10 神殿②

《ピコン!》


 ん? お知らせ? いや違う。フレンドメールが来たみたいだ。


《ユキムラさん、こんにちは。キョウカです。お忙しいところすみません。今回の緊急レイド関係で、神殿のことで調べて欲しいことがあります。お願いできますでしょうか?


 具体的に言うと、


 ・聖水の販売可能個数・値段

 ・上級聖水の販売個数・値段

 ・上記物品は一括購入で割引きがきくか 以上です。


 お分かりになる範囲で結構ですので、手が空いた時にでも調べて頂けると、大変ありがたいのですが。》


《はい。いいですよ。いつまでにお知らせすればよいですか?》


《ありがとうございます。なるべく早くとは言われましたが、レイドに参加しないユキムラさんに無理を申し上げるのは恐縮なので、ユキムラさんのご都合で大丈夫です。》


《分かりました。聖水販売担当者に聞いてみますので、分かり次第メールでお知らせしますね。》


《はい。よろしくお願いします。


 ところで話は変わりますが、この間言っていた布がとうとう手に入ったんです。


「シルバースパイダーシルク」で織った上質な生地で、試しに聖水を使って地直ししてみたら、それだけでMND+がつきました。聖属性ととても相性が良さそうです。


 神官服を試作した時と同様に、また生地に聖属性の付与をお願いしたいのですが、可能でしょうか?


 今度はもっと気合いを入れた上質の神官服を作ってみせます。デザインとかはもう決まっているので、あとは布だけなんです。もしよろしければ、ご都合のよい日をお知らせ下さい。


 P.S. 聖属性付与って金属製武器にも出来ますか?》



 *



 キョウカさん、凄い意気込みだったな。今俺が着ている神官服にも聖属性が付与されていてMND+がついているんだけど、+5が精一杯だった。


 布の服だからVIT+5は仕方ないにしても、MND+が二桁いかなかったっていうのは、生産者としてはとても悔しかったみたいだ。


 それにしても、デザイン……ちょっと不安。


 神官服を作ったとき、最初にキョウカさんに見せてもらったデザイン画は、かなり華美な感じでキラキラしていたから、シンプルに、できるだけシンプルにして下さいって頼み込んで変えて貰ったっていう経緯がある。地味顔の俺にキラキラは無理だって。


 じゃあ、顔が派手ならいいのかって言うと……、現実世界の俺の顔? ……うん、無理。非常に落ち着かないから無理。インチキ占い師みたいになりそうだ。やっぱり俺って庶民なんだな。



 それにしても、レイドには直接参加しないけど、こうして陰ながら協力できるのは嬉しいかな。だって、聖水作ってるの俺だし。


 大司教様を除けば、この神殿の司教クラス〜助祭の中では、俺が一番MNDが高い。ダントツに高い。最初は1本1本作っていた聖水も、今はまとめて一気にGPを込めて大量生産している。


 だって、その方が早く済むし。ビンに詰めるだけなら、神官見習いの子供たちでもできる。実際、ビン詰め作業はとても人気がある。楽だからね。それに水遊びっぽいし。NPCだけど。


 そして、聖水をまとめて作れないか試していたとき、加減が分からなくて思いっきり気合い……というかGPを込めて聖水を作ったら、「上級聖水」っていうのが出来た。うん、ゲームだね。


 それを見た大司教様とか聖水販売担当の司教様が、なんだか凄い興奮して、ぼったく……いや、より高く売れるって喜んでくれた。もしかしてお金に困っているんだろうか?


 あんなに高いの、誰が買うのかな〜って思ってたけど、売れるみたいです。レイド様様。

 需要を作ってくれた運営の人たち、ありがとう。


 あ、友達価格が可能か聞いてみなきゃ。





《生産ギルド》


「ユキムラさんから返事がきたわ。通常の聖水は100本まとめて買うと、10本のおまけ付き。上級聖水は、20本買うと1本おまけで付けてくれるって」


「1本いくらだっけ?」


「通常の聖水は1本200G、上級は1本2000G」


「随分と高いな上級聖水。値段10倍か」


「注文する量にもよるけど、本数はかなり確保できるみたい」


「通常の聖水は修道院からも買えるから、神殿には上級聖水を主に注文するのがいいかもな。修道院にも値引きは打診中みたいだし」


 *


「付与の方はどうだ?」


「武器は分からないけど、金属製の食器には付与出来たそうよ。聖属性のスプーンってありがたい気がしなくもないけど、ちょっと微妙ね」


「ほぅ。食器にはできたのか。武器にも是非試してもらいたいところだな。金属製武器に聖属性がついたら、今回のレイド、だいぶ成功率が上がるぞ」


 βテストの時には作製できなかった「聖属性付与武器」。今回も、アンデッド系モンスターに対して特効になるそれらの武器の生産を望む声は多かったが、まだ作製に成功した者はいなかった。


「うん、なのでお試し用の武器をいくつか見繕ってもらえる? ユキムラさんに渡してくるわ」


「おう、分かった。銀・鉄・鋼の鉱石も持って行ってくれるか? 武器に直接、聖属性がつけられない場合でも、おそらく鉱石にはつくだろう。食器につくんだからな。そしたら何とかなるかもしれない」


「そうね。ついでに布や糸もお願いしちゃおうかしら。裁縫道具につけてもらうのもありかもしれないわね」


「人使い……いや、ユキムラ使いが荒いな。いいのか? 好感度が下がっちゃうかもしれないぞ」


「んもう! NPCじゃないんだから、好感度ってなによ。それにユキムラさんは、そんなことで人を嫌ったりしないわ。とても懐が深い人だもの。あ・な・た・と違ってね!」


「ひでぇ。俺ほど心の広いやつは、なかなかいないって、評判なんだぞ」


「誰に?」


「彼女」


「えーっ。ガイさん、彼女いるんすか?その顔で〜!」


「アバターだっちゅうの。本当の俺はこの10倍はかっこいい! それに彼女は嘘だ。そのくらい察しろ!」


「10倍じゃ、今とあんまり変わらないんじゃ……」


「うるせぇ! さっさと作業に戻れ!」


「へーい」

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