11 「神聖騎士団」

 

 始まりの街の中心部近くにある大きな宿。赤茶色の煉瓦作りの外壁に青々とした蔦の絡まる、その辺りでは一際目を引く洒落た宿屋である。


 その一室の扉をノックする騎士姿のプレイヤーがいた。彼は先ほど、冒険者ギルドで開かれていた会合から帰ってきたところだった。


〈コンコン!〉


「聖女様、入ってもよろしいですか? グレンです」


「グレンさん? どうぞ、中に入ってらして」


 *


「……それで、会議はいかがでした?」


「概ね予想通りです。βのラスボスを上方修正したもので間違いなさそうです」


「ふむ。運営にしてみれば、労力を省けて都合が良かったんでしょうけど。それにしても今回のレイド、始まる時期が遅すぎるわね」


 βテストのデータの使い回しではないかと予想される今回のレイド。しかし、発生タイミングがβテストに比べてかなり遅く、疑問の声が上がっていた。


「ですね。βでの平均プレイヤーレベルが40〜50。今回は60〜80。それに合わせて相当強化されてくるのではないかと……周りも皆同じ意見でした」


「結局倒せなかったのにね。正式ゲームでの支援職に対するテコ入れも、効果があったとは言えないし」


「相当、期待されているようですよ、聖女様w」


「……聖女じゃないし。なる気もないわ。困るのよね。βと同じようなタイミングでレイドイベが来ると思ってスキルを調整していたのに、こないんだもの。ルート変更しちゃった後で、やっぱり来ますとか言われても。今更よ」



「神聖騎士団」は、神官職を数多く抱えた珍しい構成のクランで、「聖女」と呼ばれる女性プレイヤーの取り巻きと言われる「親衛隊」の存在が周囲の注目を集め、プレイヤー間で取り沙汰されることが多かったのだが……。



「修道院の人材はどうですか?」


「んー。カタリナっていう支援職の正規ルートの子が1人いるけど、彼女、全然フィールドに出て行かないから、レベルが足りないわ」


「育成しては?」


「そう思って誘っても、フィールドには興味ないって来ないのよ。パワーレベリングにも否定的だし。あれは無理ね。……神殿には人はいそう?」


「住人になってるプレイヤーが1人いるようですが、今回のイベントには参加しないとか」


「そう。……やっぱり支援職いないじゃない。βの教訓が全然生かされていないわよね」


「多少緩和されたとはいえ、支援職不遇は相変わらず。聖女様もリタイアするほどですしねw」


「私は元から派生ルート狙いよ。知ってるくせに。正規ルートの支援職が増えないのは、仕様のせい。ジョブ縛りが厳し過ぎだわ。娯楽のためにやってるゲームの中で、地味な奉仕活動を延々と続けるとか、どこに魅力があるのよ」


「同感です」


「炊事に掃除、水汲みとか、まるでシンデレラ。それに聖典模写……小学生の頃やった漢字書き取りを思い出しちゃったわ」


「そんなあなたに誠に申し上げにくいのですが、『聖水作成』をしてくれないかと打診されました」


「無理よ。もう調整が済んでしまったから、これ以上Jスキルは使えないわ」


「ほう。いよいよですか」


「このまま『職業固有スキル』をガンガン使って『格★』が上がれば、転職対象の派生ルートが出てくるはずよ」


「それは楽しみですね。では、私は早速、狩りに行きますので、このへんで失礼します」


「あら、せっかちね。もう少しゆっくりしていけばいいのに」


「ノルマが結構多いんですよ。今回も大量物量作戦が基本ですから」


「毒・麻痺に加えて、アンデッドだと衰弱もつくものね。売ってる側から言うのもなんだけど、聖水って結構いいお値段だし」


「GP回復薬が存在しないですからね。その代わりと思えば、高くはないと思いますよ。そうそう、聖水の一括購入で、割引がきくか聞いておいてくれって言われていたんでした」


「そう、その件については修道院に確認しておくわ」


「よろしくお願いします」


「あなたも、狩りをよろしくね」


「ははっ、ほどほどに頑張りますよ。親衛隊は、レイドが終わったら解散でしょうし。まあ、クランは残すつもりですけどね。『聖女』の次は『美魔女』お姉さんとかどうですか? 新たなファン層を獲得できるかもしれませんよ」


「もうカリスマは必要ないでしょ。普通にやるわ、普通に」


「そうですか。正直、ちょっと残念です。『美魔女』とってもよくお似合いだと思うのですが」


「お世辞は結構よ。団長の人徳でクランは安泰よ、きっと。あなた、だいぶ懐かれてるじゃない」


「いい人材が多いのは確かです。ありがたいことですね。では、行ってきます」


「私は修道院に戻るから、聖水の件についてはメールで報告するわ。じゃあね、行ってらっしゃい」




 *──登場キャラのステータス──*


 [ユーザ名]ユリア [種族]人族

 [職業]祭司(格★★★★)

 [レベル]61

 [HP]300[MP]400[GP]400


 [STR]10【10】=20

 [VIT]115【35】=150

 [INT]145【55】=200

 [MND]145【55】=200

 [AGI]45【35】=80

 [DEX]120【0】 =120

 [LUK]50【10】=60

 Bonus Point 0


【戦闘支援】身体強化 精神強化

【結界】結界 範囲結界

【浄化】浄化 範囲浄化

【状態異常治癒】毒中和 麻痺解除

【回復】回復 範囲回復


【JP祈祷 Ⅱ】MND+20 LUK+10

【J教義理解Ⅱ】INT+10 MND+10

【J聖典朗読Ⅱ】MND+10 LUK+10


【J聖典模写Ⅰ】DEX+5 MND+5

【J聖水作成Ⅱ】DEX+10 MND+10


【S杖術Ⅰ】 打撃 STR+5 INT+5

【S火魔法Ⅱ】INT+10 DEX+10

【S風魔法Ⅱ】INT+10 AGI+10


【P魔力操作Ⅱ】INT+30


【S歌唱Ⅱ】MND+10 LUK+10

【SMP回復上昇Ⅱ】INT+10 LUK+10


【速読Ⅲ】INT+15【清掃Ⅲ】DEX+15【保育Ⅱ】VIT+10


【祭司のローブ】MND+20 耐久∞

【聖典★★】MND+20 耐久∞

【魔樫の杖】STR+10 AGI+10 INT+30 耐久300

【魔狼のブーツ】VIT+10 AGI+10 INT+10 耐久200

【修道服】VIT+5 耐久∞

【魔狼の胸当て】VIT+20 AGI+10 INT+10 耐久300

【魔銀のブレスレット】AGI+5 INT+5 耐久200

【慈愛の指輪】MND+15 LUK+10 耐久∞


 〔修道院の位階〕

 ①修練女★★★★★

 ②祭司★★★★★→③???★★★

 ③主教★★★

 ④大主教★★★

 ⑤首座大主教★★

 ⑥総大主教★★

 ⑦聖女★

 ⑧教皇★

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