21 常闇ダンジョン

 

 気持ちよくブラックトータスを狩りまくった俺は、早速購入したカンテラを装備してから洞窟の中に入った。


 うん。明るい。これなら大丈夫そうだし、メレンゲにも出てきてもらおう。


 ……パタパタパタパタ嬉しそうだ。


 おやつ? 今はダメだ。後でな。


 常闇ダンジョンは、既に最深部まで攻略が済んでいて、全21階層からなる地下ダンジョンであることが分かっている。そして、アンデッドを中心に、夜行性の動物や、虫に似たモンスターが出ることが知られている。


 ・地下1-5階 スケルトン系 「デュラハン」


 ・地下6-10階 ゴースト系 「ワイト」


 ・地下11-15階 ファントム系 「スペクター」


 ・地下16-20階 グール系 「ヴァンパイア」



 5階毎に、こういった「中ボス」が待ち構えていて、最深部の地下21階が、「ドラウグル」という「ダンジョンボス」がいる部屋だ。


 そして目的の「夜光花」の群生地は、地下12階。地図も買ってあるし、どんどん進もう。



 *



〈ドゴン! ガラガラガシャン! ボゴッ! バキッ!〉


 いったいなんの音かって?


 スケルトンの胸部にある赤い球形の核を、棒でひと突きして壊すと、ガラガラと一気にスケルトンの背骨が崩れる。椎骨のひとつひとつまでバラバラだ。


 でもまだ肩関節に繋がる上腕骨とか、股関節に繋がる大腿骨なんかは動いていて、這いずって近づいてこようとするから、そこを棒で打撃して破壊する。


 結構しぶとい。でも何体か続けて壊している内に、ようやくコツを掴めて、同じリズムで倒すことができるようになった。



〈ドゴン! ガラガラガシャン! ボゴッ! バキッ!〉


 うん、順調。


 数が多いときは、【結界】「聖籠」で分断してから各個撃破してる。



 地下5階まできた。


 ここの中ボスは、デュラハン……有名な首なし騎士のモンスだ。まずあのでっかい黒馬をやっちゃうか。デュラハンの攻撃をかわしながら、馬の足を狙っていく。馬がでかい分、脚も立派でとても太い。だから狙いやすい。



 何度目かの【浄化】「悪霊昇華」! で、……おっしゃ! けた。


 上手くスキルがかかり、ダメージを受けた馬が転倒する。


 そして、思い切り派手にこけたところを、馬と主、2体まとめて拘束だ。



【結界】「聖籠」!



 網目状の光の檻が2体を包み、どんどん集束していって締め上げる。よし、かかった! もうこれで動けない。成仏しろよ!



【浄化】「悪霊昇華」!



 拘束した状態で浄化をかけると、非常によく効く。2体は、キラキラとしたエフェクトを残して、砂が崩れるように溶け、天に昇っていった。


 はい。GPをちょっと使うだけの、簡単なお仕事だったな。



 続いての地下6-10階は……もちろん、何の問題もなく通過。


【範囲浄化】【範囲浄化】【浄化】【浄化】【範囲浄化】【浄化】……そんな感じ。



 *



 さて、もう地下11階だ。


 あまり、どの階も変わらなかった。本当に俺と相性いいね、ここ。


 そして地下12階。地図を見ながら、目的地である群生地に直行した。



 これが夜光花か……。


 ぼんやりと滲んだ光が、辺り一面に広がっていて、まるで光の絨毯のようだった。


 光の色は、花一輪だけだと白く見えるが、こういう風に集まった姿を眺めると、薄っすらと緑色の燐光を纏っているのが分かる。その様は、とても幻想的な感じがして、綺麗だった。


 おっと! いけない。採取しなきゃ。


 念のため、【結界】「拠点結界」を張っておこう。俺以外に誰もいないから、囲っちゃってもいいよね。



 〈プチプチプチプチ…プチプチプチプチ…〉


 1本1本、丁寧に夜光花とその中に紛れている星辰草を摘んで行く。雑にやると品質が下がっちゃうからな。


 〈パタパタパタ〉


 〈プチプチプチプチ…プチプチプチプチ…〉


 〈パタパタパタ〉


 こらっ! おやつを食べながら飛ぶんじゃない! 行儀が悪いぞ。


 〈プチプチプチプチ…プチプチプチプチ…〉


 〈プチプチプチプチ…プチプチプチプチ…〉


 〈プチプチプチプチ…プチプチプチプチ…〉



 よし! 「花摘み」終了。


「夜光花」100本+余分に20本で合わせて120本。「星辰草」は、依頼表に20本ってあったけど、これも余分に+5本で25本。


 せっかくだから、地下15階の中ボス、「スペクター」を倒してから帰ろう。



 ◇



 常闇ダンジョンからの帰り道、林の向こうから……


「ねえ、もう帰ろうよー。無理だよ、私たちじゃ」


「嫌よ。せっかくここまで来たのに。がっぽり稼いでレベル上げて、装備も買うんだから」


「でも、誰もパーティ組んでくれないし、もう回復アイテムも少ないよ」


「ここで帰ったら大赤字でしょ。少なくとも、元は取らなきゃだよ」


「無理だよ。『始まりの街』に戻ってやり直そうよ。ギルドの人も、その方がいいって言ってたよ」


「NPCの言うことなんて、聞く必要なーし!」


 この声……。


 ギルドで話かけてきた子たちだ。語尾を伸ばさなくても、しゃべれるんじゃん。やっぱりね。


 俺も戻った方がいいと思うよ。


 他のゲームはどうだか知らないけど、このISAOは、自分の力で努力した分、ちゃんと見返りがくる仕様になっていると思う。


 だから、パワーレベリングはお勧めできないし、無理矢理どこかの段階をスキップしようとするのも、同様にいただけない。


 まあ、ゲームだから、自分の好きなようにプレイする分には構わないけどね。他のプレイヤーに迷惑をかけないことが前提だけど。


 俺も、俺のやりたいようにやってるし。


 よし! エルザさんに報告だ。「星辰草」、喜んでくれるかな? (NPCなんて言うなよ。女性の素敵な笑顔は、それだけで、ご褒美なんだから。)


 

 *



「ユキムラさん、お帰りなさい。依頼の報告ですか?」


「はい。お願いします」


 やっぱり、癒される。この笑顔! いいね!


「冒険者カードをお預かりしますね。採取品はこちらへどうぞ」

 

 はい、はいのハイっと。


「採取依頼3件。『ブラックトータスの甲羅』50個、品質は、全て標準。『夜光花』100本、品質は、標準80本に良20本。『星辰草』20本、品質は、標準16本・良4本でした。全て買い取りで宜しいですか?」


「はい。買い取りでお願いします」


「では、『ブラックトータスの甲羅』は、1個400Gを50個で合わせて20,000G。『夜光花』は、1本200Gが80本、220Gが20本で、合わせて20,400G。『星辰草』は、1本500Gが16本、550Gが4本で、合わせて10,200G。合計50,600Gになります。報酬はギルドカードに振込になります。カード履歴を、ご確認下さい」


「はい。確かに」


「ユキムラさん、今回は急な依頼を受けて下さって、ありがとうございました。また何かあったら、お願いしてもいいかしら?」


「もちろんです。こちらこそ、良い依頼を紹介して頂いて、ありがとうございました」

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