09 湿地帯の主
前線組による索敵調査の結果、湿地帯の奥深く「龍が淵」と呼ばれるところを中心にレイドモンスターが多数沸いていることが分かった。
「龍が淵」か。いかにも何か
今回のレイドに関して、生産パーティのみんなはどうするのか聞いてみた。そうしたら、前線組の知り合いに後方支援を頼まれていて、レイドに参加して全面的にバックアップすることになりそうだって返事が返ってきた。
一緒に参加しないかって声をかけてくれたんだけど、みんなが後方支援に行ってしまうんじゃな。
俺だけボッチで戦闘参加はどうかなっていうのと、神殿の仕事が忙しかったのもあって、残念だけど緊急レイドへの参加は見合わせることにした。
聞いたところによると、緊急レイドには「修道院の聖女」って呼ばれている有名なプレイヤーが参加するらしいので、俺なんかはお呼びじゃないだろうし。
それにしても「聖女」!
それって、あだ名? それとも位階? 位階だとしたら、凄いね。「聖女」って、どうやら大司教様よりずっと上に位置する位階らしいから。
その「聖女」が所属しているのは、「神聖騎士団」というわりと前線組に近い立ち位置の大きなクランなんだって。最前線組はレベル80を超えている(凄い!)らしいから、それより少し下っていうと、「聖女」もレベル70とかあるのかもしれない。
前線で闘う神官っていうのには凄く憧れるけど、俺には俺のゲームの楽しみ方があるので、現状に不満はない。け、決して負け惜しみなんかじゃないからな!
◇
《冒険者ギルド会議室》
会議室には、レイド攻略の話し合いのために、数多くのプレイヤーが集まっていた。集うのは、大手から中堅クランの各代表者と、各生産ギルドからの代表者が数名。
「さて、皆さんお揃いのようなので、早速話し合いを始めたいと思います。司会進行は、不肖ながら私、『黒曜団』クランマスターであるレオンが務めさせて頂きます」
どうやら、βテスト時代から攻略を牽引していたクランの面々が、今回も動いたようだ。
「最初に、湿地帯の調査報告を情報クラン『賢者の集い』のクランマスター、ハルさんからお願いします」
「皆さん、こんにちは。只今ご紹介にあずかりました、ハルと申します。まずはお手元の資料をご覧下さい」
*
「つまりレイドボスは、おそらくドラゴンゾンビあるいはその近縁種。取り巻きもおそらくアンデッド系、雑魚モンスターは水系毒・麻痺持ちってことか」
「となると、βのリベンジマッチってとこですかね」
「あのまんまじゃあないだろうがな。プレイヤーのレベルも当時よりだいぶ上がっているし、装備も向上している。それなりに強化してくると見るべきだろう」
β時代の最後にもあった湿地帯レイド。今回のレイドイベントは、βテストの締め括りとして発生したそのイベントを、彷彿とさせるものだった。
「状態異常対策が面倒だな。装備に耐性をつけるにしても完全には防げない。大量の『毒消し・痺れ消し』が必要だし、持続ダメージもかなりくるはずだから、『回復薬』も潤沢に必要だ」
「ボスと取り巻き対策にも生産職の協力は不可欠だな。武器・防具に火属性・光属性の付与、投擲アイテムの作成、魔術師用の『MP回復薬』。ドラゴンならブレス対策も重要だ」
「あと『聖水』の準備もね。『聖水』も終盤にどれだけ使うか分からないから、これも大量に確保する必要があるわ。修道院や神殿で購入するほかに、神官さんたちが作れるんだったかしら?」
対策に必要な物品が次々とあげられていく。
支援系神官職の少なかったβテストでは、生産組の協力の元、大規模な物量作戦が展開された。そして失敗。今回は、その経験を踏まえ、さらに周到な準備がなされようとしていた。
「司祭以上なら【聖水作成】というスキルで『聖水』を作れるはずですね。ただ、修道院・神殿産の方が効果が高いらしいです。特に、最近神殿で売り出され始めた『上級聖水』は強力だと聞いています」
「『上級聖水』? それ初耳。神殿だけ? 修道院は?」
「修道院では販売してないですね。修道院にいるプレイヤーに聞いてみたところ、作っていないそうです」
「そうか。では、神殿か。あまり出回っていない品のようだし、どのくらい用意できるのか確認する必要があるな」
アンデッド対策として必須の『聖水』は、神官系Jスキルで作成する以外に、修道院や神殿の物販所でも購入することができる。
物販所の製品は、プレイヤーメイドに比べて、より品質が保証され、安定した効果が得られたが、その供給量には限りがあった。
「フレが神殿にいるから調べてもらいましょうか?」
「おう、よろしく。そのフレンドさんはレイドには参加しないのか?」
「今回は参加しないみたいですね。いつも忙しい人だし」
「そうか、残念。じゃあ、調査だけお願いできるか? 『聖水』の購入可能数、特に『上級聖水』について。値段と、一括購入で割引きがきくか。なるべく早めに返事を貰えると嬉しい」
「了解しました」
「じゃああとは、生産職同士で生産品の分担の話し合いを続けてくれ。部屋はそのまま使って大丈夫だ。戦闘組は、早速素材の確保へ。さっき決めた班分けに従って行動を始めてくれ。報告はメールで情報ギルドの担当者まで。忘れずに頼む」
「では、一旦解散」
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