23 トリム解放クエスト

 

 季節は夏!


(※注意! ISAO内は、エリアごとに気候設定されています。)


 メンテナンスが明けて、予告されていた湾岸エリアへの道が開通した。トリム解放クエストも近い内に始まるはずだ。


 それに合わせて、俺は思い切って装備を一新してみた。強化してもらったものもあれば、新しく作ってもらったものもあるが、一部のアクセサリを除いて、ほぼ丸っと入れ替わった。


 ……かなり貯金が貯まっていたんです。はい。


 何しろ、相変わらず衣食住はタダだし、司教になって以降は、金額はあまり大きくはないけれど、給料も貰っている(大司教になってちょっと増えた)。狩りにもわりとマメに行き、その際、消耗品はほぼ使わない(自分で治せるから)。


 塵も積もれば、結構な山になっていた。


 そして、素材提供と引き換えに、割安で作ってくれる生産者のフレがいる。もう依頼するしかないよね!みんな腕が上がっていて、凄くいいものを作ってくれた。感謝!



 で、解放クエストの概要はといえば、


 始まりの街からほぼ真西にしばらく進むと、海岸線が見えてきて、第三の街トリムに行くことができるようになった。トリムは、ジルトレよりは規模が小さいが、活気のある賑やかな漁港で、海水浴ができるような砂浜もある(これ重要!)。


 ところが最近は、1日に何回も大波が押し寄せてきたり、近海に大渦が発生して海が荒れたりして、漁に出られない日々が続いている。


 波が静かなときを見計らって、危険を承知の上で漁に出ても、漁獲量がかなり減っていている上に、不意の高波で難破する船が後を絶たなかった。


 そのため、仲間とともに辿り着いたトリムの街は、街全体が意気消沈していて、精彩に欠けていた。


「イベントとはいえ、せっかく来たのにこれじゃあな」


「海産物を食べられなくてがっかり。楽しみにしていたのに」


「とりあえず、冒険者ギルドだな。ギルドでイベント関連情報が出ていないかをチェックしたら、一旦解散だ。各自、用を済ませたり、街中で聞き取り調査をしたりして、その後、食事をしながら情報をまとめよう」


「了解です」


「承知」



 *



 俺たちは、ギルドの資料室で、「海図鑑 素材編」と「海図鑑 魔物編」、更に、街とその周辺のマップを閲覧した。


 ギルドには真新しい情報は特になく、いつ、何をきっかけに解放クエストが始まるのか、まだ全然予測がつかない。まあ、海が荒れているっていうから、海の怪物とかが相手なのかな。


 解散後は、ざっとNPCショップのチェックをしたんだけど、どこも品薄状態で、これといったものは見つからなかった。どうも、クエストが終了しないとダメっぽい。


 それから、俺は街の神殿を探して訪れた。



「ようこそおいで下さいました。お会いできて光栄です、大司教様。私は、ここ『碧耀神殿』の神殿長を務めるマーロウと申します」


「こちらこそ、お会いできて嬉しいです。しばらくの間、お世話になります。よろしくお願いします」


 今夜の宿を確保。うん、マーロウさんは、朗らかでフレンドリーな感じだね。居心地が良さそうでよかった。


「ところで、風のたよりに聞いたのですが、大司教様は大変素晴らしい料理の腕をお持ちだそうで。ご迷惑でなければ、是非一度、我々もご相伴に預かりたいのですが」


「それほどまでに仰るなら。今夜は外で食事する予定なので、明日以降、機会があれば厨房に入れると思います」


「それはそれは楽しみです。通常であれば、当神殿でも盛大に歓待の宴を饗したいところなのですが、街中があのような様子ですので、うたげ等は慎んでおりまして。大変申し訳ありません」


「いえ、お気遣いなく。ここに来るまでに街の状況は見てきました。私は、泊めて頂けるだけで十分ありがたいと感謝しております。早く、事態が好転するといいですね」


「ええ。何が原因か分かると良いのですが……」



 *



 夕食時、他のみんなが泊まっている宿の食堂に集まった。


「よう、何か分かったか?」


「ダメね。特にこれといった話は聞けなかったわ」


「同じく」


「この様子じゃ、みんな同じようだな」


 食事をしながらの情報交換。やはりNPCから得られる情報は、あまりなかったみたいだ。


「俺は、依頼品を渡す約束があったんで、前線組に会って進捗具合を聞いてみた。そしたら、トリムの街中じゃあ何の情報も上がってこないから、これから試しに大渦の偵察に行くって言ってたぜ」


「それって、沖合いまで行くってことでしょ? 移動手段はどうするのかしら?」


「鳥人族の斥候がいるから、まず上空から大渦周辺の様子を見に行って、波の具合が良さそうなら、湾岸から潜って、接近できないかを試す。その間に、別の班が船を調達できないか聞いて回るそうだ」


「調達って、船を丸ごと雇うのか?」


「残念なことに、それはできない仕様になっているらしい。NPCの船主をあたったが、全員に断られたそうだ」


「厳しいな。じゃあ、買うなり造るなりして船を入手して、自分たちで動かすしかないのか?」


「ところが、それにも問題があるそうだ。船を動かすには、『操船』スキルを持ってないとダメらしい。だから、スキルを取得するか、スキル持ちのNPC船員を雇うかなんだが、それが見つかっていない」


 なんだかいろいろ大変そうだな。


「手詰まりか。打開策はあるって?」


「今は、どこかにそれ関連の小クエストが転がっていないか、周辺エリアを含めて、人海戦術を展開中だそうだ」


「ふーん。なんだか今回はじれったいな」


「話が進まないのは、解放クエスト開始に必要なフラグを、踏んでいないからとかじゃないのか?」


「それも見込んでの人海戦術らしいぞ。何か分かったら、俺たちにも声をかけてくれるそうだから、今は期待して待っているしかないな」


「そうだな。俺たち後方支援組は動きようがないしな。朗報を待つだけだ」


「しばらく待ちか。早く来過ぎたかもな」


 そうして、俺たちはトリムの街で待機することになった。



 ◇

 


《冒険者ギルド会議室》


「さて、早速本題に入りたいと思う。各クランの皆さんには、調査に快くご協力頂き、大変感謝する。まずは、その集めた情報を情報担当者から報告してもらおう。始めてくれ」


「ではまず、こちらのマップをご覧下さい」


 正面のスクリーンに、周辺の広域地図が映し出された。


「赤いマーカーが街や集落、黄色が既に開通済みの道を示しています。遠征調査の結果、ここ『トリムの街』から、海岸沿いにしばらく南下したところに、『ハイナル』という村を見つけました。……ここです。そして、この村で情報収集を行ったところ、イベントの手掛かりと思われる話を聞くことができました」


「やっと手掛かりを拾えたか。手間が、かかり過ぎだぜ」


「はい。もう一度、こちらのマップをご覧下さい。村からさらに南西方向に進んだところに、『ジーク岬』と呼ばれる切り立った岩壁があります……この尖った場所ですね。そして、その岩壁から見下ろした海底には、数十年前から、凶悪な怪物が棲みついていると、村人たちは言っていました」


「海底の怪物か……」


「その怪物のせいで、『ジーク岬』と、その対岸の『トリキエ岬』の間の『シーナ海峡』には、日に何度も大渦が発生し、船舶の航行を妨げているとも。ところがここ最近は、渦潮の発生がすっかり鳴りを潜め、波が穏やかな日々が続いていて、村人たちも不思議がっていました。以上が、『ハイナル』で得られた情報です」



「続いて斥候班から報告を頼む」


「では、斥候班から。上空から海の様子を確認しました。渦潮の発生場所は、『トリム』のやや北西、この辺りの岩壁沖に集中しています。渦潮の直径は、おおよそ50mから80m。間違いなく大渦です。発生頻度は、日に3回から5回。発生時刻は固定してはいないようでした」


「大渦の上空は気流が荒く、真上からの観察は断念しましたが、ギリギリまで寄って観察したところ、かなり海底深くから渦が生じているようでした。海中からの接近も試みましたが、大渦付近の海中は大荒れで、残念ながら大渦の原因は確認できずに終わっています。以上です」


「次は、船舶調査班」


「はい。では、船舶調査班から報告致します」



 *



「つまり、『操船』スキルは、本来なら小型船ならば比較的簡単に取得できるはずだが、肝心の船がどこにも見当たらないということか」


「造船所は閉鎖中。係留している船の持主には連絡がつかないか、やっと連絡がついても断られる。船倉庫には近寄れない」


「徹底しているな。少しは船関連のクエストが引っかかってもいいと思うのだが」


「怪物の正体も手がかりも少な過ぎる。一体どこにフラグが隠されているんだか」


「海の怪物っていうと、メジャーどころは『クラーケン』『リヴァイアサン』『アスピロゲドン』あたりだが、ここの運営のことだから、ちょっと捻ってきそうだよな」


「蛸、鰐? 魚? いや、亀だったっけ? それ以外っていうと、鯨の怪物とかどうだ?」


「ペルセウスにメドゥーサの首を見せられて、石にされた奴が鯨じゃなかったか?」


「『ケートス』だな、それは。可能性はあるかもな」


「候補があり過ぎて絞れないか。その『ハイナル』村には、その言い伝え以外に、手がかりになりそうなものはないのか?」


「ないですね。可能性があるのは、今回、村へ行った調査メンバーの中に、フラグ回収の対象者がいなかった。……つまり、調査メンバーに入っていなかった生産職や支援職、あるいは芸能職でしか起こらないフラグが用意されているというケースです」


「ふむ。検討の余地はあるな。どこも行き詰まっているしな。少しでも可能性があるなら、試してみるとするか」


「知り合いの生産職パーティが、『トリム』まで来ているから、声をかけてみるよ」


「知り合いって、誰だ?」


「細工職人のトオルとその仲間。パーティを組んで来ている。パーティメンバーには、他に皮革職人、裁縫師、薬師、鍛治師、そして『神殿の人』がいる」


「あと足りないのは、料理人、木工師、吟遊詩人、踊り子、楽師…そんなものか?木工師は、造船クエストを探している連中の中にいたはずだな」


「俺にも心当たりがあるぜ。新しい街だっていうんで、『営業』出来ないか様子を見にきている『劇団』にフレがいる」


「よし、では『第二次ハイナル調査隊』に向けて、メンバーを集おう。今挙がった職業のプレイヤーたちへの声かけと、同伴する戦闘職メンバーの招集だな」


「海方面への斥候班も、引き続き調査を続けてくれ。なにか新しく判明したら、随時報告をよろしく頼む」



 ◇

 


 ……と言うわけで、今俺たち調査隊は、トリムの南方にある村、『ハイナル』に来ている。


「よし! みんな、まずは村の住人からの聞き取りに回ってくれ。先ほど決めた通り2班に分かれ、それぞれに情報員が1名つく。前回の調査と比較して、変化が生じたら記録。もし新しいクエストが発生したら、メールで作戦班まで連絡すること」



「どうだ?」


「前回に比べて、『ジーク岬』の話題に触れるNPCが増えていますね。なかでも、『昔は、怪物を鎮めるために生贄を捧げていた。』とか、『風に乗って女性の歌声が聞こえてくる。』などは、前回なかった発言です」


「『ジーク岬』へ行けってことだな。では、全員戻ってきたら出発するぞ」


 聞き取り調査の結果、次の目的地はジーク岬になった。まるでRPGだ。攻略組は、こういうのに手慣れているみたいだけど、いつもこんな感じなのかな? いい手がかりが見つかるといいけど。


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