっつ熱のふっわふわだ。クリームは甘さ控えめ。甘酸っぱい木苺がさっぱりしていて食べやすい。


 モグモグ。モグモグ。


 ……あっという間に完食。これ、レシピあるのかな? レシピ屋も後で覗きに行こう。


 ふう。コーヒーも美味い。


 深煎りでフルボディ。香りと苦味がしっかりしていていい。この世界、コーヒーミルとかあるのかな? ありそうだな。そういうグッズも探してみるか。


 ん? 


 プレイヤーが入ってきた。……パーティっぽいな。


「はーっ。疲れたな。いい加減、先に進みたいぜ」


「移動に手間がかかる割に実入りが少ないよな、このエリア」


「だよなぁ。トリムの北でキャンプして馬狩りしてた方が儲かりそうだ」


「まあ、あれはあれで面倒だがな」


 攻略組かな? 


「勢い込んで王都に来たものの、まだあんまりマップ拡張されてなかったな、ここら辺」


「次のアップデート待ちかもね。あっちもこっちも行き止まりじゃない」


「あの川が怪しいと思うんだけどな。川幅広いし、マップを見ると上流まで遡れそうだ」


「あなたの勘、いつもは当たるのにね。今回は珍しく外れかしら」


 マップか。やっぱり攻略組みたいだな。いつも何気なく使ってるけど、マップを広げるのも大変なんだな。


「うーん。街の外は拡張待ちかもしれないが、街中にはもっとあってもおかしくないよな?」


「そうだよな。これだけ広い街なんだから、始まりの街みたいに下水道クエストとか起きてもよさそうに思う」


「始まりの街のは、イベントでしょ。次の第四陣追加の大型アップデートで、また街イベントがあるわよ。きっと妖精イベだろうけど」


「あれは、もう妖精持ってる奴には、ほぼ参加する意味がないんだよな」


「そう。もうちょっと、なんとかして欲しいわよね」


 妖精イベント。確かにほぼ同じ内容だったからな。そう思うのは無理もない。


「下水道か。……ここの地下に潜ってる連中いたよな。何か情報ない?」


「ここの地下は、下水道じゃないみたいだぞ。採石場跡だったかな? まだマップを埋めているところだって、この間、情報屋に会った時に聞いた。かなり広いみたいだ」


「じゃあクエストが何個か落ちてるかもな」


「あっても地下道じゃな。身動き取りにくいんだよ」


「そんなでかい剣を振り回しているからだろ」


「いいだろ。これがしたくてゲームやってんだ」


「そういえば、剣と言えばさぁ……」


 *


 地下道か。それに採石場跡? 


 薄暗いところって、俺の得意分野なことが多いんだよな。まだ調査中みたいだけど、マップって買えるのかな? 資料室を覗いた後で、受付に聞いてみよう。


 ……聞いてみた。


 マップはまだ売っていなかったが、情報クランから調査依頼が出ているらしい。早速、タッチパネルで依頼をチェック。


◆[調査依頼]依頼No.60001781

 目的)マップ作成とフロア調査 場所) 王都・地下道


 募集人数) 15名(最低催行人数 5名〜) 募集状況) 12/15 名

 募集資格) LV45以上 上限なし

 調査時間)ゲーム内時間で7時間程度の見込(状況により変更する場合あり)


 報酬) 作成マップの提供

  ※調査中のドロップ品や拾得物は各自所有。調査のため、各種鑑定スキルの使用や一時預かりをさせて頂くことがあります。ドロップ品以外に宝箱が見つかった場合は、依頼主が回収致します。


 受付) 随時。 募集人数が集まり次第出発。 ※ゲーム内時刻◯時最終受付締切

 集合場所) 王都・冒険者ギルドホール

 依頼主) 情報クラン「賢者の集い」

 必要公開情報) LV・職種・武器種・プレイヤー名



 ……これだな。


 この依頼主のクラン、確か以前レイドで一緒だったところだ。手持ち無沙汰だし、ちょっと行ってみるか。


[参加申請]ポチッ。


 《[調査依頼]依頼No.60001781 依頼主) 情報クラン「賢者の集い」に参加申請をします。必要公開情報を入力して下さい。》


 LVは85、職種は「支援系」で「神官職」、武器は「棒」、「ユキムラ」。


 これでいいな。


 まだ締切まで時間はあるけど、もうすぐ定員になりそうだから、資料室で待っていよう。


 *

 

 《[調査依頼]依頼No.60001781 依頼主) 情報クラン「賢者の集い」への参加が決定しました。集合場所に移動して下さい。》


 おっ! きた。


 ちょうど見終わったし、いいタイミングだ。下の階に移動しよう。


「地下道調査の集合場所はこちらです。参加する皆さんは、お集まり下さい」


 あそこだ。


「参加者の方ですか?」


「はい。ユキムラといいます」


「ご参加ありがとうございます。ユキムラさんは、今回A班になります。調査中は、この腕章を腕に巻いて下さい。班ごとに色違いになっています。パーティリーダーは、『賢者の集い』のメンバーが務めます。参加者が集まるまで、少々お待ちください」


 少し待っていると、


「赤集合。こっちだ」


 呼ばれた。わらわらと、リーダーの男性のところに参加プレイヤーが集まる。


「俺が、この班のリーダーを務めるココノエだ。よろしく頼む。このA班は、参加プレイヤーの中で、特に高いレベルの者たちが選ばれている。従って、調査では他の班に先行することが多くなると考えていて欲しい。まずはパーティメンバー同士、自己紹介をしていこう」


「じゃあ、俺から。オオガネという。レベル68。剣士をしている。よろしくな」


「アカギだ。レベル72。槍士だ」


「カナタです。レベル65。盾士です」


「ユメミよ。見ての通り魔法職。レベル66。カナタとはいつもパーティを組んでいるわ」


 そして、俺の番。


「ユキムラです。神官をしています。レベルは85です」


「85! マジか。高え」


「ユキムラ君は、今回の参加者中、最高レベルだ。応募を見たときは、さすがに驚いたよ」


 あれ? 俺なんかやっちゃった? 


「なんでこの依頼を? 45〜65位が適正レベルだと思うけど」


 知らなかった。適正レベルが20も下とは……。


「俺、王都のことをあまり知らないので、いろいろ見て回ろうかと思って」


「来たばかり?」


「いえ。王都に来たのはだいぶ前なんですが、見て回る時間が今まで取れなくて」


「リアル事情?」


「おっと、そこまでだ。個人的な詮索はなしにしてくれ。今から会議室で地下道調査についての説明がある。こちらについて来てくれ」


 助かった……。


 初対面なのに、みんなグイグイくるな。野良パーティに参加するのって、今回が初めてだが、俺、ついていけるのだろうか……。


 *


《冒険者ギルド会議室》


 前方に、作成中マップが掲示されている。現在確認されている地下道への入口は、まだ1箇所しかない。王都の市街地のほぼ中心にある古い建物の中だそうだ。


 入口は1箇所だけど、思っていたより、中はだいぶ広そうだな。


「入口から地下へ降りると、やや広めの空洞に出る。そこを中心に東西南北の4方向、十字に地下道が伸びている。おそらく坑道で、この地下空間は採石場の跡地だと推測されている」


 採石場の跡地。


 ギルドで耳にした通りだったな。坑道タイプのダンジョン。

 うーん。すごい分岐してる。なんだか迷いそう。


「4本の坑道は全て、その先で一旦左折して卍を描く。そこからは不規則に分岐が始まり、道も真っ直ぐではなく、かなり曲がりくねっている。ここまでは事前調査で判明した」


 事前調査か。ここまで把握できるまで、この情報クランの人たちって、いったい何回調査を行ってるんだろう? 


「そこで、この十字を境に概ね4つのブロックに分け、本格的に調査を開始した。それが、先日の第1回調査だ。その調査では、北東ブロックを調べている。その結果がこれだ」


 内部の写真が映し出される。すごいな。こういったスキル? あるいは道具があるのか? 


 採石場だったっていうのも納得だ。


 成形された大きな石材が組まれて、坑道として整えられている場所がある一方で、剥き出しでゴツゴツとした岩肌をさらしている所もある。


 床に切り出した石が積んであったり、石のオブジェが置いてあったりはするが、生活感は全くない。


「北東ブロックは、横道の分岐が多くてまるで迷路のようだった。他のブロックも似たような構造の可能性がある。調査中、はぐれないように気を付けてくれ」


 映し出されるのは、似たような景色ばかりだが、所々に、石壁が削られて部屋のようになった空洞や女神のような像が彫られた彫刻もあった。これは目印になるな。


「出現モンスターは、鼠・蝙蝠・蜘蛛・百足・蛇・蜥蜴だ。鼠と蝙蝠は群れでいることが多い。袋状になっている空洞から急に襲いかかって来ることがあるので、注意が必要だ」


 毒や麻痺を持っているのが多いな。


 モンスターの種類を見ると、やっぱりここの運営は、状態異常が好きなんだな。まあ俺がそういう場所ばかり選んで来ているわけだけど。


「坑道の途中には、天井が高くて広い、ドーム状の空洞が開けていることがある。そこにはダンジョンの『中ボス』クラスのモンスターがいる。前回の調査では、その『中ボス』を倒したところ、アナウンスが流れて地続きのマップが解放された」


 倒すたびに、マップがどんどん広がって行くってわけか。


「中ボスは3体。全部倒してたどり着いた最奥の大空洞には、このブロックのエリアボスである『百足王ヘカトンケイル』がいた。討伐アナウンスが出たからエリアボスで間違いない。今回は南東ブロックの調査になるが、同じような遭遇戦があると考えられるから、心していてくれ」


 さすが情報クランだな。ここまで調べちゃうんだ。中ボスを3体倒したら大ボス登場だって。それがあと3ブロックも? 


「以上だ。基本的にはパーティリーダーの指示に従ってくれればいい。リーダーは全員、探査スキル持ちだ。これまでは、罠が仕掛けられていたことはなかったが、今回もそうとは限らない。個人行動は極力とらないようにお願いする。何か質問はあるか?」


「出現モンスターを聞くと、状態異常対策がいるように思いますが、治療アイテムは持ち出しになりますか?」


「毒消し・痺れ消し・毒中和薬・麻痺解除薬については、リーダーがある程度の本数を所持している。状況に合わせて使用する予定だ。パーティメンバーに神官職がいる場合は、スキルで治療してもらうこともあるが、持ち出しはないと考えてくれていい」


 もしかして俺の方、見てる? 


「回復薬・MP回復薬の配布もありますか?」


「それについては、基本的には個人持ちだ。だが、中ボスクラス以上のボス戦の際には必要に応じて配布することもある」


「他に質問は? ……ないようなので、会議は終了とする。早速出発するので、班ごとに集合だ」

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