22 大型アップデート*

《The indomitable spirit of adventure online (ISAO)のユーザーの皆様にお知らせします。


 ◯月◯日0時より6時まで、システムメンテナンスを行います。

 メンテナンス終了後には、大型アップデートを行い、以下の項目が実装されます。


 ・第三の街「トリム」解放クエスト

 ・各種生産レシピの追加

 ・NPCショップでの取り扱い品目の追加

 ・始まりの街西方のMAP「湾岸エリア」追加


  さらに、第三の街を解放後は、砂浜・港の使用が可能になり、湾岸エリアに新たなモンスター・施設・食材・素材が追加になります。


 ※メンテナンス中は、ISAOにログイン出来ません。ログイン中の方は、メンテナンス開始時に、強制ログアウトになりますのでご注意下さい。》


 *


 海か。いいね。


 食事も充実するし、何と言っても砂浜。砂浜と言えば、海水浴。海水浴と言えば……。

 そう、「水着」だ。そう「水着」だ。(大事なことだから二度言う。)


 ISAOは、俺的には、とてもよくできたゲームなんだけど、ひとつだけ不満があった。


 全体的に装備が冬仕立てなんだよな。長袖、長ズボンがスタンダードで、かなり地肌の露出面積が少ない。18禁じゃないし、それは仕方がないんだけど、ちょっと(かなり)寂しい気がしてた。


 でも、解放クエストか(いろんな意味で解放されそうだ)。


 またレイドなのかな?


 湾岸を舞台にしたレイド戦なら、「水耐性」とか「水泳」とか、「水中呼吸」なんかのスキルが必要になる? 「水中呼吸」まではいらないかな?


 装備はどうなんだろう。今まで、ずぶ濡れとかにはなったことがないから、わからないな。


 ……わからないなら、知ってそうな人に聞けばいいよね。


 *


《ピコン!》

《キョウカさん、こんにちは。ユキムラです。お忙しいところ、すみません。


 街解放クエストが実装されることになりましたが、水辺での戦闘にあたって、装備は従来のもので大丈夫でしょうか?

 あと、持っていた方がいいスキルについても、ご存知だったら教えて頂ければ嬉しいです。お暇な時でいいので、よろしくお願いします。》


 *


《ユキムラさん、こんにちは。


 装備についてですが、水中戦をするとかでなければ、今の装備でも大丈夫です。アクセサリで補正すれば、支障なく闘えると思います。

 アクセサリについては、現時点では水耐性上昇効果+の「水精の護符」というのがお勧めなのですが、メンテナンス明けの追加レシピで、もっといいものが出てくるかもしれません。


「水精の護符」は、先ほどトオルさんに聞いてみたら、材料には余裕があるそうなので、希望すれば作ってくれるそうです。今メールすれば、まだ間に合うと思いますよ。


 スキルについては、南東の湖にある「魚人の集落」で、【水泳】スキルを手に入れることができるそうです。私も、トオルさんから教えてもらったんですけどね。


 そうそう。頼まれていた、神官服(平服)の強化版が仕上がりました。デザインは同じですが、素材を一新したので、性能はもちろんですが、色合いや質感などの見た目も向上していると思います。神殿に届けておきますね。またのご注文を、お待ちしております。キョウカ。》


《詳しい情報を、ありがとうございました。トオルさんに、早速メールしてみます。【水泳】は、時間的に行けそうなら、取りに行こうと思います。神官服を楽しみにしています。製作ありがとうございました。》


 トオルさんにメール、これでよしと。


 ……おっ早い。もう返事きた。制作OKだって。間に合ってよかった。返信……で依頼完了。



 ◇



《魚人の集落》


 はい、やって来ました、南東エリアの湖。その名も「ウォータッド湖」。大神殿の名前と同じだね。いや、大神殿が、この湖と同じ名前なのかな。


 なんかいいね、この辺りの景色。大きな湖で、湖面が静かだからか、昼間の明るい陽射しを受けて、山の緑や青い空、そして真っ白な雲が、鏡のように湖に映っていて、とても綺麗だ。


「魚人の集落」なんていうから、「村」っぽいイメージを抱いていたけど、来てみてびっくり。


 こじんまりとしていて小さめだけど、各所に色とりどりの花が飾られたれた可愛らしい家々。近づいてみると、そのサンドベージュ色の外壁には、大小様々な砂礫が埋め込まれていて、どこか温もりを与えてくれる。


 目の前には、そんな家々が立ち並ぶ、美しい町並みが広がっていた。


 それもそのはず。


 この集落は、ISAO中に極少数しかいない、非人族の種族の一つである「魚人族」の、ゲームスタート地点でもある。そのため、集落に隣接する湖には、始まりの街程ではないけれど、あまり強いモンスターはいないそうだ。


 その珍しい「魚人」になったプレイヤーは、第一陣ではなんと、たった1人!

 よほど変わったビルドなんだな。でも、そのプレイヤーからの情報で、第二陣では10人以上の「魚人」プレイヤーが誕生していた。


 この集落は、今やとても人気の観光スポットとなり、飲食店や休憩所なども大変な賑わいだ。


 ……そして、ここで一番人気なのが「水泳講習」。


【水泳】スキルを取るための講習なんだけど、この湖に住んでいる「湖イルカ」の群れが、気が向いたら講習中に現れて、プレイヤーと一緒に泳いでくれるそうだ。



 解放クエストの影響で、俺と同様に【水泳】スキル希望者が増えたが、講習はインスタンスエリアで行われるため、申し込めば直ぐに受け付けてくれる。


 でも、グループで来ている人が案外多いな。俺はボッチだけど。

 こういった、キャッキャウフフ系のクエストだと、ボッチはちょっとわびしい……。


〈ツンツン!〉


 なんだよ、メレンゲ。ん? ボッチじゃない、私も一緒に泳ぐ?


 えっ! 泳げるの? 妖精って。


 *


 ……泳げませんでした。


 もちろんメレンゲが。


 俺は泳いだよ。というか、ガンガン泳がされた。その間、メレンゲは湖イルカに騎乗して遊んでたよ。キャッキャしながらね……(羨ましくなんてないからな! ……嘘。とても裏山)。


 まあ俺も、ちょっとはイルカと一緒に泳げたけどね。


 講習の時は、ウェットスーツを貸出してくれるんだけど、販売もしているっていうので、何かの時のために、1着購入しておいた。


 通常タイプと魚人タイプがあり、どちらにしますか? って聞かれたから、もちろん通常タイプにした(魚人タイプには水泳補正が少しつくらしいが、デザインが気に入らなかった)。



 無事にスキルを取得したので、あとはNPCショップで買い物だ。

 ここには、他の街では売っていない水辺特有のアイテムが、複数取り扱われている。


 ・「源五郎丸」 空気を体内に貯めておける。水中に長く潜っても息が続く。

 ・「イルカ玉」 水泳速度上昇(小)、水中で姿勢を保持できる。

 ・「水蜘蛛の巻物 」水面に立てる。水上を滑走できる。

 ・「水中灯」 水中でも火が消えないカンテラ。


 とりあえずこんなもんか。カンテラ以外は消耗品だから、いずれも余分に買っておこう。

 次は、食材店をチェックするかな。



 ……あれ?


 今通り過ぎた所、店じゃないよね? 振り返って確認すると、看板も何も出ていない建物があった。

 周りの商店より少し大きめかな。特にこれってこともないが、……なんとなく馴染みがあるというか、惹かれるものがある。


 ……ちょっと寄ってみるか。


 *


 扉を、そっと押してみる。内側に簡単に開いていく。


「ごめん下さい。どなたかいらっしゃいますか?」


 ゆっくり扉を開けながら問いかけると、


「旅のお方、よくぞ参られました」


 魚人族と思われる爺様たちが現れた。なんか既視感あるぞ、これ。


「ここは、もしかして聖堂ですか?」


 奥に祭壇のようなものが見える。


「はい、そうですじゃ。旅のお方。ここに立ち寄られたのも、神のお導き。我々の話を聞いて下さるだろうか」



《ピコン!》

《職業クエスト「蜉蝣祭①」が始まります。よろしければ[確定]を押して下さい。》


 ……マジか。不意打ちだぞ。


「六祭礼」は、全部ジルトレの神殿でやるのかと思ってた。油断してたわ。


 えーっと、どうする?


 とりあえず「蜉蝣祭①」だ。「華燭祭」と同じ段取りなら、まだ連続クエストの導入部分で、説明回のはず。


 よし。時間もあるし、いっておくか。


 [確定]ポチっと。


 *


 予想通り、「蜉蝣祭①」はサクっと終わった。


 なんでも、魚人族の集落は、今でこそ賑やかだが、数年前までは閑散としていて、人族との交流もほぼ途絶えていたそうだ。


 ここ「宝湧聖堂」では、十数年前に、ジルトレから招いた大司教が執り行ったのを最後に、「蜉蝣祭」は行われていない(どこかで聞いたような話だな)。


 人族との交流が盛んになったことを契機に、「蜉蝣祭」を復活させたいと思っていたところ、ちょうど俺が現れた……というストーリーらしい。


 うん。この流れ、ゲームっぽい。


「一目拝見したときから分かり申した。あなた様は、さぞ格の高い神官様でいらっしゃるのでしょう。『蜉蝣祭』の開催を、お引き受け願えませんでしょうか」


《ピコン!》

《職業クエスト「蜉蝣祭②」が始まります。よろしければ[確定]を押して下さい。》


 やっぱり、流れ通りだ。


 それじゃあ……。



 ◇

 


 はい。日を改めまして、「蜉蝣祭」当日。


 あれから、一連の連続クエストを順番にこなして、とうとう本番目前です。

 ガッツリ「典礼服」で身を固めて待機中。


「大司教様、準備は全て整いました。お越し頂いてもよろしいでしょうか?」


「はい。では、参りますか」



 夕暮れ時の湖畔。

 陽は既に稜線に隠れ、残照を浴びて黄昏に染まった仮設祭壇を前に、儀式は粛々と進んでいた。


 祝福を授けた「仕掛け燈籠」に、魚人族の住民が、ひとつひとつ注意深く点灯しては、次々と湖に流して行く。


 燈籠は、音もなく湖面を滑り、列を作りながら、緩やかな流れに沿って湖上に広がっていく。それにつれて、湖は薄ぼんやりと明るくなってきた。


 そして……全ての燈籠を流しきり、湖面の大半が、乳白色の灯に染められたとき、


〈 弾けた!〉


 湖上には、あたかも蜉蝣が一斉に羽化したかのような、儚い光が一面に煌めき、まさに幽玄の世界。星空とも違う瞬きを映したその景色は、幻想的な様相を呈していた。


 綺麗だな……。


「大司教様、この度は誠にありがとうございました。おかげさまで、祭礼を滞りなく終えることができました。魚人族一同、感謝の言葉もございません」


「いえ、私は為すべきことを為しただけに過ぎません。先人の皆様、そしてここにいる全ての魚人の皆様に、幸あらんことをお祈り申し上げます」


 よし! 噛まずに言えた (日頃の練習の成果がここに)。


 今回の「蜉蝣祭」も、前回同様にインスタンスエリアで行われたんだけど、クエスト成功の際には、祭中と同様のエフェクトが湖上に現れたそうで、祭終了後の集落内は、プレイヤーたちの興奮のざわめきで満ちていたとかいないとか。



 *──現在のステータス──*


 [ユーザ名]ユキムラ[種族]人族

 [職業]正大司教(格★★)

 [レベル]71[HP]430[MP]290[GP]1630(1540)

 [STR]120【80】=200

 [VIT]115【100】=215

 [INT]115【30】=145

 [MND]490【325】=815(上質な神官服の場合は 770)

 [AGI]100【100】=200

 [DEX]150【0】=150

 [LUK]130【20】=150

 Bonus Point 0


《職業固有スキル》

【戦闘支援】身体強化 精神強化 属性強化 状態異常耐性

【結界】結界 範囲結界 拠点結界 聖籠

【浄化】浄化 範囲浄化 聖属性付与 祝聖(生物に聖属性付与)

【状態異常治癒】毒中和 麻痺解除 衰弱解除 混乱解除・魅了解除

【回復】回復 範囲回復 持続回復 完全回復


《スキル》S/Jスキル空き枠 2

【JP祈祷Ⅵ】【J教義理解Ⅴ】【J聖典朗読Ⅴ】【J説法Ⅲ】【JS疾病治療Ⅴ】

【J聖典模写Ⅴ】【J聖水作成Ⅴ】【J儀式作法Ⅱ(聖職者)】【J礼節Ⅱ(聖職者)】

【J天与賜物Ⅱ(聖職者)】【J聖餐作成Ⅰ】NEW!

【P頑健 Ⅲ】

【S棒術Ⅴ】 突き 打撃 薙ぎ 連撃 衝撃波

【S生体鑑定Ⅲ】【Sフィールド鑑定Ⅱ】【S解体Ⅳ】

【速読Ⅴ】【筋力増強Ⅲ】【調理Ⅵ】【気配察知Ⅱ】【暗視Ⅱ】【清掃Ⅱ】【採取Ⅰ】NEW!

【水泳Ⅰ】NEW!


【井戸妖精の友愛】【聖神の加護Ⅵ】


《装備》

【上質な神官服】/ 【大司教の典礼服】NEW!【大司教の飾り帯(肩)】

【大司教の飾り帯(腰)】

【大司教のローブ】NEW!【金紅狼牙】 NEW!【隼風のブーツ】NEW!

【聖紫銀の胸当て】 NEW!【聖紫銀のガントレット】 NEW!

《アクセサリ》(7+2)/10

【聖典★★★★★】【慈愛の指輪】【銀碧玉のロザリオ】 NEW!【星霜の護符】【ルーンの指輪】【慧惺のロケット】【水精の護符】NEW!

《色妖精(白)》名前[メレンゲ]レベル1[HP]5[MP]5

【妖精の服】NEW!【渾天のドレス(翼)】NEW!【妖精の接吻Ⅰ】NEW!

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