33 南の森林
「ユキムラ大司教、本日は誠におめでとう。これからも引き続き研鑽を積み、正道を邁進することを期待している」
「ありがとうございます。これまでの手厚い御指導・御鞭撻、ありがとうございました」
………終わった……やっと終わった。そして貰った。
・【学位記・神学】INT+20 MND+20
「本学舎神学研究科の修士課程を修了したので修士(神学)の学位を授与する。
アラウゴア大神殿長 アラウゴア大神殿附属学舎学長 首座大司教 オーソン・ハウウェル」
(※このアイテムにレベルはありません。装備枠を必要としません。)
学位記GET! ……ハウウェル様、こんな名前だったんだ。
「ところで、貴殿は真っ直ぐジルトレまで戻られるおつもりかな?」
「はい、そのつもりです」
「それなら、南の森林を南東方向に抜けて行くと、かなり経路を短縮できるのだが、どうするかね?」
「そんな道があるのですか? 初耳です」
「一般には公にされていない道なのでな、これまで耳にすることはなかったはずだ。あの森なら、それほど強い魔物も出ないし、今の君なら1人でも問題ないだろう。通るのならば地図を持って行くがいい。ただ、その道を利用するには、一つだけ条件があってな」
「条件ですか?」
「うむ、そうだ。あの森には旧い『墓陵遺跡』がある。知っているかね?」
墓陵遺跡? ダンジョンじゃなくて?
「『墓陵遺跡』というか……『墓陵ダンジョン』という場所であれば、以前、行ったことがあります」
「まあほぼ同じものだ。『墓陵遺跡』の西側にダンジョン化している場所があり、冒険者に討伐依頼が出ている。そこが『墓陵ダンジョン』と呼ばれるところだ。だがそれは遺跡のほんの一角に過ぎない。実は、その東側に、一般には侵入禁止となっている広い遺跡エリアがある」
「それは存じませんでした」
「公開しておらんからな。そしてその侵入禁止エリアは、このアラウゴア大神殿が管理している」
「管理とは?」
「遺跡エリアの中央には広場があり、そこに小さな聖堂が建っている。そして、その聖堂の内部にある
「『聖霊石』?」
なんだそれ?
「その聖具は、周辺の穢れを祓い霊を鎮める効果があるのだが、動かすにはエネルギー源を必要とする。それが『聖霊石』なのだ。しかし、『聖霊石』は日毎に消耗するので、定期的に新しいものと交換しなければならない」
「なるほど、それで管理が必要なんですね」
「そうなのだ。効果の弱くなった旧い『聖霊石』と、我々が用意する新しいものを交換する。それが遺跡内を通行する条件だ。墓陵遺跡を抜けて南東へ進めば、ジルトレはもう目の前と言っていい。どうするかね?」
《ピコン!》
《シークレットクエスト「古代墓陵遺跡にある聖霊石を交換せよ」が発生しました。
達成報酬:
・墓陵遺跡の通行許可証: 有効期間 ゲーム内時間で1年間。有効期間内に限り、墓陵遺跡の入口から出口まで一瞬で移動することができる。許可証は装備しなくても保持していれば効果を発揮する。※譲渡・売却不可。
・聖霊石(旧):アクセサリ。神官系職業固有スキルの効果増強(小)。効果を持続するためには、定期的にGPを補充する必要がある。拡張スペースがあるアクセサリに収納可能(収納すれば装備枠を消費しない)。
※このクエストは、『受諾・拒否』を選択することができます。
受諾した場合は、同様のクエストが今後繰り返し発生しますが、拒否した場合は必ずしも発生するとは限りません。
選択して下さい。》
→[受諾]
→[拒否]
シークレットクエスト! 噂には聞いたことがあるけど、出会うのはこれが初めてだ。攻略には必ずしも必要のないクエストみたいだけど、お得な内容であることが多いらしい。
受けておくか! [受諾]
「おおっ。引き受けてくれるかね」
「はい。せっかくのお申し出ですので、お引き受け致します。ジルトレへの移動が早くなるのも魅力的ですし」
「そうか、では宜しく頼むよ。地図と新しい聖霊石は、出発までに渡そう。旧くなった方の聖霊石は、個人で使う分にはまだ十分効果が残っているし、神力を込め続ければ長持ちするはずだ。貴殿に差し上げるので、そのまま持ち帰ってくれて構わない」
「ありがとうございます。ありがたく使わせて頂きます」
「うむ。クラウス殿への手紙も預けるので、彼にも宜しく伝えてくれ給え」
◇
南の森林(始まりの街でいう北の森林)に来た。
しばらく進むと、いきなり視野が開けて「墓陵遺跡」が目の前に現れた。インスタンスダンジョンっぽいな、この感じ。南東方向に進めばいいんだよな。
〈MAP表示〉
矢印が出ている。これが現在地で、俺が向いている方向か。
実は、ユーキダシュの冒険者ギルド資料室で地図を閲覧中、こんなスキルをGETした。
【方位磁石Ⅰ】現在地と方角がMAP上に表示される。
市街地地図・街周辺地図・ダンジョンマップなどをチェックし続けると生えてくる。
(※地図はその都度入手する必要がある。)
ISAOは、厳しいけど地道な努力には報いるっていうか、日頃の努力の結果が、クエスト発生や、こういったスキル入手に繋がることが多い。逆に、運のいい奴だけが次々とチートスキルをGETして無双とかは起こらない。
強くなるには、一つずつ小さな実績を積み重ねていくことを推奨する姿勢をはっきりと打ち出している。そこが運営鬼畜とか言いながら、俺がISAOを気に入っている理由の一つだ。
だって面白くないじゃん。
やり始めたばかりの中学生(ISAOのレイティングはR15+)が、大した努力もしていないのにドヤ顔してのさばっているとか。
おっと、もうすぐ広場だ。あれが聖堂かな。モンスターが出ないと、進むのが早いな。
*
ここの聖櫃は、聖堂の壁に作り付けの飾り棚のように据えられている大型のもので、その扉を開けると、淡い光を放つ目的の聖具が直ぐに目に入った。
聖具の蓋を開け、中の「聖霊石」を取り出して新しいのを装填。
よしっ! 放つ光が強くなった。これでOK。
取り出した旧い「聖霊石」は、拳大くらいのサイズだ。装飾品に加工するには大きすぎる。でも確か拡張スペースがあるアクセサリに収納可能(収納すれば装備枠を消費しない)ってあったな。
拡張スペースがあるアクセサリ? これとか?
【慧惺のロケット(ペンダント)】INT+20 AGI+10 耐久∞
いやあ、無理だろ。いくら何でもこんな小さいところに入るわけが……入ったよ。
ゲームすげぇ。
いや、既にアイテムボックスとか使っているけどさ、ビー玉でも無理な場所にこんな大きい石が入るとか、違和感があるだろ? そりゃあ入ってくれた方が嬉しいけど。
……さてと、では用事は済んだし、ジルトレに帰るか。海の幸を沢山持ってな。
〈パタパタ〉
何? お菓子も沢山作って? うん、いいよ。みんなに頼まれている分を作る予定だから、メレンゲのも一緒に作るつもりだったし。
ユーキダシュでは勉強三昧だったから、次に来るなら、色妖精イベントみたいな単純な奴がいいな。久々に思いっきり体を動かしたい気分。
まあ、職業クエスト次第だな。六礼祭は残り二つ。順番からすると次は「宵闇祭」か。どこでやるのかな? まだどこにもフラグっぽいものはない気がするけど。
〈MAP表示〉南東は……こっちだな。
「よし! 出発だ。メレンゲ」
そろそろ床屋に行かなきゃ。だいぶ前髪が伸びてきて鬱陶しい。
バイト代も出るから、服でも買いに行こうかな。いや、靴が先か。ちゃっちゃと済ませるか!
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