05 フィールドへ

 


 だいぶゲームにも慣れてきたので、外へ出てみた。


 やってきたのは、初心者向けの東の草原だ。ここは、15センチくらいの青々とした短い丈の草が、芝生みたいに一面に生えている、あまり障害物の置かれていない広い原っぱだ。適正レベルは1


 ……いやだって仕方ないでしょ。神殿のお務めをしてレベルこそ上がっているが、それ以外はチュートリアルからほぼ変わっていない。まだ初心者装備だし、当然のことながらお金もない。



 ゲーム開始時に貰える資金は、3000G(1G=10円くらいだから、約3万円)。神殿にいればお金はかからないが、収入もないんだ。「司教」以上になれば給与が出るらしいが、今は無給。


 一応、武器屋や防具屋も覗いてみたが、3000Gじゃあ【初心者の棒】以上の武器には手が届かなかった。防具も欲しいのは高くてとても無理。


 ソロだし、この装備じゃレベル相当のフィールドやダンジョンへ行くのは無謀としか言えない。だから、ここで地道にGを稼いで装備を揃えるんだ! ……と改めて気合いを入れ直して狩りを始めた。




 東の草原に出るモンスターを調べたところ、[角兎][角袋鼠][角犬鼠]。概ねこの3種類。


 いわゆる兎、カンガルー、プレーリードッグになる。この3種類については、冒険者ギルドで採取依頼(※討伐依頼ではない)が常時出ているので、それらを全て受けてきた。おそらく初心者救済のための依頼なんだろうけど、俺だってフィールド初心者だしな。


 この際、全く使っていなかった【S生体鑑定Ⅰ】【Sフィールド鑑定Ⅰ】も鍛えなくては。



 *



 フィールドには、一見モンスターの姿は見えないので、早速【Sフィールド鑑定Ⅰ】を使ってみる。


 MPが2減ると同時……見えてきた。


 〈草原〉〈草原〉〈草原〉……の中に▽(下向三角)の橙色のアイコンを幾つか発見。ノンアクティブの敵性反応を示す印だ。


 その▽のひとつに、姿勢を低くしてそっと近づく。いた!


 これは、角兎みたいだな。見かけは、普通の兎の5倍くらいの大きさがある。体毛は白くてフワフワ。そして額には槍みたいな一本角。これが結構長い。30cmくらいはありそうだ。刺さったら、いかにも痛そうな感じに尖っている。


 今度は【S生体鑑定Ⅰ】を使用してみた。MP−2。


 〈角兎 レベル1  HP10/MP0 状態:健康 草を食べている〉


 これなら、一撃でいけるかな?狙うのはもちろん急所。両手で棒を持ち直し、角兎をめがけてスキル技を放った。


【棒術Ⅱ】[突き]


〈ドスッ!〉棒の先端が勢いよく兎の身体にめり込む。


 身体が大きいので狙いはつけやすかった。太い首を狙って突いたら、一撃で角兎が倒れて動かなくなった。


【S生体鑑定Ⅰ】MP−2。


〈角兎 レベル1 HP0/MP 0 状態:死亡〉


 ……仕留めたみたいだ。レベルだけは高くて、ステータスが上がってるから簡単だね。


 そうして観察している内に、角兎はキラキラ光になって消えた。アイテムボックスをチェックすると、〈兎の皮(小)〉が増えてる。うん、いかにもゲームって感じだ。



 雑魚モンスターを倒した場合は、通常はこういう風にドロップアイテムを残してすぐに消えてしまう。もし素材を丸ごと欲しいなら、【S解体Ⅰ】あるいは【解体】という一般スキルが必要になる。


【解体】は、始まり街の「屠殺場」で訓練を受けると取得出来ると聞いたが、これがかなりリアル描写でグロくてヤバいらしい。嘘か本当か知らないが、緊急ログアウトレベルだとか。それに、スキル取得までに数もかなりこなさないといけないので、こちらではなく【S解体Ⅰ】を取る人が主流なんだそうだ。


 いずれかの【解体】スキルを持っていると、モンスターの死体は時間が経っても消えずに残る。


 それを手動で捌くと、全ての素材が手に入る。それが面倒なら、〈解体ナイフ〉を使用すれば、素材が複数(3〜5個)ドロップして手に入る。たいていの人は〈解体ナイフ〉派だって聞いた。


 ちょっと素材がもったいない気はするけど、俺はスキルなしでいいや。だって援護職だから、パーティを組んだ時は止めは戦闘職が刺すだろうし。それに、選択スキル枠は少ないから余裕が欲しいんだ。



 *



 実は「司祭」に上がったら、新たにスキル枠が増え、S(またはJ)スキルを2つ選ぶことができるようになったが、ただいまそれは保留中だ。


 ちょっとこれには事情がある。


 その後も順調に東の草原のモンスターを倒して冒険者ギルドに戻った。レベルは少し上がり、素材はそこそこ溜まったかな。精算が楽しみだ。



 [今日の戦果](1つ当たりの換金相場)

 ・角兎の皮 (120G)×12=1440G

 ・角兎の肉 (250G)×10=2500G

 ・角兎の尾 (200G)×1=200G

 ・角兎の角 (40G)×3=120G


 ・角袋鼠の皮 (300G)×6=1800G

 ・角袋鼠の肉 (500G)×8=4000G

 ・角袋鼠の角 (100G)×2=200G


 ・角犬鼠の皮 (20G)×4=80G

 ・角犬鼠の肉 (100G)×3=300G

 ・角犬鼠の角 (10G)×1=10G



「合計 10,650G になります」


 うん、悪くない。こうしてコツコツ稼げば、早いうちに初心者装備からは脱却できる……はず。



 *

 


「神殿」に戻った。


 日課を終えて「調理」を始めるまでに、まだ少し時間がある。先ほど事情があると言ったが、悩んでいるのは、位階が上がって新たに選べるようになったスキルをどうしようかということ。


 実は神殿長様から、


「『施療院』で奉仕活動をしてみませんか? 大勢の街の住民の皆さんが、我々を頼って日々神殿を訪れています。神々の力を民に分け与えることで、住民の方々は、その存在を身近に感じて信仰は深まりますし、我々も功徳を積むことができます。是非お考え頂きたい」


 と、打診されている。


「施療院」は名前の通り治療施設なんだが、街中の施設にわざわざHPの回復をしにくる人はあまりいない。家や宿屋で安静にしていればHPは少しずつ自然回復するからだ。必要になるのは大怪我をした時だけになる。


「毒・麻痺」なんかはたいていフィールドで治してしまうので、これもまずいない。


「呪い・魅了」などの上位職で治せる状態異常は、そもそも件数が少ない。



 じゃあ、何が求められているかというと「疾病治療」だ。


 熱が出たとか、体調不良とか、流行病にかかったとか、どこか痛いとか、そういった状態を改善したり治したり、症状を軽減したりする。


 プレイヤー相手には、今のところ需要はない。お客様は全員NPCになる。


 そして、この「疾病治療」を行うには、当然スキルが要る。


 プレイヤーでこのスキルを取っている人は、俺が知る限りでは誰も見当たらない。神官職でも、戦闘系だと、このスキルはスキル選択肢に出てこないようなので、現状では取れる人がそもそも少ないんだって。


 どうしようかな。フィールド向けのスキルが欲しかったんだけど、こうやって頼られるのも嬉しい。


 このゲームのAⅠはとても優秀で、アイコンを見なければプレイヤーとほぼ判別がつかないくらい、NPCが人っぽいんだよ。



 ……うん、決めた。ポチッと。


 NEW!【JS疾病治療Ⅰ】MND+10 疾病を緩和・治療する。治療効果はMND値・加護・スキルLVに依存。 ※スキル選択により覚えることが出来る。

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