32 湖の街 ユーキダシュ
しばらく「真珠狩り」をしてガッポリ稼いだ俺たちは、次の街「ユーキダシュ」に向かった。
「クワドラ」と「ユーキダシュ」の間は、草原が広がっていて、羊や馬に似たモンスターが出る。
馬モンスターは、テイムすると騎乗したり馬車を引かせたりすることができるらしくて、騎士や商人を始め、前線組のプレイヤーたちも、日々テイムに励んでいるそうだが、俺たちにはあまり関係がない。
なぜかというと……。
「乗り合い馬車」があるからだ!
*
マップが広く開通したことで、「乗り合い馬車」が実装された。
凄く便利。
移動時間が、かなり短縮できる。だから、ギリギリまで真珠狩りをして、馬車で移動した方がトータルでは稼げるって計算になった。
帰りは狩りをしながら行くけどね。
それは、もちろん羊や馬の素材GETのためだ。羊毛や良質の皮が取れるらしい。俺は肉が目的だけど。馬刺しかタタキ。羊は串焼きかシチュー、ジンギスカンもいいな。あまり臭くないといいな。
「お客さん、もうすぐユーキダシュに着きますよ。降りる準備をしておいて下さい」
本当に早いな。もう着くのか。「ユーキダシュ」……「副都」ってわざわざ付いているのが気になるね。どんな街かな? 楽しみだ。
*
冒険者ギルドで調べたところ、「ユーキダシュ」の街は、かつては政治の中心地である「王都」だったそうだ。
例の怪物によりシーナ海峡が遮断され、この街からは、他国との交易船が行き来するモーリア海へ出られなくなってしまった。そのため、王都は現在の場所へ遷都。
それ以来、ここは「旧王都」あるいは「副都」と呼ばれるようになった。
「アラウゴア湖」という大きな汽水湖の湖畔にあり、その湖が白鳥の渡来地として有名なため、「水の都」とか「白鳥の都」って呼ばれることもある。
また、旧王都なだけあって、街自体がとても大きく、さらに歴史も古い。「学問の塔」や「魔術の塔」、「錬金術の研究施設」や大きな「図書館」もあるらしい。見て回るだけで大変そうだ。
そして、当然のことながら……「神殿」も
今、目の前にある建物がそれなわけで……マジ半端ないっす。
「東京ドーム」何個分? そういう単位。
今いる神殿前広場だけでも、野球場くらいのサイズがあるのに、それが小さく見える……ってどういうこと?
柱の太さがまるで「屋久杉」。ここにいると遠近感狂うわ。
ユーキダシュの大神殿に行くって言ったら、クラウスさんが紹介状を書いてくれたのも、これを見たら納得。ヤバイ…こんなところ、宿屋の代わりにしてもいいのだろうか?
でも、紹介状をわざわざ書くってことは、ここに転職クエストか、あるいはそれに必要な何かがある可能性があるわけで……。
よし! 腹をくくろう!
……一旦ログアウトして、休憩してからな!
*
はい。で、ログイン。
正面から行ってもいいのだろうか? 通用口とか、ありそうだけど何処だか分からない。焦る。
そうだ! あの守衛さんに聞いてみよう!
「あの、すみません。ちょっとお伺いしても宜しいでしょうか?」
「はい。なにかお困りですか?」
「私は、ユキムラと申します。ジルトレのウォータッド大神殿に所属している者です。今日からしばらく、この街に滞在致しますので、こちらの神殿の責任者の方にご挨拶をさせて頂きたいのですが、お取り次ぎを願えますでしょうか?」
「それはよくいらっしゃいました。紹介状か何か、お持ちでしょうか?」
「はい。こちらにウォータッド大神殿のクラウス副神殿長からの手紙を持参しております」
「では、そちらをお預かり致します。ただいま休憩室にご案内致しますので、そちらでしばらくお待ちください」
ふぅ。なんとかなりそうだな。
この「アラウゴア大神殿」のトップは、ハウウェル首座大司教様だった。面会を無事? 済ませて、この広大な施設を別の人(接客係のウェルズ司教)にひと通り案内して貰った。
凄いの一言。
荘厳で壮大な「大聖堂」を中心に、数多くの施設が配置されている。
大聖堂の正面入口に面した東側には、厳粛な雰囲気の「エントランスホール」と、巨柱で囲まれた「神殿前広場」がある。それぞれ、体育館、野球場サイズだ。
エントランスホールの両サイドには「騎士詰所」。
南側に「謁見ホール」、その奥に「宝物館」と「広間」が数箇所。
北側には、大・中・小3箇所の「礼拝堂」と、「控えの間」や「道具部屋」が幾つかあり、
更にその北側に、神話的彫刻で装飾された「大噴水」と、それを囲むように、美術館のような幾つもの「ギャラリー」(絵画やタペストリー、陶磁器や聖具を展示)が建っている。
そのほかにも、「歴史博物館」に「工房」に「図書館」まである。
そして、ギャラリー館の東側には、大通りのような広々とした「中庭」。さらにその先に、「施療院」と「神官寮」があり、それらと隣接する「食堂・厨房」を挟んだ北側には、「騎士寮」と「騎士訓練所」がある。
どれもこれも広い。
そして、各建物・部屋の間には、数々の壮麗な彫刻で飾られた「大回廊」や移動のための「小回廊・階段」が張り巡らされていて、まるで迷路のようだ。
また、これらの施設群の西側には、東京ドーム4-5個分くらいはあるんじゃないだろうか?
整然と区画分けされた広大な「庭園」に散策路、点在する瀟洒な館が幾つか。
そして、「学舎」。
……そう学舎だって。
「学舎」=上位神官になるために各神殿から学びにくる施設。
はい。当然、俺もここに放り込まれました。クエストですか? クエストですね。
……っていうか、生徒、俺だけ?
なんで?
もっといるよね普通? だって学舎だよ、学舎。学舎と書いて「まなびや」と呼ぶ…なんだから、そこには学生が、つ・ど・わ・なきゃ。
共に学ぶNPC学友とか用意してくれてもいいんじゃないの、運営!
……えっ?
他にも学生はいるけど、貴族の子弟ばかり?
海峡が分断されて以降、王族も貴族も新王都に移ったから、その子弟も新王都の大神殿での修業を希望?
大神殿といっても、ここより狭くて格式も低いんですけどね、ってなんか鼻息荒くなってきたよ、大丈夫か? ウェルズさん。
というわけで、しばらく「ユーキダシュ」に滞在することになった俺。
他の仲間はというと、「錬金薬師」を目指すアークと、「魔道具職人」を目指すトオルさんも、ここユーキダシュで転職絡みのクエストが発生したらしくて、それが終わるまで、しばらくこの街に滞在するそうだ。
一方、他の3人は、ジルトレの周辺エリアで転職クエストが発生することが分かり、狩りをしながら一旦ジルトレまで戻ることになった。「肉」は、後でバフ菓子と交換してもらおう。
*
今、俺は「図書室」にいる。
街の「大図書館」でも、神殿の「図書館」でもなく、学舎にある「図書室」に。
司書はいないので、課題リストを見て、自分で本を探さないといけない。
「俺専用ワゴン」とやらに順番に本を積んでいくと、山のようになった。
そして、そんなに本を集めて、何をしているのかというと……。
分厚い「王国歴史書」や「神学歴史書」を始め、「教義書: 総論・各論」・「神殿儀式大全」・「儀式礼法の意義と役割」・「神学体系論」・「聖典原著解釈」・「神殿法」・「神学的人間論及び社会倫理」・「美術・音楽・建築に現れる信仰の表現」……といった本を1冊1冊目を通し、レポートを書いている真っ最中。
リアルでレポート提出、ゲームの中でもレポート提出……今週、それしかしていない気がする(泣いていいよね、これ)。
……はぁ。終わらない。
アークとトオルさんも似たような状態だって言ってたし、仕方がないか。また
厳し過ぎるよな、ISAO。
先行組によれば、上級職になると、それまでよりも相当強化されるので、転職に関わる苦労はちゃんと報われるらしい。
俺が、今ここでしている苦労も、きっと報われる……はず。そうだよな! 運営!
……そうは言っても。
レポートの後は、暗記地獄・礼法地獄が待ち構えている。神殿に居て地獄とは、これは如何に……だ。
◇
気分転換に街に出て来ました。
まず、白鳥を見に湖畔まで行き、餌売りから餌を買って、ばら撒く。
ほれ、ほれ。餌だぞ。
……白鳥が寄って来た。可愛い奴らだぜ。
うぉ! 寄り過ぎだって。慌てるな! 群がるな! 餌は沢山ある。ほれっほれっ!
……なんか、こういうことしたの、久しぶりな気がする。
家族で上野に出かけた時、不忍池の鴨に餌をやったのが最後だったかな。
池畔の売店で餌を買って、どんな餌が入ってるんだろうって期待して餌袋を開けたら、インスタントラーメンを砕いたのが入っていたので、ビックリした覚えがある。でも、食いつきがいいのなんの。ラーメン美味いんだな、鴨も。
*
さて、癒されたところで、次は市場に行くか。これだけ大きな街になると、市場も一つ二つじゃない。
ユーキダシュの街は、北東から南西に流れる川を境に南北に二分されていて、その川の中心部にある中洲状の島が、「旧王城」エリアだ。
そこを中心に同心円状に環状道路が走り、整然と区画分けされている。
・旧王城の対岸、北側の半円が北1区と呼ばれる「旧貴族街」。
・その外側の北2区には、東から順に「学問の塔」を含む「学究エリア」と「錬金術研究所」があり、
・北に走る北大参道を挟んで「大図書館」。その隣に「円形広場」と「大歌劇場」。
・そして、西端に「魔術の塔」を含む「魔術エリア」がある。
・北大参道は、そのまま北に進むと北3区にある「大神殿」にたどり着く。
大神殿の東側と西側は「商業エリア」。
でも、ここは参拝客相手の土産物屋や飲食店に宿屋、または高級品を扱う店ばかりなので、俺が行くのはさらに外周の北4区にある市場。
隣の北5区から街壁の向こう側に出れば、もう湖は目の前だ。
ちなみに、川の南岸の南1区には、北と同様に半円形の高級住宅街があり、そこから始まる南大参道を進んだ南3区には、「大修道院」がある。
「大修道院前広場」の両側には、「冒険者ギルド」を始めとする各種「生産ギルド」が立ち並び、その周辺には複数の市場や冒険者相手の各店舗、飲食店、宿屋など賑やかな街並みが続く。
本当はそっちに行きたかったんだけど、遠すぎるので断念した。
「アラウゴア湖」は汽水湖なので、スズキやヒラメ、カレイなどの海水魚に加えて、ニジマスやヤマメ、ワカサギなどの淡水魚も市場に並んでいた。海老や蟹類も数種類あり、シジミもGETした。
プレイヤーが行けるのは湖岸までで、釣りは出来ても船はまだ出せないらしい。
……でも、これだけあれば、いろいろ作れるな。まとめて買っておこう。
川魚は串を打って塩焼き。海老のクリームスープとワカサギの天婦羅。生野菜のサラダ。うん、美味しそう。
・虹桜の鱗舞・至福のひととき 星聖塩仕立て
・クレーム・ド・ラングスティーヌ 天使の囁き
・鰙の天婦羅 黄金の煌き 清香の木の芽を添えて
・翠緑の競演 輝光のオランデーズソースとともに
……相変わらず……っていうか、パワーアップしてないか!?
もう開き直って、聖属性付与は大盤振る舞い。もちろん聖水もザブザブ使用。そして、調理の腕はメキメキ上昇。
だから、味が美味しければいいんだって!
◇
「そっち行ったぞ!」
「任せて!」
〈ドスッドスッ!〉
〈ザシュッ!〉
「よし! いっちょあがり」
「だいぶ集まったわね。これだけあれば、当分いいかしら?」
「そうだな。俺たちも転職クエストを受けに帰るか」
「今頃、あの3人、どうしているかな?」
「トオルからメールが来たけど、やっぱり大変らしい。『魔法陣刻印』を学ぶ前に、『魔術言語』を習得する必要があるんだそうだが、読むのも書くのも難しくて、苦戦してるそうだ。Sスキルを取れば学習補助機能が働くみたいで、取るかどうか悩んでたぞ」
「『Sスキル選択券』の使い所は悩むわよね。トオルさん、魔法系スキルも取っていたから、枠に余裕がないでしょ?」
「そうみたいだ。複合的な職業は、スキルのやりくりが大変そうだな。俺は、まだかなり余裕があるが」
「俺もだ。まだこれから何があるか分からないから枠は空けておくけどな」
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