15 「龍が淵」の攻防③

「ユキムラ!前衛に『麻痺解除』!続いて『持続回復』をかけ直してくれ!」


「はい! 了解です」


 レイドボスのHPバーの1本目を削った後は「毒」、2本目の後は「麻痺」、3本目の後は「衰弱」の状態異常がブレスに混ざるようになった。


 さらに、一旦倒しきった取り巻きたちが再召喚され、戦場は一時混戦状態になった。しかし、やっとそのリザードマンを排除し、今は隊列の立て直しをしているところだ。


「ポーション類の補充、持ってきました!」

「こっちに毒消しをくれ!」


 みんな必死だ。だけどワクワクもしている。これでレイドが上手く行ったら最高だな。


「ブレス来るぞ! 結界を頼む! ブレスが終わったら、思いっきり浄化をぶち込んでくれ!」

「了解です!」


 みんなの役に立っている感が凄くって、支援職を選んで良かったって思う。



「ブレス終了! 行けーーーー!!」


 ボスのHPは、既に4本目のバーの半分を切っている。あともう少しだ。


 残りのGPの大半をつぎ込んでいく。溜めて溜めて……溜めて……もうちょい……OK、行こう。


 集中! 大きく息を吸い込んだ。


「【浄化】悪霊昇華ーーー!!」


 浄化スキルを一心に唱える。


 俺の全身から迸る眩い光の奔流が、膨張しながら真っ直ぐに進んで、ドラゴンの大きな頭部に直撃する。ドラゴンは、その攻撃を逸らすことができず、体勢を崩して大きく仰け反った。


 ズゴゴゴォォ!! 跳ね上がる泥と水飛沫に沈むようにドラゴンが倒れていく。見ると、ドラゴンの右側頭部から肩にかけてが大きくえぐれていた。


 よしっ! 残りHPはあと2割くらい。


「射線を開けろ!! 一斉砲撃!!」


 その声を聞いて、騎士団の人たちと共に、急いで外側に退避する。


 退避し終わった直後、後方の魔術班からドラゴンを目掛けて、大規模な火炎魔術が一斉に放たれた。空を焦がし、爆発する花火のように、光が…輝く火の粉が乱舞し、幾本もの光条が交錯する。まるで光の洪水だ。


 …… 凄い……綺麗だ。


 激しい集中砲火が終わると、今度はそれを待ちかねていたように、前衛職の人たちが迷わずドラゴンに突っ込んで行った。


 もうこれで決まるだろう。っていうか決めてくれ!



 何度目になるか判らない剣戟がドラゴンを襲い、貫き、打ち砕いて、HPバーの最後の一筋を削り切った時、巨大なドラゴン『邪霊龍リントヴルム』は、黒い霧のようになって消えていった。


 やった!


 ワッと周りからも歓声が上がる。肩をバンバン叩いて健闘を称え合う。俺も周りの人たちをバンバン叩いて、同じように叩き返された。もうメチャクチャだ。


 ああ、楽しいな。


 こんな気持ちが湧き上がってくるのは、何年ぶりだろう。


 こうして、俺の、そしてみんなの初めてのレイドは終了した。



 ◇

 


「「「カンパーイ!」」」

「「「「乾杯!」」」


 笑顔でグラスをぶつけ合う。


 レイドから撤収した後、俺たちは打ち上げのために始まりの街の酒場に来ている。


「神聖騎士団」の人たちも誘ってくれたけど、彼らは「聖女」さんと盛り上がりたいだろうから、参加するのは遠慮した。


 それに、打ち上げはいつもの仲間とのが楽しめるしね。


「お疲れさまでした」


「いやー。マジ疲れたね。なんちゅう消耗戦。戦闘組も大変だったと思うけど、後方拠点組も凄い修羅場だったよ」


「ポーション類の補充、本当に助かりました。湯水のように消えていくんで、使っている方でも冷や冷やしましたよ」


「そうだろう、そうだろう、感謝したまえ」


「やだ、もう酔ってるの? 確かにポーション系はヤバかったけどね。ポーション瓶が空飛ぶんじゃないかって勢いで、右から左に流れていってたもの」


「そうだろう、そうだろう。いくら感謝されても感謝されたりない」


「お前だけじゃねえよ。鍛治場も修羅場だったさ。ブレス受けるたびにベッコベコになった盾が送られてきて、直しては送り直しては送りの繰り返しだ」


「うん。うん。よく頑張ったね、俺たち」


「ところで頑張った君たち、報酬は何がきた?」


「まだ見てねえよ。何貰えんだよ」


「あらやだ、聞いてよ奥様。この方、そーんなことも知らないのよ」


「奥様じゃないし。誤解されるようなこと言わないでよ」


「怒っちゃやーよ。美人が台無しよ。ユキムラ君に嫌われちゃうわよ」


「何余計なこと言ってるの。ユキムラさん、ごめんなさいね。酔っ払いばっかりで変なことばかり言って」


「あら、ユキムラちゃん、何飲んでるの? ジュース? この状況でジュース? それはないわー」


「おう。駄目だぞ。酒を飲め、酒を。今夜は酔い潰れろ。俺が許す」


「いや、俺、未成年なんで。年齢規制でお酒飲めないんです。すいません」


「あらやだ〜ん。大変、未成年ですって。キョウカどうする? 淫行は犯罪よ」


「なんであんたオネエになってるのよ。さっきから変なことばっかり言うし。酔うの早過ぎよ。ユキムラさん、本当にごめんなさいね。コイツの言うことは気にしなくていいから」


「キョウカがいらないなら、アタシが貰っちゃう。よく見ればいい男……でもないわね。平凡、ものすごーく平凡。これなら、アタシの方がいい男じゃない!」


「だ・か・ら・あんたはユキムラさんから離れなさいよ。変態が移ったらどうするのよ!」


「変態上等〜。一緒に飲もう〜」


「オヤジ! もう一杯。ジョッキで」


「いや〜。明日仕事休みにしていてよかったよ。ここなら肝臓のダメージなしで心置き無く飲めるしね。オヤジ! ここにもお代わり。同じやつ」


「しかし、実際のところユキムラ君にはびっくりしたよ。拠点結界? 凄いねアレ、雑魚モンスが全然入ってこれないの。っていうか、こっちのことを認識しなくなってたよね、アレ」


「うんうん、同感。第一次レイドの苦労は何だったんだって思った。あれさあ、普段の狩りでも超便利じゃね? 休憩の時に張ってもらったら、休み放題」


「睡蓮沼の時も持ってたんだよな? あのスキル」


「はい。今思えばあの時に使ってみればよかったですよね。あの時は持ってるのに気づいていなかったというか、どんなスキルか分かっていなかったというか。まだ試したこともなかったので。すみません」


「いいってことよ。俺だってどんなスキルが生えてくるか、全然わかんないもんな。情報の少ない支援職ならなおさらだ」


「そうよ。これからは助かるんだからそれでいいじゃない。また一緒に狩りに行きましょうね」


「是非よろしくお願いします。今回のレイドで『格★』がMAXになったんですが、レベルが足りなくてまだ転職できないんです」


「ちなみに今レベルいくつ?」


「57です」


「じゃあ、あとレベル3ね。割と強い敵がいるところに行かないと、もうレベルは上がりにくいわよね。どこがいいかしら?」


「もう素材、スッカラカンだしな。葉っぱと石は特に足りないから、そのあたり優先で回るか」


「ユキムラさんがいるから、アンデッドエリアもどんと来いよ」


「だったら、あそこにするか。北の森林の『墓陵ダンジョン』。浄化スキルをバンバン使ってもらえれば、ユキムラ君のレベルはあがるし、俺たちも採取に専念できる。葉っぱも石もゴロゴロあるしな」


「オッケー。決まり。次はアンデッド退治な」


「ユキムラさんは、都合は大丈夫?」


「はい。もう試験は終わったんで。しばらく時間には余裕があります」


「学生さん?」


「はい、そうです」


「まさか高校生じゃないわよね。あっ、ごめんなさい。プライベートなことを聞いて。嫌なら答えなくていいから」


「いえ、大丈夫です。高校生じゃなくて、大学生です。なったばかりですけど」


「わっかーい。10代? ねえ、10代なの? お友達に合コン好きな女の子いない? 女子大生。社会人との合コンに興味ある子。いたら紹介……ブッ。何殴ってんだよ、痛いじゃん」


「痛くないでしょ、アバターなんだから。ユキムラさんに迷惑かけない。ごめんなさいね。本当にこの人バカで」


「ひっで。ユキムラ君との態度に大違い。異議を申し立てます」


「当たり前でしょ。変態には変態相応の対応が……」


 こうして楽しくも騒がしい夜は更けていった……。



*──第一章 始まりの街 [了]──*


お読み頂きありがとうございます。

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引き続き第二章も更新していく予定です。よろしくお願い致します。



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