『トラップだらけの鉱山ダンジョン』

 鉱山ダンジョンへパーティでやってきた。


 道中は、新しく手に入れた【金牙狼】で楽しく亀転がしをしていた俺だったが、鉱山ダンジョン内では主に支援に回ることになる。


 というのも、このダンジョンは一種のトラップダンジョンになっていて、崩落や落盤に毒ガスの噴出など、怪我や状態異常を負うリスクが非常に高いからだ。


「ユキムラ、頼りにしてるぞ。俺は掘って掘って掘りまくるから、フォローをよろしく!」


「はい、任せて下さい!」


 やけにテンションの高いガイさんは、【S採掘】を持っている。その他に、鍛治師ならではの職業スキルである【J山師の心得】を持っていて、鉱脈探査は得意とするところだ。


「プレイヤーでも種族がドワーフなら、トラップの心配がない安全な坑道に入れるんだよな?」


「そう聞いている。いわゆる種族特典ってやつだ。だけどドワーフプレイヤーは数が少ないから、採掘量が少なくて市場にまでは出回らない。全くよくできた仕様だよ」


 鉱山ダンジョン内には、ドワーフが管理している現役の坑道と、劣化した古い坑道があり、俺たちが入るのはもちろん後者になる。


 このゲームならではのリアル追求がなされていて、坑道の内部は湿度は100%、気温は15℃くらいと、ジメジメしているのに薄寒い環境らしい。


「それで、具体的にはどんなトラップがあるの?」


「聞いてきた話では、まずは『崩落』だ。大小様々な岩が落ちてくる。酷い時には岩盤がドカーンで、そうなるとまず助からない」


「うへぇ。圧死とか嫌なんですけど」


「そこでみんなに配るのが、このダンジョン限定の救命アイテム【身代わりの組み紐ミサンガ】だ」


 そう言って、ガイさんがみんなに綺麗な糸やビーズ編み込まれたミサンガをくれた。


「すぐに装備してくれ。このアイテムは使い捨てだから、残りHPが1以下になるダメージを受けると壊れる。予備は沢山持ってきているから、幾つか渡しておくな」


「つまり、このミサンガがトラップによるダメージを全部引き受けてくれるってこと?」


「いや。これは死に戻りを防いでくれるだけで、残存HPは1になる。だから、直ちに回復する必要がある」


「いきなりヤバイ話ばかりで、なんか急に心配になってきた」


「大丈夫だ。直ちにとは言ったが、一旦死に戻りを回避すると、その後5分間はダメージを受け付けない。でも、HPを回復しないとろくに動けないから、それを利用して戦闘とかは無理なんだけどな」


「その他のトラップは?」


「次に気をつけるのは『毒ガス』だな。毒の状態異常でHPを削ってくるものがほとんどだが、麻痺・衰弱・混乱も時々ある。タチが悪いのは引火性の毒ガスで、うっかりすると爆発ダメージを受ける」


 うわっ! 狭い坑道で爆発ダメージは嫌だな。


「それで終わり?」


「いや。一番怖いのが残っている。『滑落』だ。落盤によるものもあれば、通風目的の竪坑という縦穴に誤って落ちると、大怪我じゃ済まないダメージを受けて死に戻りリスクが非常に高い。救助を待つ間は、ほぼ動けない状態で一人になるし、落ちた先が水没していたら溺れるリスクもある」


「なんだよそれ!」


「しかし安心してくれ! そういったときのために、これを身につけておくように」


 そう言ってガイさんがまたまた配ったのは、やはりこのダンジョン限定アイテムである【九死に一生環】という細い腕輪だった。


 これも使い捨てアイテムで、ダンジョン内で死に戻りした時に、ダンジョンの入口までHP1の状態で戻してくれるそうだ。


「俺、ずっとユキムラの側にいようかな。それなら滑落した時も助かりそうだし」


「えっ! アークったら。それってもしかして、キョウカちゃんのライバル宣言?」


「そんなわけないでしょ。ただ一人だけ脱落するのは嫌かなって思っただけ」


「キョウカ、よかったわね。まだ独り占めできるって」


「な、何言ってんの。ちょっと時と場所をわきまえなさいよ!」


「ほーっ。わきまえたら言ってもいいのか」


「ガイさんまで! もうっ!」


「はいはい。ダンジョン内には危険がいっぱい。気を引き締めて行こう! ユキムラ、みんな頼りにしているけど、だからこそ、脱落しないように第一に自分の身の回りに気をつけてくれよ」


「分かりました」


「ダンジョン内では、迂闊に壁や柱に触るなよ。崩落の危険が増すからな」



 *



 入る前の話が効いたのか、全員が慎重に坑道内に侵入した。鉱石は、そこだけはゲームらしくリポップがあり、一度採掘された鉱脈でも、時間が経つと再生する仕様になっている。


 坑道内の地図も簡易的なものだけど入手済みで、俺たちは順調に採掘を進めていた。


「ここって、モンスターって出ないんだな」


「いや。遭遇頻度が低いだけで、いないことはないらしいぞ」


「何が出るんだ?」


「一番デカいのは熊らしい。あとは鼠や蛇かな」


 採掘しながら雑談もする余裕が出てきた頃。


「やだっ!」


「キョウカ、何があった?」


「足に蛇が」


 声に驚いて振り向くと、キョウカさんの足首に小さな蛇が噛み付いている。


「とってやるから、そのままじっとしてろ!」


 キョウカさんが蛇を振り払おうとするのを静止して、トオルさんが蛇を踏んづけて押さえ込んだ。


 噛み付いて離れない蛇を、短剣で刺して倒す。


「毒がついてる」


「ブーツを履いていても毒がつくのか。厄介だな」


「キョウカさん、【毒中和】」


 慌ててキョウカさんにスキルをかける。


「ありがとう。トオルさん、ユキムラさん」


「ユキムラ、ガイさんにも【毒中和】をかけてやってくれないか? あとHP回復も。蛇は俺が倒すから」


 ガイさんの方を見ると、足首どころか背後のあちこちに小さな蛇がパクパク食いついている。


「あれって気づいてないの?」


「分からん。気づいていないのか、知っていて無視しているのか」


 採掘に夢中になって蛇を放置した状態になっているガイさんを身綺麗にして、その後も採掘場所を転々と変えながら、大量の鉱石を入手することができた。


 途中、何度か危ない目にあったけど、ミサンガのお陰でなんとか乗り切り、脱落者を出さずに済んだのが幸いだ。


「ガッポガッポだぜ。くーっ! これで何を作ろうかな」


「貴金属は俺に売ってね。希望があればご注文も受け付けるよ」


 やる気満々のガイさんと、かなりやる気のトオルさんを囲んで、俺たちは帰路についた。

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