04 神殿①*
神殿に戻ってきた。
「助祭」が受けることができる神殿の仕事(奉仕)は「清掃」「調理」「水汲み」「夜警」の4つ。
いわゆる下働きだ。
「水汲み」は重労働だが、【筋力増強】が生えてくると聞いたから、やってみることにした。
……というわけで、絶賛「水汲み」中。
厨房や浴槽、そのほか神殿内に幾つかある大水瓶へ水を補充。井戸で水を汲んで水桶で運ぶ。
水桶はかなり重い。
1回に運べる量には限りがあるので、何回も往復しないと満水にできない、予想通りの重労働だった。よって、人気がないから慢性的に人手不足だ。
神官職でも、戦闘系なら外のフィールドへ出た方がずっと稼げる。
βで不遇職と評判だった支援系神官職は、修正が入ってもやはりなる人が少ないみたいだ。またその数少ない人たちも、固定パーティを組んでフィールドを回っていることが多いので、「神殿」に入り浸る人はかなり少ない。
「神殿」と「修道院」……男女別っていうのが、より人気のなさに拍車をかけているんだろう。
始まりの街には、「神殿」はここ1箇所しかない。なのに、神殿内で仕事をしているのは現在20人に満たない。この広い神殿に、俺を入れて18人。14人が「清掃」に行って、3人が「調理」へ。
「水汲み」をしているのはつまり俺1人……ハイ、絶賛ボッチ中です。なので、「水汲み」作業が全然終わらない。
……いつまでやればいいんだこれ。
*
「精が出ますね。おかげで十分に水が行き渡りました。神々のお恵みがあなたと共にありますように」
これって、終わっていいってことだよな?
結局、全部満タンにするまで続けた。
1回に2桶ずつ運んで、50回以上往復したと思う。
それでもまだ【筋力増強】は生えてこない。時間がかかるのは分かっていたが、予想より大変だな、こりゃ。
プレイヤーの取った行動の累積によって獲得できる「一般スキル」は、職業によって獲得しやすさに違いがある。
「親和性」って呼ばれているが、分かりやすく言えば「相性」があるんだ。
戦闘系の職業で、重戦士系ならSTR+やVIT+効果のある一般スキルと相性がよく、軽戦士系ならSTR+やAGI+……といった具合だ。
支援系職業である俺は、INT+・MND+ ・DEX+タイプと相性がよく、STR+・VIT+とは相性がよくない。だから、STR+タイプの【筋力増強】は、獲得するまでの行動累積が多く必要になるわけだ。
【筋力増強】はまだだが、かわりに【井戸妖精の注目】なるものが生えていた。
【井戸妖精の注目】取得条件)誰にも邪魔されずに、連続で100杯以上井戸から水を汲み上げる。
井戸から水を汲むのが少しだけ早くなる。水の入った釣瓶を少しだけ軽く感じる。
一旦、これでログアウト。
◇
「水汲み」を続けて1週間、ゲーム内時間で3週間。やっと【筋力増強Ⅰ】が生えた。時間はかかったが、頑張れば取れることが分かってよかった。
【筋力増強Ⅰ】STR+5 取得条件)筋肉に一定以上の負荷をかけた運動を一定期間続ける。
ついでに加護も成長した。
【井戸妖精の応援】VIT+5 MND+5
取得条件)井戸妖精に注目されながら、継続的に大量の水を汲み上げる。
井戸から水を汲むのがかなり早くなる。水の入った釣瓶をかなり軽く感じる。
「水汲み」は大変だったけど、やったかいがあった。頑張った俺。
*
「芋の皮を剥き終わりました。次は何をすればいいですか?」
「あらあら、手際がいいのね。上手く剥けてるわ。じゃあ、次は、それを4つに割って、お湯を沸かして茹でてちょうだい。茹で上がったら芋を潰すから、お湯は少なめね」
厨房のおばちゃんNPCにほめられた。ちょっと嬉しい。
ここに至って、まだフィールドには出ていない。
「水汲み」以外の仕事にも手を出していたからだ。やってみたのは「調理」。台所仕事は、日常やっている作業なので、リアルスキルでサクサク捗った。
途中で人が増えたり減ったり、「神殿」へのプレイヤーの出入りが激しくなった時期もあったが、そのうち、厨房にもそれ以外にも、プレイヤーは俺1人になって、受け持つ仕事の作業量が増えた。
だけど、「水汲み」にかかる時間が短縮されたので、なんとかこなしていくことができた。
妖精さん、ありがとう。
1日何食も作った日があったせいか、3日目には【調理Ⅰ】が生えてきて、6日目には【調理Ⅱ】に上書きされた。相性の他にリアルスキルも関係するのかもしれない。
【調理Ⅱ】DEX +10
調理にかかる時間が短縮される。味に補正がかかり、より美味しい料理が作れる。
*
なんだかまるで神殿に就職したようなログイン生活だったな。
その甲斐あって、NPC神官たちの好感度はおそらく上がってる(隠し要素で数値は目に見えない)。かなり気さくな仲になった。寝食共にしてるのもいいのかな。
【調理Ⅱ】が生えてから周りのNPCの笑顔が増えた気がするのは、気のせい?
現実なら主夫歴6年の俺が作った料理なんて、調理補助のおばちゃん(神官ではない一般NPC)の作る熟練主婦の味の足元にも及ばないだろうが、そこはゲーム補正。
NPCは一部の師匠・教官クラスを例外として、スキルをあまり持っていない。
特に生産系スキルはその傾向が強く、厨房のおばちゃんたちも【調理】スキルを持ってる人はいなかった。
まあ考えたら、高い能力持ちのNPCが沢山いたら、生産職に就くプレイヤーなんて居なくなっちゃうしな。ゲーム仕様として、NPCにはかなり制限がかかっているみたいだ。
こんなプレイを現実世界で3日間、ゲーム内時間で9日間過ごした。
プレイヤーにNPCと間違われることもしばしば。いつも神殿にいるし、NPC並みの地味顔をしているからみたいだ。
◇
ISAOのゲーム内時間の流れは現実時間の3倍速。
日本時間の1日がゲーム内では3日に相当する。基本はこれ。
日本時間24h=ゲーム内時間72h
-----------------------0h
0ー2 ① ⚫︎
2ー6 ①◯
6ー8 ①◉
-----------------------24h
8ー10 ② ●
10ー14 ②◯
14ー16 ②◉
-----------------------48h
16ー18 ③ ⚫︎
18ー22 ③◯
22ー24 ③◉
-----------------------72h
ゲーム内は、太陽が出ている時間帯◯と、月が出ている時間帯◉(●)を概ね交互に繰り返している。ここら辺は、ゲーム都合全開だね。
でも、ずっとこれで固定ってわけじゃなくて、◯と◉の時間帯が入れ替わったり、全日◯の日や全日◉の日など、イベントに合わせて変則的に変わったりするらしい。
神殿では、●の時間帯はNPCは私室に入ってしまって、基本的には出てこない。夜警当番は例外で定時巡回している。
街中だと酒場など夜間営業している店もあるし、冒険者ギルドは24時間営業をしている。
ちなみに、ISAO内には季節の変化はない。基本的にはエリアごとに気候設定されていて1年中変わらない。
*
「夜警」当番。当然やりました。夜時間帯長いし。
【気配察知Ⅰ】気配を少し察知しやすくなる。
【暗視Ⅰ】暗いところで少し見易くなる。
「夜警」当番で手に入るスキルを獲得した。ステータス+効果は残念ながらついていないが、両方とも狩りの時に便利そうなスキルだ。ゲームの仕様上、夜時間帯の狩りも多くなるから、貰えて良かったと思う。
この2つは、フィールドで夜間狩りをすることでも手に入る。
だから、戦闘系神官職で、これを目的にわざわざ神殿にくる人はまずいない。既に持っているか、ついでに取っていくことがほとんどだ。
同期? の神官職の人たちは、早々に取得して、既に神殿から去っている。
*
そしてさらに1週間、ゲーム内では約1.5カ月が過ぎて、
[ユーザ名]ユキムラ [種族]人族 S/Jスキル空き枠 2
[職業]司祭(格★★)
[レベル]22
[HP]130 [MP]70 [GP]250
[STR]30+25+【5】=60
[VIT]45+20=65
[INT]35
[MND]95+15+【15】=125
[AGI]20+35=55
[DEX]45
[LUK]20+10=30
Bonus Point 105→0
スキルはこんな感じ。
【戦闘支援】身体強化 精神強化
【結界】結界 範囲結界
【浄化】浄化 範囲浄化
【状態異常治癒】毒中和 麻痺解除
【回復】回復 範囲回復
【JP祈祷Ⅱ】
【J教義理解Ⅰ】NEW!
【J聖典朗読Ⅰ】NEW!
【J聖典模写Ⅰ】NEW!
【J聖水作成Ⅰ】NEW!
【P頑健Ⅱ】
【S棒術Ⅱ】突き 打撃
【S生体鑑定Ⅰ】
【Sフィールド鑑定Ⅰ】
【速読Ⅱ】【筋力増強Ⅱ】【調理Ⅱ】NEW!【気配察知Ⅱ】【暗視Ⅱ】【清掃Ⅱ】NEW!
【聖神の加護Ⅱ】【井戸妖精の友愛】
《装備》
【見習い神官のローブ(初心者装備)】MND+5 耐久∞
【初心者の棒】STR+5 耐久∞
《アクセサリ》1/10
【聖典★】MND+10 耐久∞ NEW!
BPは、全然成長していなかったAGIに多めに振ってみた。
しばらくソロプレイになる可能性も考えて、STRとVITも多め。MND 、LUKにも少し振る。
位階が上がって「司祭」になったことで、「職業固有スキル」で使える技が増えた。
「職業固有スキル」にはスキルレベルの概念はなく、位階が上がるとこうして使える技が増えていく。スキル効果はMND依存だ。
「司祭になる=見習いは卒業」だからか、「清掃」と「水汲み」「夜警」はしなくてもよくなった。
かわりに神殿業務に「聖典模写」と「聖水作成」が増え、仕事を消化するに伴い、職業関連スキル(Jスキル)が2つ生えてきた。
【J聖典模写Ⅰ】DEX+5 MND+5
【J聖水作成Ⅰ】DEX+5 MND+5
また修行の一環として、「聖典原書」という超分厚くありがたい書物を、毎日「黙読・音読」していたら、
【J教義理解Ⅰ】INT+5 MND+5
【J聖典朗読Ⅰ】MND+5 LUK+5
というスキルも生えてきた。
「棒術」も神殿の修行の一環として、神殿の「武術教練」で指導を受け続けていたので、【S棒術Ⅰ】のレベルも上がった。
「水汲み」は、「司祭」になるまで続けていたら、【井戸妖精の応援】が、レベルⅡの加護【井戸妖精の友愛】になっていた。
結局、清掃もすることになり、【清掃Ⅰ】が生えて、もれなくレベルⅡになった。
【清掃Ⅱ】DEX+10
さらに【聖神の加護Ⅰ】が Ⅱに上昇。神殿の仕事の累積や位階の上昇、【祈祷】のレベルの上昇……の内どれかが条件だったんだろう。
そして装備。
・【聖典★】「司祭」になった際に無料配布された。アクセサリ枠に装備できる。
・【初心者の棒】「武術教練」を続けて【棒術Ⅱ】にレベルが上がった際、教官の司教様がプレゼントしてくれた。ありがたいことです。
俺のレベルの上がりは、これだけしていても正直遅い。
フィールドに出ている人たちは、おそらくもうレベル30は越えていると思う。
でも、神殿の仕事に集中したことにより「格★」が順調に上がり、位階が上がって「司祭」になったから良しとする。まあ、戦闘職の人も、戦闘だけしているだろうから差は縮まらないと思うけど。
そろそろフィールドに出てみたいな。
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