005 閑話 運営の動き
《ISAO運営企画会議室》
「どうだ? 上級職への転職の進み具合は?」
「はい。現在、第一陣から21名の上級職が出ています。内訳は、戦闘職19名……3パーティ18名とソロプレイヤー1名、生産職が2名です」
「生産職が想定よりかなり少ないな」
「はい。懸念していた通り、転職条件の難易度に差があり過ぎたのが、この結果に繋がったのではないかと推測されています」
ISAOにおける戦闘職の転職条件は、その多くが『指定討伐』や『戦闘系スキルの獲得』であり、攻略を進めながらも同時に条件をクリアできる、いわゆる脳筋仕様になっていた。
一方それに比べて、生産職の転職条件は『専門的な学習』や『新分野に関わるスキルの取得』、『非人族NPCとの交流で獲得できるスキル』など多岐に渡り、転職のために遠回りせざるを得ないクエストが占める割合が多かった。
「そうか。あまり各職業の足並みが乱れるとマズイな。バランス調整を入れよう」
「どのように?」
「そうだな。戦闘職は上級職の二段階目、『⑥次職』に上がる条件に、生産職と同じく『NPCとの交流』や『NPC好感度の上昇』、『非戦闘系スキルの獲得』などを増やし、難易度を引き上げると共に遠回りをさせる」
「『⑥次職』のタイミングでよろしいのですね?」
「ああ。既に転職者がかなり出ているからな。一方で、生産職は職業に応じて、『⑤次職」または『⑥次職』に上がる達成条件を大幅に緩和しよう。間に合うか? 技術班は、どうかね?」
「はい。今からなら大丈夫かと。支援系神官職はどうしますか? 正規ルートは、やはりかなり厳しい条件ですが」
「……そうだな。あれは対象者が1名しかいなかったよな?」
「そうですね。彼一人です。現在は、『⑤次職』への転職クエストの最中ですね」
「その現在進行形の転職クエストに、手を加えることは可能かね?」
「具体的には?」
「補助スキルの投入だな。あの職業は、確か『学習』や『好感度』の項目が多かったと思うのだが」
支援系神官職・正規ルートは、いわゆる神官としての出世コースだ。「そのような高位聖職者は、リアルでは相当に高い教養を要求され、日々習得に励んでいる」……それを前提として転職条件を揃えたため、非常に「学習」に偏った条件に設定されていた。
また、「好感度」についても、「民衆を導く聖職者はこうあるべき」という考えから、他の職業に比べ、かなり厳しく設定されていた。
「はい、そうです。今後も『学習』の占める割合がかなり多いので、このタイミングでの補助スキル投入は妥当だと思います。『好感度』設定については、彼の場合は問題なさそうですが、基準値の引き下げか、補助イベントの追加が必要ではないでしょうか」
「正直、リアル過ぎてゲーム要素が、ほぼ無くなってしまっていますよね。よく頑張ってますよ、あの彼」
「なにしろ口コミ評価が、『VRシンデレラ』・『写経師』・『礼法教室』ですから。人気ランキングの影響もあり、第二陣・第三陣でも彼に追随するプレイヤーは、かなり少ないと予想されます。いても数人ですかね」
攻略サイトで必ずといっていいほど行われている人気ランキング。
支援系神官職(正規ルート)は、『育成に魅力がない職・上位ランキング』の常連であった。野良ルートにしても、野良パーティでの扱いの悪さや、戦闘系神官職や魔法系神官職に対して、支援能力の面で、期待したほど大きく差をつけられない……という理由で、『お買い損な職業ランキング』にたびたび顔を出すほど不評であった。
「レイドでも活躍してるだろう?」
「いやあ。レイドの華は第一に魔法職の広範囲殲滅魔法、第二に物理戦闘職による特攻ですよ。どんなに活躍しても、そちらに目が向けられてしまいます」
「支援職自体のアピールも、まだまだ足りないということか」
「そうですね。次のPR用動画に入れてみますか?」
「……ふむ。彼の転職クエストやレイドの動画は残っているかね?」
「はい。転職クエストのインスタンスエリアでの動画は保存してあります。貴重なクリア映像ですから。レイドも同様に保存されているので、編集は可能です」
「一人でもクリアしてくれる人がいてよかったよ。あれの製作、かなり気合入ってたから、お蔵入りしたら担当者モチベだだ下がりだった」
「では、支援系神官職は、正規ルートは現在の転職クエストに『学習補助スキル』を投入。『⑥次職』へ上がる条件も緩和。野良ルートは、上級職になった際のステータス強化・スキル強化を検討し、『⑥次職』に上がる条件も緩和。具体的な案が出来上がり次第、報告してくれ」
「転職クエストに関しては、これでいいか? では、次に『遊戯コンテンツの評価』に移ってくれ」
*
「プレイヤーへのアンケート結果、及び遊戯コンテンツの利用状況をまとめましたので、こちらをご覧下さい」
先月の解放以降、遊戯コンテンツである『渚ビーチ』の利用者は、順調に伸びていた。海の家ショップでのアイテム販売数も同じく順調で、更なるコンテンツの追加、販売アイテムの種類の追加などの要望が多く寄せられていた。
「追加希望コンテンツは具体的には?」
「まず、渚ビーチが非戦闘エリアであるという点に、高い評価がついています。攻略に関心が低く、生産や生活を主プレイとするユーザーが利用し易い。リアルが忙しくてログイン時間があまり取れないユーザーが気軽に利用できるといった理由からです」
アンケート結果では、
・『旅行先でしか体験できない』
・『機材の準備が必要』
・『リアルでは危険が伴うのでできないが、VRでならやってみたい』
・『費用が高くて気軽にできない』
……といった、興味はあるが現実では様々な理由で実現が難しい遊戯への要望が多く、具体例をあげると、
・ウォータースポーツ: スキューバダイビング・水上スキー・パラセイリング・ウィンドサーフィン・ボート競技・カヌー・渓流下り
・スカイスポーツ : パラグライダー・バンジージャンプ・スカイダイビング
・ウィンタースポーツ: スキー・スノーボード・ボブスレー・ジャンプ競技・アイススケート
・上記以外のアウトドアスポーツ: 乗馬・ライフル競技・ラジコン操作・山登り・ロッククライミング
このように多岐に渡っていた。
「既に導入している『イルカと泳ぐ』についても、もっと触れ合う場所を増やして欲しいという声が多数寄せられ、『釣り』に関しては、釣り場の追加・アイテムの拡充・非戦闘エリアで様々なスタイルの釣りを楽しみたい、といった意見が寄せられています。また、渚ビーチに直結した長期滞在用の宿泊施設の希望も出ています」
「ふーむ。多過ぎるな。本格的にレジャーを楽しみたいなら別のVRゲームをすればいいわけだしな。現実味のあるのは、どれになるかね」
「早く導入できそうなのは『乗馬』ですね。現在の仕様では、馬モンスターをテイム後、牧場で【乗馬】スキルを取得するクエストを受けられるようになっていますが、その条件を緩和し、テイムしていないプレイヤーでも、レンタル乗馬が出来るように拡張することが可能です。同様に、『イルカとの遊泳』も規模の拡大が可能です」
「では、その二つは導入で」
「あとは何がいいかねぇ」
「『釣り』ですかね。侵入不可エリアを解放する必要が出てくるかと思いますが」
「そうだな……クワドラの海岸で磯釣り、魚人の集落近辺で川釣り……なら何とかなるかね?」
「調整にある程度時間はかかりますが、できると思います」
「個人的には『渓流下り』なんか楽しそうだと思うんだがな」
「もし作るなら、そうですね、鉱山のあるハドック山から、王都方面へ流れる川……まだ名称未設定ですが……の経路なら設置出来ると思います。あの川はまだ手付かずですから。設置はだいぶ先になりそうですが」
「第四陣の大型アップデートに間に合うか」
「スケジュールを確認してみます。無理なら第五陣のときでも宜しいですか?」
「うむ。その方向で頼む」
「第三陣までは滑り出しは良好だが、第四陣で総プレイヤー数がほぼ倍になるからな。MAPの拡張と先行プレイヤーの移動は必須案件だ。その面ではどうかね?」
「ユーキダシュは、その受け入れのために大きく作りましたからね。転職絡みのクエストを数多く設置したので、今のところ移動は順調です」
「王都への移動はどうだ?」
「今のところ少ないです。攻略組の一部のパーティが移動しましたが、それ以外に大きな動きはありません。ですから、仕込んだイベントが始まれば、しばらくは時間を稼げると思います」
「そうだな。もうしばらくは王都で足止めを食ってもらわないとな……」
◇
《ピコン!》
ん? なんだ?
《スキルを取得しました。》
【J 辞書l(聖)】INT+5 MND+5
繰り返し読んだ書物(職業・職業クエストに関係するもの限定)を参照出来る。
付箋・検索機能・My note機能(キーボード、タッチパネル利用可能。校正機能付き)・プリント転写機能。
えっ! ええぇ───っ!
マジ! おぉ! ヤバイこのスキル。
キーボード……本当に出てきたよ。すっごい驚いた。いきなりゲーム要素投入なんだもんな。
これはつまり、文書編集に特化したパソコンってとこか。
気軽に文書編集できて、紙に転写もできる! 何度も直筆で書き直さなくていいとか、なんて素晴らしいんだ!
鬼畜とか言って悪かった。運営、ちゃんと考えてるんだな。
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