03 チュートリアルと冒険者ギルド登録

 視界が切り替わると、そこは明るく、壁も床も天井もしみひとつなく真っ白な部屋の中だった。


 目が慣れてきた。


 目の前には神官服を着た厳つい壮年の男性が1人いる。これでNPCノンプレイヤーキャラクターなのか? 本物の人にしか見えないじゃん。


「チュートリアルへようこそ。私が君の指導教官だ」


 おお、喋った。見かけを裏切らない落ち着いた声で教官が話を続ける。


「最初に[基本操作]を。次に[職業固有スキル]・[パッシブスキル]・[選択スキル]の使い方について順次学んで貰う。質問は最後に受け付ける」


 操作の後は、順番にスキル説明なわけね。分かった。


「チュートリアルを始めていいかね?」


 もちろんだ。βテスター経験者なら飛ばしてしまうのかもしれないが、俺は初心者だからな。チュートリアルは必要だ。


「はい。お願いします」


 *


 チュートリアルが終了した。チュートリアルで教わったのは、以下の項目についてだ。


 ①ステータス画面の見方と操作。メールやGMコール使用上の注意。

 ②保有スキルの使い方とスキル関連情報。

 ③棒術の訓練。「神殿」の「武術教練」で、訓練の続きができる。

 ④自分のついた職業についての解説(希望者のみ)。


 指導教官は、かなり丁寧で親切だった。人は、いやNPCは見かけによらない。


 職業についての解説は、ここで聞いておくと、タッチパネル上の「ゲーム知識」のところにその項目が追加され、後で読み返せるそうなので、希望して受けておいた。


 うん。ちゃんと増えている。


 また、【JP祈祷Ⅰ】のレクチャー中(実際に祈祷文を何回も読まされた)に、【聖神の加護Ⅰ】MND+10というのがステータスに加わった。


 いきなりピコン! って音がして、加護取得のアナウンスが聞こえた時は驚いたよ。


 チュートリアル中に加護が付いたのは意外だったが、戦闘職以外の職業では、加護を貰える条件が比較的緩めで、最初の加護は俺のように早い段階で付くことが多いらしい。


 各職業でもらえる【◯神の加護Ⅰ】の効果は、関連ステータスの上昇(中)・「職業固有スキル」&「職業関連スキル(J/JPスキル)」の効果上昇(小)などで、ステータスや保有スキル、プレイヤーのとった行動などが必要条件を満たすと貰えるようだ。


 *


 ここで、支援系神官職(男性)の「位階」と「格★」について書く(「ゲーム知識」参照)と、


 ①助祭★★★★★

 ②司祭★★★★★

 ③司教★★★

 ④大司教★★★

 ⑤首座大司教★★

 ⑥総大司教★★

 ⑦枢機卿★

 ⑧教皇★


 このように、位階は8段階あり、それぞれに異なる数の最大「格★」数が設定されている。


「格★」というのは、聞きなれない言葉だが、いわゆるジョブレベルに相当する。


 次の「位階」(=上位職)に上がるには、今いる位階の最大数まで★を取得するのが条件のひとつになっているんだ。


 そして、「位階」は更に2つずつ、4段階に分けることができる。



『①次職・②次職』は下位職と呼ばれ、上げなければいけない「格★」の数が多いが、上昇もしやすい。


『③次職』(ここから中級職)は、職業ルートの最初の分岐点になることが多く、『④次職』以上になると「格★」がなかなか上がらなくなる。


『⑤次職』(ここから上級職)になるには、条件を満たし、特別なクエストをクリアすることが必要になる。


『⑦次職』(ここから最上級職)になるには、非常に複雑な条件を満たすことが要求され、さらに専用の隠しクエストを発生させ、クリアする必要があるそうだ。



 こうして見ると、上げなければいけない★の数がとても多いことに気づく。先は長いな。【JP祈祷】を取っておいて正解だった。


 ……というのも、【JP祈祷】はパッシブスキルだが、同時にアクティブスキル様の性質も持つ。「祈りを捧げる」という行動を繰り返すことでも効果が得られ、それにより「格★」が上がりやすくなったり、時に加護が強化されたりするらしい。



 ◇



 チュートリアルが終わったので、行動開始。


 ここは既に「始まりの街」にある「神殿」内の一部屋なんだそうだ。


「神殿」には、神官職(男性)に限り、神殿内の仕事(無給奉仕)を請け負う代わりに、無料で利用できる宿泊施設がある。


 その仕事を消化することにより、そこそこの経験値を得ることもできるし、関連したスキルを得られることもある。更に賄いも付くので、レベルが低い内はとても助かりそうだ。


 ちなみに、女性には、同様の施設として「修道院」がある。


 なんでこんなに手厚いのかというと、実はβテストでいろいろあったからなんだそうだ。


 *


 βテストの時は、1回限定だが簡単に違う系統の職業に「職業変更」ができた。


 そして「職業変更」の際には、前職で自動取得した「職業固有スキル」も含めた保有スキルの中から、スキルレベルはリセットされてしまうが、ひとつだけ選んで持ち越すことができた。


 その仕様を利用して、【回復】などの支援系神官スキルを持つ、神官職以外の戦闘職が量産された。


 そして、そういったプレイヤーたちだけでパーティーが組まれるのが当たり前になり、支援系神官職がパーティから弾かれるようになるのも早かった。



 支援系神官職だけでは、フィールドでレベルを上げるのも、資金を稼ぐのも共に時間がかかる。


 だから、レベルは上がらない、装備は買えない、宿屋に泊まるので精一杯っていう不遇な状況が珍しくなくなって、ますます戦闘職との差が開いた。


 そして次第に、ビルド変更をして戦闘系神官職に移行したり、神官職そのものを見限って「職業変更」制度を利用する人が増え、支援系神官職を続けるプレイヤーは減っていった。


 その結果生じたのは、ゲーム全体としての支援職の圧倒的不足。そのせいでβ終盤にあったレイド戦では苦戦し、結局レイドボスを倒せないままβテストは終了している。



 *



 そういったβテストでの経過を反映して、正式配信では「格★」が満タンになっていない状態で他職に「職業変更」しても、「職業固有スキル」の持ち越しはできないように仕様が変更された。


 加えて、他系統の職業の「職業固有スキル」を保有していると、中級職に上がる際に、中級職の選択肢に大きく影響が出るようになった(公式HP参照)。



 それでもまだ、β同様の状況が起こる可能性があると懸念されて、支援系神官職でもレベル上げがし易く、さらに資金的にゆとりができるようにと、「神殿」の仕様が修正されたんだそうだ。


 同様の仕様は、神殿以外に生産職の現場でも導入されている。弟子入りって形で住み込みができる様になったんだって。不遇状態が改善されてよかったよかった。



 ってことで、ここには後で戻ってくるが、一旦、街の中に出ようか。ちなみに装備は……


【見習い神官のローブ(初心者装備)】MND+5 耐久∞


 これだけだ。チュートリアルでは、職業に関連した初心者装備をひとつだけ貰える。剣士なら剣、魔術士なら杖、鍛治士なら槌、そして神官はローブ。


 すぐに装備完了。



 *



 入ってくる参拝客とすれ違うように、建物の外に出た。「神殿」は街の中心部の一角にあり、近くに賑やかな商業地区や飲食店、冒険者ギルドもある。


「いらっしゃい! 安いよ!」


「今朝とれたての野菜だよ。お兄さん、買ってってよ」


 市場はかなり賑わっていた。通りすがりのいろいろな露店やお店を冷やかしで覗きながら、冒険者ギルドに到着。ギルド内は、ゲームが始まったばかりとあって凄く人が多い。



 《冒険者ギルドに到着しました。「冒険者登録」が未登録です。登録を希望する方は……。》


 カウンターに並ばなくても、目の前に浮かぶタッチパネルを操作すれば、ギルドホール内で冒険者登録はできるようだ。ポチッと。


 [登録完了]


 同様に依頼の閲覧・受注、パーティ募集・応募もタッチパネル上で可能。カウンターへは、達成報告と自分が依頼を出すときに行けばいいらしい。便利だな。


 ……パーティへは、いずれは参加したいけど、今はやめておく。


 街の近辺の魔物を倒すだけなら、戦闘職なら支援は必要ないし、回復は店で買えるアイテムで事足りる。この段階でパーティに参加すると、寄生プレイって言われてしまう可能性があるからな。それは嫌だ。


 最初は地道に「神殿」でレベルを上げることにする。


 はい。


 堅実な性格ってよく言われます。見た目の印象と違うね……とも。


 見た目の印象というのが気になったが、その辺りはいつもスルーなので突っ込んで聞けなかった。これまで、手堅くて得をしたことはあるが、特にこれといって損をしたことはない。リアルでは。


 ここはゲームだから、いずれは無茶することもあると思うが、最初は俺らしく、堅実に行く予定だ。


 *


「この辺りの植物や魔物の情報を知りたいのですが」


「資料室にある図鑑を参照して下さい。閲覧は無料ですが、部屋からの持ち出しはできませんのでご注意下さい」


 ギルドの資料室で、「植物図鑑(上下)」「動物図鑑(上下)」「魔物図鑑(上下)」を閲覧した。


 時間がかかったが、面白かったし、これで【S生体鑑定】と【Sフィールド鑑定】が使いやすくなるはずだ。これはチュートリアルで教えてくれた。


 一緒に並んでいた「アイテム図鑑」もついでに閲覧して、更に市街地地図、街周辺地図をチェック。


 すると、「アイテム図鑑」を読み終わった時点で【速読Ⅰ】が生えた。


【速読Ⅰ】INT+5 読書の速度が少しだけ上がる。

 取得条件)継続的に一定量の本を読破する。


 初めて生えてきた「一般スキル」だ。


 一般スキルは、プレイヤーの取った行動により生えてくるスキルで、ステータス+効果は「Sスキル」の半分。時によりステータス補正がない場合もある。同じ名前の「Sスキル」と比べると機能制限があるが、Sスキルと違い取得枠には制限がないのが特徴だ。


 これで、ここ冒険者ギルドですることは一旦終了。


 レベルが上がったら改めて採取系の依頼を取りに来るとしよう。




*──備考──*


◆職業名 支援系神官職の職名について

 リアルで存在する職名と同じものが多数登場していますが、ISAO内の宗教は、このゲーム専用の「架空の宗教」なので、教義や儀式、そして職名においても、架空のもの(フィクション)です。他の職種についても同様です。


◆装備 「耐久」表記について

〈耐久∞ 〉という書き方は、数学をされている方からすると違和感があるそうです。

あれ? と思われる場合は、

〈耐久∞〉→〈破壊不可能〉と脳内変換をお願い致します。

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